元暗殺者の俺だけが、クラスの地味系美少女が地下アイドルなことを知っている

甘酢ニノ

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#21 知らぬ間に相談役ポジが固定されている件

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 昼休み、渡り廊下。

「伊波くん、ちょっと相談、いいかな……?」
「え、強羅さん?俺に?」

 周が尋ねると、ひまりはこくりとうなづいた。

 ひまりと類が話すようになり、ひまりと周の仲もやや深くなった。
 しかし、友人が多い周とひまりは、特別仲がいいわけではない。
 だからこそ、彼女の言葉には妙な緊張感がある。

 そして、周の手にはひまりの英語の補習課題があった。
 どうしてもわからない問題があって見せてほしい、と同じく英語が補習になった周がひまりから借りたものだ。
 無理を言って貸してもらった手前、相談に乗らずに逃げる、という選択肢はない。

「その……ちょっと、話を聞いてほしくて」
「……なんか深刻?」
「かもしれない……わたしにとっては」

 ひまりは頬を赤らめて俯いてしまう。
 その仕草に、周はようやく”何か”の匂いを感じ取った。

「……類のこと?」
「っ……?!なんで分かるの!?」

 当然分かるだろ、と言いかけて周は口に出すのをやめた。

 ひまりは、類と話すせいで他の女子から浮いてしまった。
 最近は元のように話す友達も戻ってきた様子だが、一部の女子からは未だキツく当たられている。
 それでも、類と仲良くすることを選んだひまりは、自称・類の親友の周はありがたい存在だった。

 ひまりは俯き、小さく息を吸い込んだ。

「なんか……類くんを見てると変な気持ちになるの。胸がどきどきして、近くにいるだけで息が詰まるっていうか……これって……なんでだと思う?!」

(これはさすがに、ふざけちゃダメなやつだな……)

 周は真面目に答えようと口を開いた。
 しかし、言葉にしようとして一抹の疑惑が胸に生じた。

「強羅さん……類に、パワハラされてストレスを感じてるってことはない?」
「さ、されてない……」
「類の言動とか顔が怖くて怯えてるってことは?」
「そんなことないよ!類くん、厳しいけどいつも優しくて、わたしのこと、いっぱい応援してくれるの」

(甘酸っぱい……!)

 聞いてる方が照れてしまい、周は顔を覆った。
 そんな様子には気付かず、ひまりは周に尋ねる。

「伊波くんは類くんといつも一緒にいるでしょ?伊波くんも、類くんに名前を呼ばれたら、ドキドキしたりする……?」
「あー……するする。あいつ、ヤバい失敗した時、罪をなすりつけようとして俺を呼ぶもん」
「そういうんじゃなくてさぁ……」

 ひまりが溜息をつく。

 ひまりが言いたい事はわかる。
 そして、周はその相談相手に自分を選んでくれたことが嬉しかった。

 だが、しかし、
 周はここ数年、彼女もいないし告白することもされることもない。
 ある意味、望まない穏やかな高校生活を送っていた。

(よりによって、俺に……?俺、今のところ彼女ができる気配すら感じられないのに……?)

 周はひまりの熱い視線から逃れるように天井を見つめた。

「えーと……とりあえず、一回病院に行ってみたら?」
「……病院?」
「うん、万が一、そのドキドキが本当の病気とかだったらマズイし。それで、体に異常がなくてもその状態なら、多分そういうことなんじゃないかな」

 ここで無責任なアドバイスはできない。

 そう悩んだ周が必死に絞り出した結果、
 ひまりの身体の異常が無害なものであることを確認した方がよい、と結論が出た。
 モテない中学生でもあるまいし、と自分の役に立たなさを土下座で詫びたい気分になる。

 しかし、ひまりは少し考えて、真面目な顔でうなづいた。

「確かに、わたしが病気なだけだったら類くんは関係ないもんね。迷惑かけちゃうところだった」
「迷惑じゃないと思うけどね。でも、可能性は潰しておかないと」
「ありがとう、伊波くん!明日、病院行ってみる!」

 ひまりは先程よりも元気になって去って行く。

 あのアドバイスで納得するなんて、強羅さんは変わった子だな、と残された周は考える。

(……にしても、なんで俺なんだろ。俺、彼女いないのに……)

 気付けば、小さくため息が漏れていた。

 ーー

 その数時間後の昼休み。
 周が自分の席でスマホゲームをしていると、背中を軽く叩く者がいた。

「周」
「なぁにー?」

 周はゲームを続けながら返事をする。
 周がゲームに夢中で振り返る気がない、と気付いた類は、背もたれを掴んで椅子ごと周を後ろに向かせた。

(こいつ、何でこんなに馬鹿力なんだよ……)

 周はゲームを続けたまま、諦めて顔を上げた。

「何だよ」
「最近、ひまりが変なんだ」
「あー強羅さんね。あの子、いつも結構変だけど、お前ほどじゃないよ」

 周は適当に答えたが、類はそれで終わりしてくれそうな様子はない。
 無表情だが、いつもより少しだけ真剣な気配がある。

「……今日は相談ばっかりされる厄日だ……」
「なにが?」
「いや、なんでもない」

 周はゲームを諦めてスマホを机に置いた。

「で、どしたの?」
「ひまりが、目を合わせるとすぐ逸らす。近付くと距離を取られる。変だ」

 淡々と言いながら、類は真面目に不思議そうだった。
 周は思わず吹き出しそうになったが、なんとか堪えた。

(お、お前ら……!)

