神殺しのなんでも屋〜身勝手な理由で異世界に巻き込まれ召喚された俺は神を殺して好き勝手する事にした〜

ミコガミヒデカズ

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第1章 巻き込まれ召喚と国外追放

#6 グランペクトゥ追放劇

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激流送げきりゅうそう!?」

 聞き慣れない単語に思わず聞き返す。

「陛下に代わりて教えてつかわす」

 大司教が口を開いた。

「激流送はこの偉大なるグランペクトゥ女王国に新たに加えられた刑罰じゃ!死罪しざいを廃した我が国はまさにヨジュアベーテ様の慈悲深いお心そのもの。本来なら死を賜るはずの罪深き者の命を取る事はせずに城を守る天然の堀、ルーヤー川に流す刑じゃ」

 それで島流しならぬ川流しの刑ってやつか。…ん?じゃあなんで激流送なんだ?川流しとかルーヤー流しの刑で良いじゃん。

「ちなみにルーヤーはこの大陸でも随一の激流…、並のイカダでは半マイル(約800メートル)ももたずに木っ端微塵こっぱみじんじゃ!」

「おい、事実上の死刑じゃねーか!」

「ふん、我が国グランペクトゥは強兵きょうへいと上質な兵装を持つ事で知られておる!そのモノ作りの技術は武器以外にも反映され激流送に使う大樽にも現れておる。そこらへんの物と一緒にするでないわ」

「頑丈って事か?」

「言わずもがなじゃ。…まあルーヤー川は険しい岩山を流れる激流、その速き流れに乗って岩にでもぶつかれば助かるものではあるまいがな…」

「おい、やっぱ死刑じゃねえか!!」

 俺は抵抗しようとした。

「手向かいするか!?取り押さえよ!」

「ぐっ!!?」

 突出した身体能力のない俺は女王ヨジュアベーテの命令を受けた衛兵に叩きのめされあっさりと捕まってしまった。

「問答無用じゃ!引っ立ていッ!!」

 槍を突きつけられ歩くように命じられた俺は仕方なく言われた通りにする。なんとか逃げ出すスキは無いか…、そう思ったがスキを見出す事はできず刑罰の執行現場まで連れて行かれる事になってしまった。

……………。

………。

…。

 ざああああっ!!

 凄まじい水音が響く岩場、ここが俺が連れてこられた国外追放…激流送げきりゅうそうの刑の執行現場であった。城の中を歩かされ今は外壁の上、ルーヤー川とかいう激流を下に見る位置にいる。

「こりゃあヤベぇ…」

 思わず声を洩らしてしまった。日本でも埼玉県の長瀞ながとろなどで見かける急流下り、あれも激しいものだがこのルーヤー川の流れは度を超えている。

「俺をその樽に入れてこの川に流すとか正気か?」

 外壁の上に横倒しの状態で置かれている大樽を指差して俺は言った。天板は無く底板と側面板よこいただけがある状態だ、樽と言うより底の深いおけのようにも見える。

「どう考えたって助かる見込みなんかない!こんなん樽がどこかにぶつかって終わりじゃないか!」

「ふん!グランペクトゥは地上の楽園を標榜しておるからの、妾が死罪などにする事はない。ただこの地から追放するのみじゃ。其方そちが生きるか死ぬかはこのルーヤー川に委ねる事とする。やれいッ!!」

「うわっ!?」

 女王ヨジュアベーテの声に兵士達が俺を大樽に押し込んだ、…いや蹴り込んだと言った方が正しい。とにかく俺は小部屋ほどはありそうな大樽の中の人となった。そして驚いた事に中には一人先客がいた。

「きゃ…」

 その先客が声を洩らした、どうやら女性らしいがボロ布を頭から被りその姿はよく分からない。その謎の人物は激流送の刑に失望しているのか力なく樽の中でうずくまっている。

「今日は追放の刑となる者がもう一人おる、もう使えぬ価値無き者ぞ!だが、そんな役立たずでも二人でおれば寂しくはなかろう、仲良く川の底に沈むがよい!!」

「か、勝手に呼び出しておいてッ!それで川の底に沈めとかお前それでも人間か!?」

「恨むなら力無き我が身を恨め!我が国では力無き者の居場所はない!大量の物資、労力を割いて呼び出したのがこのような役立たずなど…万死に値する!兵士ものども、やれいっ!」

「「「「わぁーっせぇいっ!!!」」」」

 兵士達が運動会の種目、大玉転がしの要領で樽を押し始める。

 ごろ…、ごろん…。大樽がゆっくりと転がり始める。想像していたよりずっと肉厚な木材としっかりした縁取りをした樽はものすごく重いのだろう。また、樽の外側があまり丸みを帯びていない事も影響しているのだろう。

 ごろ…、ごろ…ごろ…。

 しかしそれでも動き始めればその速さはわずかずつでも増してくる。

「お前らァッ、絶対許さねえ!必ず生き延びて…」

「やれるものならやるがよいわ!その能力なきゆえに樽におるのだ!死を待つだけの身の上でな!ほうれ、もうあと少しで落ちるぞ!地獄へと続くルーヤーの流れにな」

 女王ヨジュアベーテが冷酷な笑みを浮かべてこちらを見下ろしている。そして満足そうに首元の装飾品アクセサリーを指でなぞった。

「くそォッ!!」

 俺は思わず手を伸ばしていた。女王ヨジュアベーテに掴みかかろうとしたのだろうか、それすら自分でも分からない。だが一つだけ確実に分かっているのは女王ヨジュアベーテには届かないという事のみ。俺の伸ばした手は虚しく何もないところを掴む。

 がたんっ!
 
 大樽が傾いた。外壁から落ちる、そう思った。

「あー、アイツ落ちるぜー!?」
「えー、動画撮っておけば良かったー」

 九頭竜クズ高の四人がゲラゲラ笑いながらそんな事を言っているのが見えた。

 そして…落下が始まった。

 


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