転生先が悪役令嬢モノの王子様だった件。

釜借 イサキ

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第3章 疑う王子様

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 倒れたフィリップが馬車に乗せられ去って行った後、エカチェリーナは思い出す。
 最初のデートのこと。これは家同士が決めた結婚。当たり前のように恋人となり、年頃になれば婚約する。いつかは結婚して、王妃となる。全ては決められたことだった。そのために、厳しい教育に耐え、好きなことも我慢した。楽しそうにする同い年くらいのご令嬢を尻目に、ただ彼に見合う女性になるための努力を重ねる。
けれど、この約束を後悔したことは、一度もなかった。
「……いつも無理をさせてしまい、すまないな。」
「気にしないで。好きでしていることだから。」
一番解って欲しい人が、それを解ってくれたから。
「こういう時くらい、わがままを言ってくれ。」
「じゃあ……」
デートの時に初めて組んだ腕、真っ赤に染まった顔を、今でも忘れない。
「家同士決められた結婚で、本当に不満は無いのか。」
「ありません。」
投げ掛けられた質問に、淀みなく答えることができた。当たり前だ。後悔など、ある筈もなかった。少しだけ安心したような、彼の顔を思い出す。
「この婚姻は家同士の取り決めだが、私は貴女を一生愛するよ。何があっても。」
「……はい。」
婚約するとき、指輪を渡しながら掛けられた言葉は、今でも忘れることができない。二人で顔を赤らめながら、初めての口づけを交わす。この人となら、きっと、歩んでいける。そう思っていたのに……
「……すまない。この婚約は白紙に戻してくれ。」
あの日のことが、どうしても頭から離れない。忙しい日々の中でも、自分を見ようとしてくれた、あの人が。
「ねえ、どうして?」
そんなに不誠実なことをするとは思えない。何か、事情があるのだと、信じたかった。
「私に悪いところがあるのなら、直すから! ねえ……」
懇願するような悲痛な叫び。眼前の男に届かない。
「ねえ……どうして……」
「……すまない。」
消え入るような叫び。掠れた謝罪。
「真実の愛を、見つけてしまったんだ。」
今までに築き上げきた矜持が、心が、バラバラに崩れ去っていく。
「陛下も」
唐突な王の話に、思わず耳が向く。そうだ、この約束は家同士の取り決めだった筈。一方的な取り止めともなれば、家格にも傷がつく。
「そろそろ時代遅れの身分制度は廃止すべきだと、そう仰っていた。」
察しはついていた。いくら王子であろうと、勝手に家同士の取り決めを、覆すことができる筈もない。王自らが、この約束を反故にしたのだ。
「……そう。分かりました。」
「……」
目を伏せるフィリップは、どこか浮かない顔をしている。見れば、頭をしきりに抱えている。けれど、もう知ったことではない。精々、『真実の愛』とやらの相手に、慰めて貰えば良いと思う。
「失礼します。」
こうして、涙と共に王城を後にした、あの日の夜を思い出す。
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