転生先が悪役令嬢モノの王子様だった件。

釜借 イサキ

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第3章 疑う王子様

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 その夜、また、夢を見る。やっぱり舞台は会社だった。人はよく、世の中を歯車に喩える。自分達は、社会の歯車の一部なのだと。
「ねえ、コレやっておいてって、お願いしたよねえ……ミナミちゃん。」
思い出すのは中年男の気持ちの悪い猫なで声と、
「いやあ、違うんですよお……佐藤さんにお願いしてましたあ……」
世の中を舐め腐ったような、甘ったるい声。
「いや、俺できないって……」
自分が抱える案件だけでも一杯なのに、そこまで手が回るわけないじゃないか。
「佐藤! 言い訳するんじゃねえ……また終電で帰っただろ……あ?」
「……」
猫なで声はどこ吹く風か、中年男は問答無用で怒鳴り散らす。なんでずっと指いじりやらよく分からないスキンケアやらやっているその女の仕事を請け負わなければならないのか、訳が分からない。
「文句あんのか!?」
謂れなき恫喝。同僚は皆、見て見ぬふり。
「あの、課長。」
そこに、光が差す。
「それは彼女がすべき仕事ですよね?」
「ああ、マキちゃん……」
可憐で美しく、でも芯の強い女性だと思った。
「なら、彼女にしてもらわないと、ですよね?」
ふわりと優しく微笑むその顔に、何度助けられた事だろう。
 脂汗と共に飛び起きる。何故か動悸が鳴り止まない。いつかまた、あの日々に帰らなければならないのだろうかーー暗い気持ちのまま、白々しい程豪華な寝床から起き上がる。
 『歯車』という言葉に、太郎はどうしても引っ掛かる。『人間は自分で選択しているようで、その実、選択させられている』何処かで聞いた話だ。もしも、フィリップの一連の行動が不可抗力ならばーー
「やっぱり、コイツは……」
きっと、エカチェリーナの事を裏切りたくて裏切ったのではないのかもしれないと、思う。
 今日のスケジュールはかなり詰んでいる。緊急の決裁資料、会議、謁見ーー貴族とはもう少し暇なものだと思っていたから、流石の太郎もこれには参る。
「うげえ……分かんねえよお……」
束の間の休息。机に突っ伏す太郎は、思わず毒づく。
「いや、しかしお前、よくやっているよ。」
珍しく、クロードが労いの言葉を掛けると、
「まま、一息つきましょうって、ね?」
エドガーはメイドから受け取ったティーセットを、応接用のテーブルに置く。
「そうだな。時間もないし……」
時間というのは、もちろんエカチェリーナの件。先延ばしになっていた裁定の日は、刻一刻と迫っているのだ。太郎は、両頬をぱしりと叩く。
「大丈夫ですか?」
急な動きに、エドガーが駆け寄ろうとするが、
「おう、ちょっと気合入れただけだ!」
入れ過ぎた気合が、ちょっと痛かった。
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