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第2章 創造(つく)られた女性と創造するスキル
#12 名無しの女性と石化(ペトリフィケーション)
しおりを挟むまだ辛そうだが手当をした女性は危機的状況は脱したと思う。目を開けた彼女は布団から身を起こそうとしたが俺はそれを制した、そのままでいいと。その上で俺は説明を始めた。
「ここは俺が作った家…みたいなモンの中だよ。たしかルーヤー川とか言ったかな?グランペクトゥの城から下流になる辺りの河原だ」
「ルーヤー川…」
彼女は小さく呟いた。そして少し間を空けてから再び口を開いた。
「激流送の刑…。私は国外追放の刑を…」
「俺もなんだ」
「………?」
「俺は加代田。激流送の刑になってな。君と一緒の大樽に放り込まれたんだ。…よく分からんが職業が商人で能力値も低くレベルも上がらないみたいなもんだから…、戦う力が無い無能者めと大樽に放り込まれてな」
俺がそう言うと女性は驚いたような表情を浮かべた。
「あなた、グランペクトゥに仕官を希望して来たのではないの…?」
「いや、そうじゃない。なんで言うか…、俺は呼びつけられたんだよ。だけど戦う力が無いと分かるとその場で国外追放…実質的には死罪に等しい刑を言い渡されたんだ」
俺はあえて地球から召喚されたとは言わず呼び出されたと告げた。
「そう…」
「君は…?…あ、まだ名前を聞いてなかったね。俺は加代田…」
「無い…」
「え?」
「名前は無い…与えられていない」
「与えられていない?」
「名無し…」
「名無し…」
「創造られた存在」
「そ、それってどういう…?」
「創造人間、それが私」
「創造…人間…」
名前も無く、人造人間?それってどういう事なんだ?
……………。
………。
…。
「…そうなんだ。君はグランペクトゥの国で創造…」
「軍備の増強が目的と言っていた」
「軍備か…」
「そう。それで数日前、召喚の儀式に必要な供物を得る為に狩猟に向かった」
「召喚?」
予期せぬ単語の登場、それも俺に関わりがありそうな単語に思わず聞き返した。
「その中に石化獣の肝があった。当然、倒さねば手に入らない」
「召喚ってのがどういう風にやるものかは分からないが、単に祈れば良い訳じゃないんだな」
「それに見合う代償…、対価となる物が要る。私もそうして創造られた。…しかし、そのバジリスクとの戦闘で…」
「足を失う負傷を?」
こくり…、彼女は首肯した。
「私は創造され一週間ほど戦闘技術を学び実践配備、初陣となった。戦闘はほぼ事前の想定通りに進行した。ただ一つ予定と違ったのは女王の同行、私の実力を確認する為と聞いた」
あの女王か…、まったくロクな事をしない。
「大きな被害を出す事なくバジリスクは倒れた、私はその生死を確認すべくバジリスクに近づいた。息があるならトドメをさす為に。すると女王は歓喜の声を上げバジリスクに近づいた、その生死を確認せぬままに…。不用意な行動だった、バジリスクにはまだ息があり不意に頭を上げた」
「そ、それって…」
「バジリスクは最後の力を振り絞ってその吐息を吐いた。石化吐息…、触れれば生物の体を瞬時に石化させる恐るべきもの…」
ごくり…、思わず喉がなってしまう。
「君は…、それを食らったの?」
恐る恐る気になった事を尋ねたわ、
彼女は静かに首肯し、そして口を開いた。
「バジリスクのブレスは女王めがけて放たれた。無防備に近づき、倒したものと油断していた彼女には避けようもなかった」
「だけどあの女王、ピンピンしてたぞ?石になったけど回復させたのか?」
「いいえ」
横になっている彼女は首を横に振った。
「私がこの身をもって盾になった」
「そ、そんな。バジリスクの…、それこそ恐るべき攻撃なんだろ?なんでそんな事を?」
「それが命令だったから。バジリスクを倒す事、そして何があっても女王を守る事、この二つが…。それに私は石化や毒などに強力な耐性がある。石化吐息も私の体には通用せず耐えられると予想していた。…だが、予想外の事が起きた。
「予想…外?」
「私はバジリスクとの戦闘で左足に軽傷を負っていた。それで体表止まりと思えたブレスが体に影響を及ぼした。傷からブレスが入ったのか、左足の膝から下…そこから石化を始めた」
石化…、正直どんな感覚になるのか。痛いのか?苦しいのか?いや、それより…。
「#石化_ペトリフィケーション__#…だったっけ?それを治す事は?」
「出来なかった。石化解除は高度な魔法。大司教をはじめとして治癒魔法の使い手もいたけど技量が伴わず石化の解除には至らなかった」
「か、解除の魔法をかけたのに治らないの?」
「ええ」
再び彼女は首肯する。
「な、なんてこった。それが解除魔法だなんて…」
「それが普通」
なんの抑揚もなく彼女は言った。
「同じ石化でもその原因によって解除の難度は上下する。例えば怪我を治すにしても軽傷より重傷の方が労力を要するように…」
「あ、ああ…」
「そしてそれは治癒を試みる術者の力量にも左右される。同じ負傷に対しても高度な腕前を持つ術者の方が効果がより現れるのと同義」
「同じ症状でもヤブ医者と名医が診たんじゃ結果は違う…みたいなものか…」
そう言えばあの大司教、俺のパ 能力値を調べるのに怪しげな身振り手振りをしながら何やら詠唱をしていたっけ…、何十秒とかけて…。俺は自分のも他人のも一言呟けば出来たけど…、もしかするとあの大司教があれだけ時間を必要としたのは腕前があまり高くないせいかも知れないな。
「…で、その石化した足は治せなかった…と。じゃあ、どうして膝から下が…?」
「石化と生身の境界から分離を始めたから」
「分…離…?」
思わぬ単語の登場に俺は動揺する。
「膝から下は石、上は生身の肉体…。同一の組織ではない為、膝から先が剥がれ始めた。そして私の左の膝から先は失われた」
「じゅ、重傷ッ…!…どころじゃ無い、その後の人生に重大な影響が残る。ち、違う、そうじゃない!いきなり膝から下が無くなったら傷口だって相当な大きさ…、出血だって相当な量だろうに!!」
「ええ。でも、大司教達は焦ってはいなかった。『とりあえず出血さえ止めれば良い』と…」
「な、なんでだよ!?」
半ば憤りながら言う俺とは対照的に彼女は淡々と呟いた。
「創造だから」
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