初めに戻って繰り返す

都山光

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1章:外伝

1章外伝5…その頃の召喚組『迷宮挑戦⑤・1…正儀パーティ』

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正儀は今では愛剣としてまるで体の、腕の一部のように感じている黄金の剣アーティファクト・デステニーを迫り来るオーガに構える。構えるとともに魔力を練る事も忘れない。何時でも魔法を展開出来るようにしているのだ。武技と魔法の両方に適性を持つ正儀ならではの戦法である。
嵐はすっと細める様に迫るオーガを睨む。その手には刀剣アーティファクト・ファルシオンがあり、両手で握り構える。いつでも拙攻として攻められるようにしている。
彩夢はその手に丸い宝珠の付いた杖アーティファクト・ホーリィロッドを強く握り込む。迫って来るオーガのその迫力に負けない様にと、負けない様にと握る。
そして彼らに随伴する騎士ギルバート。
背中まで届く長さの紺色の髪に、180cmで鍛えられた体格に王国騎士の証である鎧を纏っている。そして彼の手には柄の長い戦斧が握られている。戦斧は重量のある武器だ。普通は両手で持つものだが、彼は軽々と片手で握っている。それは彼の力がある証拠だ。

計4名で、此方に迫るオーガ4体と対峙する。
一カ所では混戦となると言う理由でそれぞれのチームは距離を開けている。

「さぁ来るぞ皆。オーガは好戦的で油断ならない相手だ。特に腕力が強く修敏性も兼ねている。だが、臆する事はない。奴は所詮下級のオーガだ。今の君達なら油断さえしなければ遅れはとらないだろう」
「はい!いくよ、嵐!彩夢さんは援護魔法をお願い!」
「はいっ!援護は任せて下さい、正儀君!」
「うむ、油断無く攻めよう…」
(ふふ、この子達は問題はなさそうだ。チーム感もある。俺は出過ぎず彼女の守りに専念しようか)



「波状の光、彼の者達に、守護の守りを、”魔障壁《マジックガードナー》”!!」

彩夢が後ろから正儀と嵐、ギルバートの3人に防御魔法を掛ける。
彩夢の魔法によって3人の身体が淡い光を帯びる。

「うむ、なかなか良い護り。では正儀、俺が戦闘のアレを先制で仕掛け仕留める。援護を頼む」
「無理はしないでね、嵐。俺もサポートするから」

そう告げあったあと、まず嵐が駆ける。
標的は4体のうち最も先頭にいるオーガ。
俊足でオーガに接近すると嵐はファルシオンで斬り付ける。
嵐の俊足に驚くオーガ。しかし好戦的で戦い、と言うより殺戮を好む。つまり戦闘能力が高い故に動揺を殺しオーガはその手の武器である大きな棍棒を振り嵐の刀剣を防ぐ。

「ググルァ」
「今のを防ぐか…」

嵐は内心高揚を感じていた。
「面白い」、そう感じていた。
嵐は、普段は冷静で感情を落ち着かせる。
少なくとも剣を振るう時はそう心に抱かせている。
どんな時でもいつもの冷静な剣を振れるようにと鍛練にて習得していたのだ。

しかしこの迷宮に入ってからは殆どの魔物を一刀の元に切り伏せ倒していた。
この世界に来てから得た剣の腕を確かに実感は出来ていた。しかし、全力の、自分の流派の剣を披露するまでには至らず、何処か物足りなさを内心抱いていたのだ。

だが今一刀の元に切り伏せた今までとは違う魔物がいる。
自分の剣を、早乙女流剣技を存分に振れる。
思わず口の形が笑みになる。

嵐の刀剣と、オーガの棍棒による鍔迫り合い。
少し嵐の方が力負けしているのか徐々に押される。
彩夢の強化魔法を付加してなおの力の差。
しかし嵐は焦っていない。
それは自分の剣は力に頼るものではないからだ。
そう。嵐の剣は力ではなく速さなのだ。

