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第3章 絶望の獣と対峙するミニャ

#28 絶望の獣(前編)

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「こんにゃろーッ!!」

 いつの間に飛び込んでいたのか、ミニャがマーダーグリズリーの横っつらに飛び蹴りを入れていた。

「あ、ああッ!て、手を出してしもうたあッ!?」

 その様子を見て里長が悲鳴にも似た叫びを上げた。

「せ、せっかく耐えてきたのに…!孫可愛さに集落さと全てを危険にさらす訳にはいかんと…」

「こんな小さな子ひとり守らニャいでニャに集落さと全てを守るだニャーッ!!ひとりひとりが集まったのが集落さとじゃニャいのかーッ!?」

 綺麗に着地を決めたミニャが里長に向かって叫んだ。しかし、里長がそれに返事をする前に声を上げた存在がいた。

「ゴアァァァァーーーッ!!」

 顔を蹴られ怒り心頭に発したかマーダーグリズリーが立ち上がり両手を高々と上げミニャを威嚇する。灰色熊グリズリーの名に違わずその体色は銀色めいた灰色をベースにところどころ白や黒の毛が混じっている。そしてその首の付け根にはツキノワグマのように真っ白な上弦の三日月のような部分がある。

「で、でかい…」

「いくらマーダーグリズリーだからと言ってあんな大きいのはいまだかつてない…」

 獣人達が恐怖を押し殺すように言った。かく言う俺も焦りを隠せずにいる。

「なんだと…?や、大きさだって?」

「カヨダ、

「分かってるよ、つい言い間違えただけだ。だけど俺は戦う力が無い、なんとかミニャのサポートに回りたいところだが…」

 俺とロゼがそんなやりとりをしている中、ミニャとマーダーグリズリーの戦いは始まっていた。

 ミニャは素早い動きでマーダーグリズリーの鼻先を飛び回るようにして戦いヤツを翻弄しにかかる、一方のマーダーグリズリーはその両手の爪で襲いかかる。

「気をつけろ!マーダーグリズリーの腕力、そして爪の鋭さは軍馬の頭を一撃でぐちゃぐちゃにするほどの威力らしい」

 俺はミニャをサポートするべくマーダーグリズリーを鑑定し、得られた情報を大声で叫んだ。

「分かるニャ!そばにいるとコイツ、とんでもないバケモノだって!」

 ミニャが必死にマーダーグリズリーの剛腕をかいくぐりながら応じた。

「少し距離を取れ、ミニャ!そんな至近距離、ヤツの腕がかすりでもしたら一巻の終わりだ!」

 俺は互いの肌がこすれ合うほどの距離で至近距離戦闘インファイトを仕掛けるミニャに声をかけた。

「駄目ニャッ!」

 短い返事。

「コイツは今、ボクしか見えてないのニャ!おまけに子供の服を踏んづけて逃がさないようにしてるからこの場からは動けニャい!だからボクはコイツの両腕だけに気をつけて戦えば良いのニャ!」

 そう言いながら挑発するようにミニャがマーダーグリズリーに足で踏むような軽い一撃、打撃を与えると言うよりはその反動でその間合いのギリギリ外に出る感じだ。

「コイツはデカい、いくらボクが殴ったり蹴ったりしても倒れる事はないニャ」

「じゃ、じゃあどうして!?」

「スタミナ切れを狙ってるのニャ。そうすれば子供をなんとかして取り返すスキが生まれるかも知れニャい、ボクはそれを狙ってるのニャ!」

「そ、そうか、なるほど!」

 そんなミニャとマーダーグリズリーの緊張感ある戦いはしばらく続いた。

 しかし、ミニャの不利は明らかであった。最初こそ怒りに任せて腕を振るっていたマーダーグリズリーであったが次第にミニャを待ち構えているフシが見受けられるようになった。

「くそっ!あの熊、頭良いな」

 ミニャの攻撃を食らってもダメージがまるでないマーダーグリズリー、一方でミニャは食らえば終わり。圧倒的な体力差に加えて待ち構えているヤツに対してミニャの運動量が増やさざるを得ない。

「まずい…、ミニャはより大きく立ち回らなければならなくなってる。あれじゃ先にミニャの体力が…」

 尽きてしまう、そう思った時だった。

「ふニャ~ッ!!」

 ミニャが飛び蹴りにいく。腕よりも大きな力を生む足による攻撃、その意義は分かる。しかし、それをマーダーグリズリーは気にも留めない。…いや、むしろ前傾し自ら当たりにいっている。頭蓋骨でも硬いひたいの部分、そこで迎え打ちにいった。

「ミニャッ、罠だ!罠だァァ!」

 俺は叫んだ。マーダーグリズリーの右腕、それがまさに今振り下ろされようとしている。おそらく額に蹴りが命中する瞬間…、その動きが止まった一瞬を狙って筆を振り下ろし始めていた。

 ガッ!!

 ミニャの蹴りが命中、しかしマーダーグリズリーの右腕は動きを止めない。降り下される、そう思った時だった。

 ビンッ!!!

 聞き慣れた弦鳴つるなりの音がした。

 バチィィンッ!!

 まさにミニャに命中しようとしていた右腕に太矢クォレルが命中した。しかし、太矢は刺さる事なく弾かれ地面に落ちた。

「ロゼ!!」

 振り向くとキャタピラ式車椅子に乗ったロゼが狙撃手のような構えでボウガンを放っていた。

「逃げろ、ミニャァァ!!」

 俺は飛び蹴り直後、いまだ空中を舞っているミニャに向かって叫んだ。

 グンッ!!

 本物の猫が空中で着地の為の態勢を取るように体を捻って間合いを取ろうとする。しかし、マーダーグリズリーの攻撃は続いていた。

「ま、まずい!左腕がッ、左腕がァ!」

 ミニャに向かっていわゆる二の太刀が振るわれようとしていた。






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