相席中@14日

釜借 イサキ

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@2日目

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いつものように、いつもと同じ場所、同じくらいの時間帯。

初夏の日差しが程よく落ち着いてきた頃合いの公園のベンチで、いつも通り、少年は日課をこなしていた。

昨日までの目標から言えば、今日はそのドラゴンを倒す旅には出ないはずだった。

しかし昨日、変な横槍が入ってしまったため、その目標も今日まで延期されてしまった。

日暮れが近いことに目もくれず、少年は無我夢中で昨日のドラゴンと戦う。

連日連戦している甲斐もあってか、大分戦闘のコツは掴めた。

だからといって楽勝できるかと言えば、それとは程遠い。

寧ろ、辛勝できるかできないかというところだ。

少年もドラゴンも、残りのヒットポイントが僅かーードラゴンの攻撃を上手く回避して、少年の攻撃を当てることができれば少年の勝ちと言った局面に差し掛かっている。

ーー後もう少しでこの周回から解放される。

その一心でドラゴンからの猛攻を防ぐ。

そして、ついに……

「おや、ガキんちょ。また来てたのかい。」

唐突に声のする方に気をとられる。

次の瞬間、少年の分身は、またもドラゴンに平伏していた。

「……」

少年は、画面を睨みつける。

声は、昨日の老婆の物だった。

スマホの画面越し、微かに見える老婆の顔は、意地悪く歪んで見える。

「おやおや、どうしたんだい?」

老婆は、口を窄めて眉を顰める。

「……」

少年はスマホを凝視したまま、歯を喰い縛る。

何故、毎度あともう少しのところでこの老婆が邪魔に入るのか、少年には分からない。

しかし、パターンさえ読めていれば、対処のしようはいくらでもある。

少年は気をとり直して、老婆の問い掛けに答えないまま、再びドラゴンに挑もうとする。

「そのポチポチ、楽しいのかい?」

が、老婆の不意打ちに、少年は再び手を止める。

少年の真上から、老婆は物珍しそうな表情を浮かべながら少年のスマホを覗き込む。

「ポチポチ……?」

少年は思わず聞き返す。

今時、スマホの存在も知らないのか、とでも言いたげな顔で、老婆を見上げる。

「あんたが手に持ってるそれさね、それ」

老婆は、杖を持っていない左手で、少年の手元を指差す。

「あんた、昨日から指でその薄っぺらいのをポチポチしてるだろう……? 何か楽しいのかと思ってねえ……」

老婆の言葉を受けてか、少年はスマホの画面を老婆の方に差し出す。

「へえ、こりゃたまげたねえ……こんな薄っぺらいのの中に人がいるよ……」

老婆は、感心したように頷く。

そんな老婆の姿を見て、悪い気はしないのか、少年は口を開く。

「これはアプリゲームと言って、携帯でオンラインゲームができるんです。」

少年はそう言うと、スマホを元の位置に戻す。

「あぶりげーむ? おーらんげーむ? ……なんだいそりゃあ……」

少年がゲームを再開しようとすると、老婆は聞き馴染みのない言葉に首を傾げながら聞き返す。

「家庭用のピコピコがあるでしょう? あれを世界の人びとと一緒に、この携帯電話でやるんですよ。」

少年は手を止めて、老婆に説明する。

「なんかよく分からんけど、ハイテクってやつかい。すごいねえ……私のでも出来るかい?」

目を輝かせながらそう言うと、老婆はポケットからフィーチャーフォンを取り出す。

折り畳み式の携帯電話を保有しているものなど、絶滅危惧種だろうと思っていた少年にとって、老婆の見せたそれはある意味新鮮だった。

「えーっと……うーんと…………残念ながら、それだとちょっと無理だと思います。」

少年は、答えにくそうに控えめに、老婆の方をおずおずと見る。

ガラホと呼ばれている機種ならまだしも、今や廃版になりつつあるフィーチャーフォンでは、アプリのインストールさえも出来ない。

「……」

柄にもなく、落ち込んだ素振りを見せる老婆を見て、少年はスマホを当たりだす。

「……良かったら、やってみます……?」

少年はそう言うと、老婆にスマホを差し出す。

「いいのかい?」

先程から一変、老婆は嬉しそうにはしゃいだ素振りを見せる。

「どうぞ。」

そんな老婆の様子を見てほっとしたように、少年は微笑む。

老婆は少年の隣に座ると、差し出されたスマホを受け取ると、期待に満ちた表情で少年の方を見やる。

少年が今しているゲームでは、キャラクタースロットが4つある。

そのうちの1つは、既に少年が使ってしまっているが、後の3つはまだ空のままになっている。

そのスロットのうち、1つを老婆に分け与えてやるということだ。

「じゃあ、まずはキャラクターを作りましょう。」

そう言うと、少年は、老婆にスマホを手渡しながら、ゲームの手順を教える。

そんな少年に応えるかのように、老婆は真剣な面持ちでスマホを操作する。

大分時間が掛かった末に、漸くキャラクターができた。

その頃には、既に太陽は顔を隠し、辺りには薄闇が広がり始めていた。

「今日はここまでかい……」

少し落ち込んだ様子で老婆が呟く。

「続きはまた明日ってことで。」

少年はそう言うと、スマホを制服のスラックスのポケットに仕舞うと、ベンチから立ち上がる。

「ああ、明日が楽しみだよ。」

老婆も、それに続いて立ち上がる。

「じゃあ、また明日。」

互いにそう言い合うと、それぞれがそれぞれの帰路に着く。

薄闇に包まれた公園には、明かりが点り始めている。
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