「嵐っ!右からもう一体来てるぞ!」
「っ!?」

嵐は、向かって来ていた内で一番体格のあるオーガの相手をしていた正儀の声に反応し、右から迫るオーガの棍棒を、今まさに押される相手のオーガの力の反動を利用して後方に下がることで2体目の攻撃を躱す。
2体のオーガは瞬時に2体掛かりで嵐に向かい攻撃しようとする。
しかし嵐と2体のオーガの間に雷の雨がまるで壁の様に降り注いだ。
嵐は瞬時にこの雷が誰のものか分かった。

「大丈夫かい、嵐!」
「ああ、大丈夫だ。助かった…」

正儀に感謝を告げると、敵に意識を切り替えると刀剣ファルシオンを瞬時に構える。嵐のその構えは刀を納刀し構えている様であった。居合い抜きを放つ態勢である。
無論実際に刀剣を鞘に納めているのではない。
そのように構えているだけ。

嵐の構えに警戒を示す2体のオーガ。
いや。…嵐だけでなく、先の雷撃を仕掛けた者に対してもである。

『ウガアァ!』
「おっとっ!…」
「…わかった」

大柄のオーガの攻撃を躱した正儀からアイコンタクトを受ける。
嵐はそれをしっかり受け取った。
頷きと共に返す。

「雷の雨よ、降り注げ、”ライトニングシャワー”!!」

正儀は手を嵐達の方にのみ向け雷を降られせる魔法を唱えた。
目的は敵を倒す事ではない。あくまで今の魔法は親友の花を咲かせるための布石となるものだった。
雷が2体のオーガの前で展開される。
上から降り注いだ雷に驚く2体のオーガ。しかしどこに撃ってるんだ?と訝しむ。

「…忝い。我が親友よ。……早乙女流剣技・春の型…”春華しゅんか”!!」
『「!?――」』

正儀の放った雷のブラインドを利用し嵐は敵の不意を突いた。
俊足にて敵が雷に意識を向けたその瞬間に、標的に疾走。そして敵の意識が此方に向くより早く、嵐は構えから神速の抜刀技を放った。
不意を突かれた1体目のオーガは、嵐によっての初撃めを無防備に受けその首を落とされた。そして嵐はもう1体のオーガにも神速で抜き放ったその一撃の反動を利用し回転。その回転による2撃目を繰り出し2体目のオーガの首も落とした。
首を落とされ2体のオーガは死んだ。死んだオーガは暫くして塵のようにその姿を失せた。

それを確認後、嵐は刀剣ファルシオンを鞘に納めた。それは今の2体を倒したと同じく、正儀が大柄のオーガを、ギルバートにサポートされながら光を撃ち出す魔法で彩夢が4体目を倒したのに勘付いていたからである。
納刀した嵐の表情は何処か納得のいかないものだった。
それは今先程放った己の剣に違和感があったからだ。
嵐の実家の剣技を【早乙女流剣術】と言う。早乙女流にはそれぞれ4つの奥義の型がある。
それら4つは、それぞれに【春】【夏】【秋】【冬】の4つの四季を銘打っている。
その内の一つが先程嵐が繰り出した【春:春華】である。
4つの奥義。これらに共通するものは、納刀から放たれる一撃であると言う点である。
つまり【早乙女流剣技】の奥義は抜刀術なのだ。

嵐の放った【春華】は納刀から放たれる神速の一打目に、抜き放った神速を利用し回転し、2撃目を即座に抜き放つものだ。
本来は鞘から抜き放つ技なのだ。だが今回は構えから放ったいわば未完成の技だったのだ。
それは自身の得物が抜刀に向かない”刀剣”だからだ。
嵐の得ている女神の加護は”剣の達人ソードマスター”で【剣】であれば、どのような【剣】でも、たとえ相手の所有している剣でも自分の得物として振う事が出来る。―最も例外はあるが。
それは【剣】だけでなく剣技も同様だ。
嵐は自身の剣技に、その手に持つ刀剣でも放てるようにアレンジして繰り出した。
その冴えは見る者は見事と言わざるおえない出来だった。
しかし、嵐にはやはり違和感の様な誤差を感じて仕方なかった。
それは長年己が技を【刀】で繰り返し振るって鍛えて来たからだ。

