元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている

甘酢ニノ

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#16 人気投票の行方より、妹の情緒のほうが読めない件

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「お兄ちゃん!Re⭐︎LuMiNa のインスタライブ始まるよ!!」

 天音が勢いよく俺の部屋に飛び込んできた。

 放課後、ひまりとの練習がなく、徹夜明けの周も早々に帰ったため、俺はいつもより早く帰宅していた。
 部屋で寝転んでNetflixのドラマを見直していたところだ。

「一緒に見よ!」

 興味ない、と言おうとした。
 しかし、今朝、ひまりが言っていた「重大発表」というのが少し気になる。

 俺は起き上がって、天音が突き出してきたタブレットを並んだ見た。

 画面には、Re⭐︎LuMiNa のメンバーが並んでいる。
 俺の視線は、自然とひまりを探していた。

(……いつもと変わらない、か)

「この衣装、可愛いー!私服っぽいけどメンバーカラーが入ってるのがいいよね!」

 天音はテンション高く語っている。
 私服風の衣装。
 ステージ衣装ほど華やかではないからか、学校で見るひまりの面影があった。

 インスタライブでは、しばらくフリートークやライブの感想の話が続く。

 ひまりは積極的に話には入っていかないが、メンバーから振られれば答えるし、素の笑顔も見せている。
 グループの中ではうまくやっているようだと俺は安心した。

 時間的にそろそろ終わりかと思った時、メンバーの一人、リーダーのきらりが口を開いた。

『はい!それでは、ここで――』

 きらりが両手を広げる。

『重大発表があります!』

 天音の声が跳ねる。

「うわ!来た!これ絶対なんかあるやつだよ!」

 きらりは画面外のスタッフからスケッチブックを受け取った。
 メンバーたちが緊張した表情の中、スケッチブックを開いて文字を読み上げる。

『Re⭐︎LuMiNa、第2回人気投票を実施します!』

 画面が一瞬静まり返った。

『そしてなんと……』

 きらりが次のページをめくる。
 その指が、わずかに震えているように見えた。

『人気投票の結果は、次のシングルのポジションに反映されます!』

(……ポジション、か)

 俺は画面の中のひまりを見た。
 彼女の表情は、いつもより少し硬い。

(ひまりが、最下位だったと言っていたな)

 ひまりが、自分はグループで最下位だと何度も言っているのを聞いた。
 前回ひまりが最下位だった人気投票の、2回目ということだろう。
 そして今回は、センターという明確な”差”がつく。

『久々の人気投票だね!みんな、どう?麗奈ちゃんは?』

 きらりが隣の麗奈に話を振る。
 麗奈は長い黒髪を揺らして、画面の向こうのファンに視線を向けた。

『……結果は、受け入れる。みんなの応援、信じてるから』

 クールな口調。だが、その瞳には静かな決意が宿っている。

『さすが女王!かっこいい!じゃあ、ゆめは?』
『ゆめは絶対1位になる!』

 ピンク髪のゆめが即答する。

『おぉ!1位宣言!?』
『当たり前だよ!だって、ゆめが一番可愛いもん!だから人気投票でも1位になるの!』

 天真爛漫な笑顔。
 その自信は、天然なのか計算なのか判断がつかない。

『RINはどう?』

 きらりが小柄なRINに視線を向ける。
 RINは無表情のまま、小さく首を傾げた。

『……がんばる』
『お、おう……RINらしいね』

 きらりが苦笑する。

『そして、ひまりちゃん』

 きらりに振られて、ひまりは一瞬目を泳がせた。
 まるでカンペを探すように画面の外に視線を向ける。

『え、えっと……投票方法は、後日公式SNSで発表します。みんな、投票してね!』

(……逃げたな)

 ひまりらしい。
 他のメンバーのような宣戦布告はできない。それが、彼女だ。
 俺は画面の中のRINに視線を戻した。

(……あいつ、妙に落ち着いてるな)

 他のメンバーが緊張したり興奮したりしている中、RINだけは異様に冷静だった。
 無表情キャラという設定もあるのだろうが、それにしても。

 ひまりが最下位ということは、RINの方が順位は上ということだ。

(……まあ、いい)

