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第2章 創造(つく)られた女性と創造するスキル
#15 バラ色の名前
しおりを挟む「うーん、ロゼ…はどうかな?」
「ロゼ…」
再生の杖を使って一緒に激流送の刑という名の国外追放(実質的な死刑)を受けた俺と名無しの彼女。俺が作り出した再生の杖の効果により彼女の足は文字通り再生を果たした。機能が完全に戻るには一週間ほど要するが再び自分の足で歩けるようになる、そう思うとほっとする時と同時にこれからの事を考えようとする気持ちも芽生えてくる。
そうなると必要になってくるのが彼女の呼び名。いくら創造人間だからといって名無しと呼ぶのはとにかく嫌だった。
だってそうじゃないか、その呼び方はあの女王ヨジュアベーテのいるグランペクトゥのヤツらがしているもの。一緒の呼び方をしたら俺までヤツらと同じになってしまう、だから違う呼び方…というか名前を持ってもらう事にした。
そして考えたのがロゼ。俺は戦う力が無いからと追放された、彼女は左足を失い戦えなくなったからと追放された。つまりヤツらにとって利用価値が皆無になったからというのが理由だった。
だから俺はそれをひっくり返してやろうと思った、ゼロを逆さまにしてロゼ。俺が気に入っていた言葉でもある。家業である加代田商店では酒類も売っていた、その中にはロゼワインもあった。そのロゼという単語が気になり調べてみたらフランス語でバラ色という意味だった。
利用価値が無いからと追放…、実質的な死刑に遭った俺と彼女。俺には親から与えられた名前がある、しかし彼女には無い。価値が皆無と言われた事をひっくり返してロゼ、そしてバラ色の未来が待っていてほしいと願って挙げたものだ。
「…うん」
彼女はゆっくりと頷いた、どうやら新しい名前を受け入れてくれたようだ。
「よし!じゃあ、本日この時から君の名前はロゼだ!よろしく、ロゼ!」
「よろしく、カヨダ」
「え?俺の名を?」
「最初、話しかけてきた時に口にしていたのを記憶している」
「そ、そうか。ずいぶんと記憶力抜群なんだな…。そう、俺は加代田。そう呼んでくれ」
「了解、あなたを正式にカヨダと定義する」
抑揚が全くない話し方だけどこれで互いの呼び方は決まった。
それからロゼを布団で体を休ませ、俺はフローリングの床に座り少し話をした。その互いの傍らには乾電池で稼働するLEDランタンがある。日が暮れすっかり暗くなった室内を…、半径4メートル半の半球型の家の内側を照らすのはこの小さめの照明が二つだけである。よく見えているのは互いの姿、家の端々の方は少し暗い。
「うーん、暗いのはまだ我慢できるけどまず水と食料は確保したいな。創造の力で作れはするけど割高だし…。そうだ…、この雨を利用できないか?雨水を濾過して飲み水に…。創造しなくちゃならなくてもどうやら原料になるものがあれば消費MPは軽減できるみたいだし…」
そう考えた俺は再び家の外に出ようかと考えた。
「この雨、利用してやろう!雨水タンクを創造するんだ!確かネットで見た一番大きかったサイズは1000リットルだった!動けなくても出来る事はしておこう」
俺は頭の中でこのドームハウスの外側に意識を飛ばす。すると追加装備とでもいう感じか、家屋に降った雨水を貯水し利用出来るようにする濾過機能付きのアイテムが頭に浮かんでくる。消費MPは二千万MP也。
「創造ッ!これで水道やトイレで利用できるな!そうだ、それなら電気を発電する為の太陽光発電パネルや蓄電池も…。電力自体は…よしよし!MPで代用できる。一日分でおよそ30万MP!?うわあ、高い!でも、ここまで来たら買ってやる!オール電化にしちゃえば調理にも、風呂を沸かす事にも使えるし…」
しかし、購入額…というか消費MPが気にかかる。
「いいや!どうせあの女王から奪ったモンだ、派手に使ってやる!ヤツの財産が俺達の快適ライフにつながるなら少しは気も晴れるってもんだ」
そうして俺が創造しようと考えると目の前に例のタッチパネルのようなものが浮かんだ。
「良い男が言ってたっけ。男は度胸、なんでも試してみるのさ…と。いけっ、創造ッ!そして蓄電池に燃料チャージ!!」
一瞬で頭に浮かんでいたものが創造されてくる。こりゃ凄いスキルなんじゃないか、この創造神の後継というヤツは…。
電気さえも創造し、受け継いだのがまさに万能としか言いようがないスキルに感じていた俺は上機嫌で部屋の照明を点けた。たちまち室内が昼間のような明るさになる。
「よし、暖房開始!それから風呂の準備…じゃないな。ロゼは寝てなきゃねらない。それなら湯の準備だ、湯を絞ったタオルで体を拭けば気持ち良いだろうし…」
そう言って俺はお湯とロゼが着替えるべき服装…、臙脂色のジャージ上下などを用意した。それにいつまでもボロ布を体に巻いているだけじゃ可哀想だ。
「体を綺麗にして着替えよう。そしてゆっくり休むんだ」
俺がロゼにそう言った時の事…。
トントントン…。
不意に玄関ドアを叩く音がした。
「だ、誰か来たッ。ま、まさか…追手ッ!?」
俺は誰か分からぬノックの主に戦慄を覚えた…。
□
ドアを叩く音の主は…?
次回、『来訪者』。
お楽しみに。
応援ありがとうございます!
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