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第一章

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「セオノア様、私は今、生きております」
 唐突なその一言に、セオノアがゆっくり顔を上げた。ルエラは腕を掴んでいる彼の手をそっと外し、自分の胸に導く。
「ちゃんと私、生きているのです」
 とくとく、という胸の拍動は伝わっているだろうか。

「生きてる?」
「そう、生きています。セオノア様のお力で、今の私はちゃんと生きています」
 ルエラは必死に言い募る、でもセオノアは子供のように首を振った。
「でもねルエラ。前の時だってこの部屋に居る間、君はずっと僕と話ができていたんだよ」
 目を閉じ束の間想像する。この部屋の寝台に横たわるルエラと傍で手を取り話しかけるセオノアの姿を。

 「幻だってわかってる。でも怖いんだ。今ここにいる君も幻で、この部屋から出してしまったら君は消えるかもしれないと考えずにいられない」
 その恐怖をルエラは推し量る事しかできなかった。胸が痛い。でもこのままで良いとはとても思えなかった。

 意を決して、ルエラは胸に添えているのとは逆のセオノアの手にするりと自分の指を絡めた。引き寄せるようにしながら顔を寄せ、ぎこちなく口付ける。
 セオノアがいつもしてくれるように、そっと舌を差し入れて動かした。ゆっくりゆっくり、強張った口内を撫でてみる。
 顔の角度を変えながら何度も何度も。……そうして私の熱が伝わればいいのにと願う。

 しばらくそうしていると、少しセオノアの肩から力が抜けた。
 ルエラは顔を離し、大きく息をする。

「セオノア様、貴方の見ていた幻はこのような事をいたしましたか?」
「しな、かった」
 驚いた顔のセオノアに微笑む。

「私、セオノア様に教えていただきましたから、他にもたくさんしたい事があるのです。貴方が見ていた幻がきっとしなかったような、はしたない事をたくさん。本当の私は貴方の手が大好きで、貴方に気持ち良い事をしてもらうのが好きで、貴方にも気持ち良くなってほしいと思う、そんな『はしたない』私です」

 なんて事を言っているんだろうと思う。でも恥ずかしいとは思えなかった。
 だってそれが、
「それが、生きている私です」
「生きている、ルエラ」
 ルエラの胸に触れているセオノアの手が震えた。

「ええ、生きております。だから私には未来がある。それはセオノア様と生きる未来で、そこには私たちの子どもだって居るかもしれません。その未来を、この部屋だけで終わらせるのですか?」
 セオノアの目に今度こそここに居るルエラ自身が映った。

「帰りましょうセオノア様」
「そうだねルエラ、そうだ」
 セオノアが肩口に顔を埋めた。声が震えている。

 ……泣いているのかもしない、だからルエラはしばらくそのままじっとしていた。
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