「……獲物が何であれ最高の剣を振るう。それが剣客の道…はぁ…まだまだだな、俺も――ん?なんだ?なんだか力が全身に満ちている感覚がするのだが、これは?」



大柄のオーガを相手にしつつ、近くでオーガと対峙している嵐に意識を向けつつ正儀は戦っていた。彩夢は騎士が護衛しているので大丈夫と判断し意識を少し向ける程度にしていた。
戦いの最中、嵐の方にもう1体オーガが向かったのを“気配感知”で感じ、それを嵐に伝えると、嵐はその攻撃の回避に成功した様だが体勢を崩したようになっていた。オーガがその隙を狙うかのように襲い掛かろうとした瞬間、正儀は自分の相手を黄金の輝きを放つアーティファクトの剣で牽制しつつ雷の魔法の詠唱を行うと、嵐と2体のオーガとの間に発動させた。

この世界には魔法があり、その魔法には幾つかの属性がある。
基本属性と知られているのが『火・水・風・地』の4属性である。その他は上位属性と知られている。この他では『白・黒』と呼ばれる特別な属性があるくらいである。
正儀の使った『雷』属性は『風』の上位属性である。
正儀の“女神の加護”である“勇者の証”には一つの上位属性をその身に得る事ができるという能力があった。これを知った正儀はどんな属性がいいかな、と考え、勇者と言えばドラ○エか!と考えに至った。つまり勇者の持つ最強の『雷』魔法を。

正儀は嵐の援護をした後、棍棒で殴り付けてきた相手のオーガの棍棒を躱すと“断裂”を使ってオーガを上段から縦に斬り伏せ倒した。
そしてオーガを倒したあとに正儀もやはり、嵐同様に力が充ちている感じを得ていた。
これが何かは分からないが、とにかく皆の所に合流しようと思い、先に見事に2体倒した嵐の傍に寄った。

「御疲れ様、嵐。2体とも一緒に斬り伏せるなんて流石だね。それよりも、嵐も感じてるこの達成感が高まったような力が付いた感覚」

大柄のオーガを上段から斬り伏せ倒した正儀が、嵐に声を掛ける。

「正儀もお疲れ…そうか俺だけじゃないのか…」
「御疲れ様です見事の剣技でしたよお二人とも」
「御疲れ様、正儀君。それに嵐君も。待ってて、今回復魔法を掛けるから」

4体目を倒し終えた彩夢とギルバートも合流。彩夢は細かな傷を負っていた二人に回復魔法を掛け癒す。
癒し終えた後2人は彩夢に感謝を言った。
そして正儀、嵐、彩夢は自分の未知の感覚が何かと考えると、ふとギルバートがステータスを確認して見てはと告げた。
もしかしたらステータスが上がった、もしくは技能面が成長か何かしたのかもしれないと考えたのだ。
3人は周囲に警戒しつつさっそくと自分のクロノカードを取り出すと、自分のステータスを確認して見た。
すると3人共驚いた。

そこには自分達のレベルや、能力値がこのモンスターハウスに挑戦する前より上がっていた事だった。

「おぉ!俺のレベル2つ上がってる。それに能力値も上がってる!」
「…俺もだ」
「私は1つだったけど、うん、ステータスが上がってる」
「……やはり、強い相手を倒したからか?」
「うぅん、ギルバートさん、その辺、どうなんです?」
「いや、ここの魔物はそれほど強いと言う分類ではない。確かに君達のレベルよりは高いが、それほどレベル上昇するはずはないんだが……実際、俺のレベルは上がっていないようだしな」

御互いにステータスを確認して見たが、確かに騎士のレベルは上がっていないようだった。
不思議がっている4人の中で彩夢が何かに気付いたのか1人の少女の方を指さした。

「ねえ、もしかしてあの子の力じゃないかな?」

その彩夢の指摘に正儀、嵐、ギルバートはその方に視線を向けた。
その先には足元に浸透しているかの様な魔方陣を展開している、雫の姿があった。

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