大学生、みいちゃんと出会う。~オカルト研究会①~

釜借 イサキ

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第3章 大学生、動く。

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 日が少しだけ傾いて、空気が冷たさを帯びる頃、一行は閑静な住宅街を行く。段々と足取りが軽くなってゆくみいちゃんとは裏腹に、三人の足取りは至極重い。たまに行き交う住人と会釈を交わしながら、一歩、また一歩と、終点に向かって歩みを進める。
 周と秀人は、それぞれの思いを抱き、みいちゃんの小さな後ろ姿を追う。そんな二人の背中を、琉依はただただじっと見つめていた。
 ある時、ぴたりと、みいちゃんが足を止める。それにつられて、三人は順々に重い足を地面に置いてゆく。
「ついたよ!」
明るいみいちゃんの声が、はっきりと輪郭をもって周の耳に届く。ひっそりと佇む、ごく普通の一軒家を、周は直視することができなかった。
「……」
「そうか。」
言葉を上手く取り繕うことができなかった周に代わり、秀人は短く返す。琉依は、二人にかける言葉を探し、厚い雲に覆われた天を仰ぐ。
 誰も動こうとしない中、最初に玄関のチャイムを鳴らしたのは秀人だった。不自然なほどに甲高い音は、誰のことも連れては来ない。
「おばあちゃんとおじいちゃん、いないのかなあ?」
不安げに首を捻るみいちゃんに、
「……きっと……お出掛けしてるんだよ。」
今にも溢れ出そうになる感情を必死に押さえながら、周は努めて落ち着いた声を掛ける。自然と、目線の高さがみいちゃんと合う。
「そっかあ。」
曇りない顔で、安心したように胸を撫で下ろすみいちゃんに笑いかけながら、家主を呼ばない呼び鈴に内心礼を言った自分に、心底嫌気が差した。
 始めから分かっていたはずだったのに、なぜこんなに踏ん切りがつかないのか……その場の誰もが動けないでいるときーー
「あら、あなたたち、春田さんのお宅に何かご用?」
陽気な女性の声が差す。年の頃は、丁度中年といったところか。
「こんにちは。」
琉依は、ふわりと笑顔を返した。
「そうなんです。実は、ここのご自宅に用がありまして……」
みいちゃんのことを聞こうとするが、その姿を見たことがないことに、改めて気付かされる。
「あの、こちらのお宅に十歳くらいの女の子がお住まいではないですか?」
丁寧に、相手に不信感を与えないように、最新の注意を払いながら、秀人は言葉を続ける。
「子供さん……?」
隣人は、不思議そうな表情を見せる。その間に、秀人が違和感を覚えているとーー
「このお宅、子供さんなんていたかしら?」
これはただの世間話。他愛のない話のはずだった。だが、
「……え?」
逡巡の末、隣人が示した答えに、周はその場に不釣り合いな間の抜けた声を吐く。
「そう……ですか。」
秀人は、必死に焦燥を隠すように、辛うじて声を絞り出す。
「たまに帰ってくるお孫さん……とか?」
ただ一人、琉依は落ち着いて会話を続ける。そうだ、普段は住んでいなくても、この家には、たまに帰省する家族がいたのかもしれない。そんな希望を周が持った瞬間、
「子供さん自体、いるってお話聞かないわねえ……」
いとも容易く、完膚なきまでに砕け散る、
「あら、お買い物いかなきゃ!」
そんな一行を他所に、隣人は忙しなく家を出ていく。
「ありがとうございました。」
ごめんなさいねえーーそんな言葉を置いて、隣人は背を向ける。傾き続ける日の下で、彼女の背中は段々と小さくなっていった。
「ねえねえ、どうしたの?」
その空気を察したのか、みいちゃんは三人を順繰りに見る。
 これは一体どういうことなのか……このまま、この子を会いたがっている老夫婦に会わせてしまってよいのか……
「ごめんね、きっと大丈夫だから」
自分と同じ高さにあるみいちゃんの目が、不安げに揺れる。何が大丈夫なのかも分からぬまま、周はただの気休めを口にする。
「もうちょっと待ってみよう。」
言葉を繋いだのは秀人だった。何かを見据えるような視線は、直視すれば怯んでしまう程に鋭利だ。周は無意識に頷く。
 これから、この子の身に何が降りかかるのか、傷つけてしまったら、悲しい思いをさせてしまったらーー様々な感情がない交ぜになる。そんな時、
「大丈夫だよね。」
琉依は優しく、周のわだかまりを解していく。そうだ、自分は一人じゃない。ここまでやって来たのは、自分だけではないのだ。
「……うん。」
周は無理やりにでも笑顔を作る。せめて、何が起きても、せめて自分がこの子に寄り添えるように。
「こんばんは。お客様……?」
そして、家主は帰宅する。
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