 正直なところ、周は余計な茶々を入れて、2人の仲をさっさと進展させたかった。

 だが、言えない。
 ひまりの気持ちが固まっていない状態でそんなことをしたら、2人の関係が壊れてしまうかもしれない。

(めんどくせぇ……いや、めんどくさいけど、類も真剣なんだよな)

「……まあさ」

 周は、無表情の類がどこまで理解しているのだろう、と様子を窺いながら続ける。

「強羅さん、多分、緊張してるだけじゃね?」
「緊張?」
「お前の前だと、意識しちゃうんじゃないのか?」
「……?」

(ここまで言ったら、察してくれ……!)

 決定的な言葉を、自分の口から言うわけにはいかない。
 と、周は黙ったが、類はようやく口を開いた。

「意識……」
「そうそう!あの、悪い意味じゃなくてさ」
「俺を意識すると、ひまりは顔が青くなったり赤くなったりするのか」
「青くもなるのか……」

 それはレアケースだ。
 もしかしたら、周が思っている方向性とも違うのかもしれない。

「あー……明日、強羅さん、病院行くって。その後に本人に聞いてみなよ」
「わかった」

 類が納得して、周はようやく解放された。
 椅子を前に戻して、スマホゲームを再開する。

(……てか俺、自分は恋人いないのに、なんでこんな悩まなきゃなんないんだよ。理不尽すぎるだろ)

 誰にも言えない虚しさと怒りだ。
 しかし、しばらくゲームに集中するとすぐに忘れる程度だった。

 -----

 放課後。
 校舎を出た周は、背後から元気な声に呼び止められた。

「あー!あの~……何だっけ……まぁいいや、お兄ちゃんといつも一緒にいる人ー!」
「伊波だって前に言っただろ」
「そう!伊波!」
「伊波『先輩』な」
「伊波先輩!」

 土埃を立てて駆け寄ってきた天音は、周の前で急停止する。

「伊波先輩に、相談があるんですけど……」

 天音は真剣な顔で言った。

(……まさか、天音ちゃんも……?!)

 周はもう諦めの境地だった。

「……どうぞ」
「Re⭐︎LuMiNaの人気投票、どうしようか悩んでて……」
「人気、投票?」

 周は固まった。

(恋愛相談じゃないのかよ!)

 中庭のベンチに並んで座ると、天音はスマホを見せながら説明してくる。

「この子たち、Re⭐︎LuMiNaの人気投票が今始まってるんです」

 Re⭐︎LuMiNaの公式HPには、周が見覚えのあるアイドル5人の画像が並んでいる。

(ああー……類がよく天音ちゃんに連れて行かれてるやつか……)

「で、アカウント連携させると、一日1票投票できるんです」
「ふーん?CD買ったりしなくていいの?」
「今のところは。でも、これからCDに入ってる投票用紙で投票すると10票分とか、お話し会に参加したら5票分とか、色々出てくると思います」
「へーサンリオのキャラ大と同じシステムだね」
「今は無料の投票ですけど、これからお金がかかってくるとお小遣いも無限じゃないし……あたし、誰に投票したらいいんだろうって」

 天音が膝の上で拳をぎゅっと握り締めた。

「全員、みんな頑張ってるってよく分かってるから、誰か一人を選ぶなんて、できない……!」

 天音が苦しそうに言った。

(天音ちゃん……そんな真剣に考えてるんだ……)

 周はアイドルを本気で応援したことがなかったし、人気投票に大金をつぎ込む文化には若干引いているところがあった。
 しかし、涙を浮かべている天音を見て、ファンの1票はそんなに重いものだったのか、と胸を打たれる。

「それは選べないよな……そしたら、天音ちゃんは毎日違う子に投票してる感じ?」
「いいえ、推しのひまりに全ツッパしてます」
「…………は?」

 周はベンチの上でずっこけそうになった。

「それじゃあ今までの話はなんだったんだよ?!相談でもなんでもないじゃん!」
「お兄ちゃんに何回も相談しました!でも、ぐだぐだ言ったところで、ひまりに投票するのは変わらないなら黙ってやれって言われるんです!だから、違う人の考えが聞きたくて」
「俺も全く同じ意見だよ!」
「伊波先輩も、ほら、ここで、こうして……」
「お?おお……?」

 天音が勝手に周のスマホを操作した。
 言われるがままにアカウントを連携し、投票画面に進む。

「伊波先輩も、ひまりに投票してください」
「……なんで俺?」
「今日から”義務”です」
「義務!?」
「はい。一日1票、お願いします」

 天音はぺこっと深々と頭を下げた。

「はぁ……分かったよ。一票くらいなら」
「やったー!伊波先輩!ありがとうございます!」

 天音は嬉しそうに跳ね、そのまま校門の方向へ走り去っていく。
 周はしばらくその背中を眺め、それから大きく溜息を吐いた。

「……なんで俺、関係ない悩みに巻き込まれるんだろう……」

 スマホの画面には、みどりのアイドル衣装を着たひめさきひまりの笑顔。

(……まあ、投票くらいならいいか)

 周は投票ボタンを押した。
 それほど興味はないけれど、天音が応援しているアイドルなら、1位になれたらいいなと思う。
 そして、類とひまりが幸せになるために、自分が手伝えることがあればしてあげたいと思う。

「だから、いつか俺にも彼女ができたらいいな……」

 周は空を見上げて、小さく呟いた。
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