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第2章 創造(つく)られた女性と創造するスキル
#14 アイテムグレードアップ!!
しおりを挟む「俺がその足を治す」
俺は決意を持ってそう言った。
「それは…無理。あの大司教や司祭達が様々な素材を準備をしても創造る事は出来なかったんだから」
彼女はそれが現実とばかりに告げた。しかし、俺には一つの確信があった。
「あの大司教…、スピルニンだったっけ?あいつが…」
「エペルニン」
「…そ、そう!あのエピルニンとか言うヤツらはこう言ったんだろ?神の力が降りてこない…と」
「ええ」
「それはつまり、創造神の加護が失われたって事だ。だから創造神…その名の通り、創造する力が大司教達から失われた…。君の足が治らなかったのはそれが原因だと考える」
その創造神を滅ぼしたのは他でもないこの俺なんだけど…。そしてその創造神の力ってヤツは…俺の手に移った。『創造神の後継』ってスキル…、シルクハットンっていう名前を受け継ぐつもりは無いけどさ。なんか響きが微妙だし。
だけど手に入れたその力で俺は回復の石を創造した。軽傷治癒の効果を持つこの回復アイテム、それが彼女の命を取り留めさせた。
足を失う怪我は軽傷とはとても言えたもんじゃないが…。おそらく大司教をはじめとする神殿に属するヤツらが最低限の血止めくらいはしていたんだろう。完全には傷口を塞ぐ事は出来なかった…あるいはしなかったのかは分からないが、新たな足を創造すれば問題ないと判断したのかも知れない。
しかし、その創造する力は失われている、神ならぬ身の俺に移ったから…。神ならぬ身なんだから加護なんて与え方も知らないし、俺が死ぬのが分かってて激流に放り込んだヤツらに与えるものなんて何もない。被害者の俺が加害者のヤツらに与えてやる恩恵など無いのだ。
「だったら創造れば良いんだ、君の足を治せるアイテムを…」
俺は手にしていた回復の石を見つめた。白かったその石は黒っぽい色になり輝きも失われている。軽傷を治す力があるこの石、それが創造れたのなら今度はさらなるアイテムを…部位再生が出来るような物を創造れれば…。
ざああああっ!!
俺達が今いる球状の家の屋根を叩く強い音がした。山の天気は変わりやすいと言うが、それはこの異世界でも同じようだ。
ドガアアアァァンッッッッ!!
「う、うわあああっ!」
突然の大きな音に俺は思わず声を上げた。腹にビリビリと衝撃が来る。
「落雷…」
彼女が静かに言った。
「か、雷が落ちたのか!?」
俺は窓から外を見る。
「ほ、本当だ…」
数十メートル離れた木に雷が落ちたようで縦に裂けた木から炎が上がっている。しかし、その炎は強い雨によってたちまち消されていく。その光景を見ていた俺の身にブルッと震えるような何かが走る。
それは予感のようなもの…、同時に確信めいたもの…。
「見つけたッ!君の足を治す方法!君はそのまま寝ていてくれ」
俺はすぐに靴を履き、豪雨も気にする事なく外に駆け出して行った。
……………。
………。
…。
「ただいま。ああ、起きなくて良いよ。そのまま、そのまま…。今、濡れたところを拭いちゃうから。ちょっと待っててくれ」
俺は起き上がろうとする女性を手で制し、入浴用に創造しておいたタオルで髪と体濡れた服を軽く拭きながら言った。
「さて…と。まずは床が汚れないようにブルーシートを敷いて…、物質亜空間収納からこれを取り出します」
そう言って取り出したのは落雷により裂かれ炎上していた木の断片。断片と言えど元は大木だったのだから日本家屋の柱よりも断然太い。雨により火はすでに燃え尽きたが木は完全に炭化してしまっている。
「完全に木炭と化した…、そう見えるんだけど…」
俺はその断片を両手で支えながら再びスキルを発動させる。
「物質亜空間収納、収納!」
たちまち巨大な木炭の姿を消す、しかし…」
「それは…?」
俺の手に残った物を見て彼女が言った。
「これは雷が落ちて燃え上がった木の炭化しなかった部分だよ。一瞬にして全て燃え上がったと思ったけど芯にあたる部分が無傷で残っていたよ。ほら、見てよ。なんかさ…杖みたいだろ?」
そう言って俺は炭化した部分をストレージ内で取り除いた木の無傷の部分を取り出した。
「確かに…そう見えなくは無い。しかし、それをどうする?」
彼女の疑問はごもっとも。だから理由を話し始める、右手に杖のように見えなくもない木の芯の部分を持って…。
「まずはこの燃え尽きなかった木、普通なら全て一瞬にして炭化するくらいの落雷だったのに芯の部分は燃えずに残った」
◼️千年樹の若木◼️
樹齢千年を超えてもなお伸び続けると言われる木、世界樹に次ぐと言われるほど生命力があると言われ特に若木はその傾向が強い。
ドラゴンを一撃で打ち倒すほどの豪雷により燃え尽きたと思われたがその芯の部分は残った。その芯は今一度大地に根を張り巨木になりそうなほど再生力にあふれている。
俺は鑑定の能力により手にしている木に生命力があふれている事が分かっていた。そして左手に二つ目の回復の石を創造し出現させる。
「この木には再生力がある、しかしそれはこの木だけのもの…。回復の石には失われた肉体を再生する力はないが一日に一回だけ誰かの傷を治す事ができる。だから…」
俺は右手で持つ千年樹の芯と左手で持つ回復の石を重ね合わせた。頭の中にアイテム創造のレシピが浮かんでくる。
【創造】:再生の杖
消費MP:45000
◼️再生の杖◼️
自己再生能力のある千年樹の芯と24時間に一度だけ対象生物一体の傷を治す回復の石を材料にして作られる杖。
24時間に一度だけ対象の生物一体に対し再生の魔法と同じ効果をもたらす。一週間の時間をかけて失われた四肢を再生する。
「キ、キターッ!!材料があるせいか消費MPも少ないし創造るしかないでしょ!創造っ!!」
木片と石が合わさり強い光が放たれる、思わず目をつぶった。そして次の瞬間には光は収まりヘッドの部分に回復の石が埋め込まれた一本の杖が生まれた。俺はそれを高くかかげる。
「再生ッ!!」
声高らかにハッキリと、俺は望んだ事を口にした。杖は輝き布団の上から女性の失われた左足のあたりに光が差した。
「あ、足が…」
彼女がかけている布団、その左膝の先の方はぺたんこだったのだがふくらみを増していく。それはやがて右足部分と同じくらいのものになった。
それから女性は元の形に戻ったであろう左足を動かそうとするが足の付け根あたりは動くようだが、残念ながら膝から下はまるで動いていない。それはまるで彼女の話にあった石化して動かなくなったかのようだ。
「足先に…、か…感覚はないけど左膝の先がある事だけは分かる…」
彼女が呟く。
「今はまだそんな感じだけど君の足は一週間でしっかり元の状態に回復するようだ。だからそれまでまずは養生だな」
驚いている女性に俺はそう声をかけた。
□
次回、『バラ色の名前』
お楽しみに!
応援ありがとうございます!
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