シン・三毛猫現象 〜自然出産される男が3万人に1人の割合になった世界に帰還した僕はとんでもなくモテモテになったようです〜

ミコガミヒデカズ

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第4章 不意打ちから始まる高校生活

第52話 飛び出した先で

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 国道16号線に出たバイクは東に進路をとった。視線の先に荒川を渡る大きな橋が見えてくるとその直前の交差点を右に曲がった。

 田畑混じりの集落を駆け抜けるとやがて荒川べりの土手に出た。それに沿うように走る道を南へ南へと向かった。

「下手に町中を走るより信号の無いこの道はスムーズだ。それに…」

 ヘルメット内のインカムからそんな多賀山さんの声が漏れてくる。

「それに…?」

「なんとなくだが日常から少し離れられるだろう?誰の目にも触れない、自分だけの自由な時間…みたいなモンに触れていられる。どうせ出かけるるんだ、何の縛りも受けたくないだろ?」

「そう…、ですね」

 そんなやりとりをしている間にも景色は後ろへと流れていく。多賀山さんの肩の向こうに進行方向左手側に沿って流れる荒川を渡る為の橋が見えてくる、確かあれは対面一車線同士の県道だったろうか…。

 多賀山さんが操るバイクがその交差する橋を避け土手から下りるようにして脇道に逸れた。そのままバイクは直進し橋の下をくぐり抜けるようにして通過した。どうやらこの橋を渡って向こうに渡り反対の土手に沿って戻るという訳ではないらしい。

 ちょっと出かけるか…、多賀山さんのそんな軽い口調に誘われて出てきた訳なんだけど行き先は聞いてなかった。どこか目的地ぐあってそこに向かっているんだろうか?

「これからどこへ?」

 行き先が気になり僕は多賀山さんに尋ねた。

「なあに…、良いトコさ」

 そんな返事が返ってきた。

「良いトコ?」

「ああ、今はどこもかしこもプリティの話題でいっぱいだ。見られもするし、何より騒がしいだろう?だったらそんな喧騒けんそうなんて離れるのが一番だ。それと、連れてってやりたい場所だったモンでな。束縛から抜ける良いモンがある」

 それからしばらくバイクは走り続け、その後ろには大信田さんと一山さんが乗る覆面パトカーがピタリとついてくる。警察署を出る時にオレンジ色をしていた空はその明るさと赤みが次第に薄れていき、濃い藍色へと変わっていく。

「着いたぜ」

 バイクが止まり多賀山さんの声がした。辺りは住宅地、細い路地に面している。もっともこの建物の反対側にはセンターラインのあるしっかりした道路とその両脇には街路樹もある歩道がある通りだった。国道ではないにしてもこの辺りの交通に欠かせない県道のようだ。

 そして僕はバイクから下りて道端に立つ、二階建ての店舗だ。こちらは裏口というところか、巻き上げ式のシャッターとその横には通用口といった感じのドアがある。そのドアに小さなプラスチックのプレートが貼り付けられている、そこには店名と思しきものがアルファベットで表記されていた。僕はその文字を見たままに呟いた。

「アレックス…」



 僕達が着いたのは一軒のバイク屋さんだった。もっとも正面からではなく裏手側。多賀山さんは『ついてきな、プリティ』と言うと、慣れた様子で裏口から中に入っていった。

 近くに車を停めた一山さんと大信田さんもやってきたので三人で中に入ると多賀山さんと作業用と思われる布ツナギを着た女性が僕たちを迎えた。

「誰を連れ来たかと思えば…。お前もたまには気の利いた事するんだな」

 その女の人はいかにもあねさんと言った感じの話し方。そして一言、『まあ、座んな』とパイプ椅子を手で示した。そして座ると多賀山さんが口を開いた。

「ああ、たまにはな。ここはなプリティ、旧車…まあいわゆる古いバイクが多い店でな…」

「馬鹿野郎、古いって言うな! キャブしゃだ、キャブ車!こちとらキャブ車じゃねーと触ってやる気が出ねえんだよ」

 そう言って僕達を出迎えた女性は多賀山さんの話を遮った。

「人に紹介されんのは性に合わないからこっちから自己紹介させてもらうぜ。私はコイツの従姉妹いとこで鈴木修岐子《すずきすきこ》だ。まあ、ス◯キ推しだが、別に特定のメーカーだけをゴリ押ししたりはしないから安心しな。んで…?今日は何しに来た」
 
「ああ、バイク見せてやってくれよ。興味があるみたいだからさ」

「良いぜ。だけど大丈夫か?ウチはお手軽なスクーターとかはねえぞ?」

「あ、いえ…。僕が見てみたいのはあの辺とか…」

 そう言って僕は気になっているバイクを指差した。

「あれが良いのか?」

「はい、あそこに並んでいる80年代が終わり90年代に入るあたり…。あの辺のが見たいです」

「あ?ずいぶんと変わった奴だな、ありゃ規制が入ってパワーダウンしてる時期じゃねーか?普通、そのちょっと前…、とにかくパワーとスピードをマシマシにしてた頃のヤツとかに目が行きそうなモンだが…」

「え、ええ。だけどパワー以外にも魅力あるバイクが多い時期だと思うんで…」

 僕がそう言うと修岐子さんはおかしそうに笑い出した。

「そうかそうか。色々…、色々か…。よし、好きに触って良いぞ!気に入ったモンがあればまたがっても良いぜ」

「えっ?良いんですか?」

「ああ、そうじゃねえとバイクの良し悪しなんて分からねーだろ」

「はい!ありがとうございます!」

 僕はお礼を言うとすぐにバイクを見に行った。僕が生まれるよりも前に生産されたものもある。それがここには並んでる。僕は早速パイプ椅子から立ち上がり先ほどから興味を惹かれているバイクを見始めた。

……………。

………。

…。

「三毛猫現象…。男がいなくなっちまった世の中だが、そのおかげか乗り手のいなくなったバイクが日本中に溢れてな…。おかげでタマ取りも部品取りにも事欠かなかった」

「ああ、だから今でも乗れんだよな」

「ああいう若いヤツがバイクに乗る、良いじゃねえか。この店を継いだ頃にゃ乗るヤツなんかドンドン減ってきててなあ…」

「ああ。乗り手が増えるってのは良い事だ」

 そう言って修岐子さんは鋭かった目元をゆるめるのだった。


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