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第3章 絶望の獣と対峙するミニャ
#27 マーダーグリズリー
しおりを挟む「マーダーグリズリーじゃ…」
里長が呟いた。だが、呟いたものの長老は動かない。
「お、おい!子供が捕まってるぞ」
たまらず俺は叫んだ。
「分かっておるわいッ!!」
里長が言い返してきた。
「マーダーグリズリーは生き餌を好む。ゆえにああしてしっかりと獲物を捕らえ、巣に引きずって持ち帰るのだ。ゆっくりと生きながらに食う為にな…」
「それが分かっていながら助けないのか!?同胞なんだろ!?同じ部族なんだろ!?それとも同じ狼の獣人ってだけで縁もゆかりも無いから見捨てるとでも言うのか?」
「何が分かる、他所者のお前にッ!!」
「分かんねえよ!子供を見捨てる意気地なしなんか…」
その時だった。
「おじいちゃ~ん…!」
「ぐぐっ…!!」
子供の声に里長が身を震わせた。
「ま、まさか…あんたの…?」
俺はそれ以上の言葉が言えなくなっていた。
□
駆けつけた獣人達をギョロリと見回すマーダーグリズリー、多くの者達に遠巻きにされているが動じる様子はない。
一方で獣人側は手が出せないでいた。弓を構えている者も何人かいたが射ようとはしない、あくまでも構えているだけである。
「ね、ねえ!?助けニャいの?」
ミニャが里長に尋ねる。
「ぐ…。て、手を…出せんのだッ!」
「なんでッ!?」
ミニャが里長に詰め寄る。
「手を出したら最後、マーダーグリズリーは己を攻撃した者を決して見逃さぬ。己が死ぬか、自分を狙った者を殺し尽くすか…そうなるまで暴れ続ける」
「だったら退治すれば良いのニャ!これだけの人数がいれば…」
「そ、それが出来れば…、それが出来ればとうにしておるッ!だが、奴は天敵なのだ、我ら狩猟の民のッ!争えば我らにどれだけの犠牲が出るか…。孫を助ける事は出来るかも知れん、だがその為に何人の犠牲を払わねばならぬか…。我が孫ひとりの為に同胞達を危険にさらす事は出来ぬのだ!!…断じて出来ぬのだ」
腹の底から声を絞り出すようにして里長は言った。
「ぐ、ぐぬぬぬ…!」
ミニャはとても悔しそうに歯噛みしている。しかし、そうしていても状況が好転するはずがない。
マーダーグリズリーは獣人達が仕掛けてこないと察したのか見回す事をやめた。代わりにその鼻先を前足で押さえつけている子供の首元あたりに近づけるとその匂いを嗅ぎ始めた。
「ま、まずい…。巣に連れ去るつもりだ…」
獣人の誰かが言った。
「い、良いのかよ?巣穴に引き込まれて生きながらに食われてしまうんだぞ?」
俺が里長にそう言った時だった、マーダーグリズリーが長い舌を出しペロリと子供の首筋あたりを舐めた。歯を立ててはいない、それでは殺してしまうから。なるべく新鮮な…生きながらに食う為に傷つけたりはしない。おそらくは軽い味見のつもりぐらいだったのだろう。だが、押さえつけられている子供の恐怖心を爆発させるには十分だったようだ。
甲高い悲鳴を子供が上げた。
ザッ!!
地を蹴って跳ぶような音がした。
「こんにゃろーッ!!」
バキィッ!!
「ミニャ!?」
なんと驚いた事にミニャが一瞬でマーダーグリズリーに飛びかかりその顔面に飛び蹴りを入れていた。
□
《次回予告》
マーダーグリズリーに攻撃を仕掛けたミニャ。しかし、敵は巨大でその攻撃は撫でられた程度のもの。一方のミニャは一撃でもまともにくらえば死、かすっただけでも重傷レベルの戦力差であった。
そしてマーダーグリズリーには狩猟部族である狼獣人達が手が出せない、無敵の秘密があった…。
次回、『絶望の獣』。
お楽しみに。
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