 俺はひまり以外のメンバーを知らないし、深く考えなかった。

『以上、Re⭐︎LuMiNaでしたー!』

 メンバー全員が声を揃えて言って、ライブが終了する。

 人気投票。
 正直、ひまりが最下位だと泣いていたのも、俺はいまいち理解できなかった。
 5人しかいないメンバーの中で優劣をつけても、意味がないように思う。

 しかし、天音は投票するんだろうなと横を見ると、顔を覆って震えていた。

「天音、どうした?」
「つらい……」
「……何が?」

 天音は顔を上げた。
 その目には確かに涙が浮かんでいる。

「だって、きらりがセンターじゃなくなるかもしれないんだもん!」
「……代わりにひまりがセンターになったらいいだろ」
「そういうんじゃないの!!」

 天音の声が震えた。涙がぽろぽろと零れ落ちる。

「あたしは、ひまりが一番の推しだけど、全員大好きな箱推しだから……ひまりに1番になってほしいのは当然だけど、今センターのきらりが2位になったらショックだろうなって、今までずっと引っ張ってきてくれたのに……それは、麗奈もゆめも同じだけど……」

 天音はそう言って、俺の腕に抱き着いてしくしくと泣き始めた。
 情緒不安定すぎる。

「それにね、次のシングルって言ったら半年以上影響するんだよ!センターが取れるかどうかでアイドル人生変わっちゃうよ……」
「……それで、誰に投票するんだ?」
「ひまりに決まってるでしょ!!センターになってほしいもん!」
「……」

 これがリビングだったら俺は自室に逃げられたのに、自室で視聴を始めてしまったから逃げ場がない。
 仕方なく腕に抱きつかれたまま待っていると、天音はしばらく泣いてすっきりしたのか顔を上げた。

「よし!課金が必要だったら、お母さんにお小遣い前借させてもらわなきゃ!お兄ちゃんも、協力してね!」
「……わかった」
「ありがとう!お兄ちゃん大好き!!」

 天音は満足したのか、俺の部屋を出て行った。

 ようやく静かになった、とドラマの続きを見ようとしたら、天音が駆け戻ってくる。

「お兄ちゃん、そうだ!今日、お兄ちゃんの彼女の強羅先輩に会った!」
「彼女じゃない」
「でも、『類くん』って呼ばれてたじゃん!」
「音楽の三田先生も、俺のこと『類くん』って呼ぶ」
「それはあたしがいるから、苗字で呼ぶと被るってだけでしょ。誤魔化さないでよー!」
「強羅は、ただのクラスメイト」
「……ふーん」

 天音は疑わしげに俺を見る。
 俺は視線を合わせないようにスマホの画面を見ていた。

 この様子だと、天音はひまりが自分の推しの「ひめさき ひまり」だと気付いていない。
 ひまりは学校でアイドル活動を隠しているし、ボロが出ないように早く話を切り上げたい。

「でも、強羅さん、すごく良い子だったよ」
「……そうか」
「うん。優しくて、真面目で、ちょっと友達は少なそうだけど……それも含めて、お兄ちゃんのこともちゃんとわかってくれてたし」

 天音は続けた。

「お兄ちゃん、良い友達ができて良かったね!」
「……ああ」

 その言葉は確かだ。俺は素直に頷いた。
 が、続く言葉にスマホを取り落としそうになる。

「だから、『お兄ちゃんのことよろしくお願いします』って、挨拶しておいたから」
「……なんで、そんな挨拶をするんだ」
「だって、実際お世話になってるみたいだし?えっと……名前忘れちゃったけど、お兄ちゃんといつも一緒にいる人も、あの2人はもうすぐ付き合うって言ってたから、妹として当然でしょ!」

 周が余計なことを。
 と、俺が言う前に、天音は満足そうに笑って自分の部屋に戻っていった。

(……天音とひまりが、会ったのか)

 2人が出会ってひまりの正体がバレないか心配だったが、それは杞憂で終わったようだ。
 代わりに、違う問題が勃発している。

 だが、天音がひまりを「良い子だった」と言っている。
 2人が仲良くなったなら結果的に問題は無い。

 しかし――

(人気投票、か……)

 ひまりの泣いていた顔が、脳裏をよぎる。

(このままじゃ、また泣くことになる)

 インスタライブを見てわかったが、ひまりは華がないわけではない。
 メンバーと並んでも見劣りしない容姿をしているし、アイドルらしいオーラも兼ね備えている。
 そして、ひまりは努力家だ。真面目で、誰よりも頑張っている。

 でも、それだけでは人気投票では勝てない。
 自己主張の強さ、他を蹴落としてでも上に行こうとする執念、ファンを惹きつける”何か”。

 ひまりには、それが足りない。

「……どうにか、ならないか」

 まだ少し他人事で、具体的な解決策が思いつかないまま呟いた。
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