相席中@14日

釜借 イサキ

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@3日目

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いつものように、いつもと同じ場所、同じくらいの時間帯。

初夏の日差しが程よく落ち着いてきた頃合いの公園のベンチで、いつも通り、少年は日課をこなそうとスマホを見る。

ゲームにログインしようとすると、ふと、昨日作った老婆のキャラクターが目に入る。

それと同時に、嬉しそうな老婆の顔が脳裏を過る。

正直、最初はいつも良いところで邪魔してくる老婆に対して、あまりいい感情を抱いてはいなかった。

寧ろ、意地の悪い婆さんだとすら思っていた。

しかし、初めてまともに話をすると、そんなに悪い人間でもないように感じた。

自分のキャラクタースロットを選択すると、少年の分身は草原を走り出す。

久しぶりにドラゴンの住処ではない場所を探索する。

『続きはまた明日ってことで。』

その言葉の通りに老婆がここに来てしまえば、ドラゴンとまともに戦える訳などないことを、少年は重々承知している。

どうせ邪魔をされて消化不良で戦闘を終えてしまうくらいなら、別のことをしていたほうがよっぽど良いと考えた結果だ。

あの老婆は、間違いなく対ドラゴン戦闘の妨げになる。

そして、目標の達成を確実に阻害してくる。

少年は、それを2日間、身をもって経験している。

しかし、少年は不思議と、昨日老婆に向けたあの言葉について、特に後悔はしていない。

それどころか、心の何処かで老婆を待っている。

「やあ、ガキんちょ……約束通り来てやったよ!」

昨日の夕方聞いたばかりの声が上から降ってくる。

見上げると、お馴染みの老婆が目の前に立っている。

「さ、昨日の続きを教えとくれ」

そう言うと、老婆はゆっくりと少年の隣に腰かける。

「はい。」

輝いている老婆の目を見て微笑むと、少年は老婆にスマホを差し出す。

昨日できたばかりのそのキャラクターのレベルは、勿論1のまま。

これから冒険を始めるところだ。

老婆がゲームスタートのボタンをタップすると、美しい3Dで描かれた、重厚なストーリーの導入部分が流れ出す。

「ふん……ふん……」

老婆は、それに見入っている。

最初は、何の変哲も無い平和な王国、語り継がれるお伽話……

そのうち、ストーリーは佳境に入る。

まさに、ゲームの舞台となっている王国が滅びかけているのだ。

「ほほー……ほうほう……」

老婆は感心したように頷くと、映像を目で追う。

「んっ? ほー」

そのうち、王国は安寧を取り戻すが、密かに脅威は膨らんでいるという幕引きで、チュートリアルが始まる。

「今のは何だったんだい? こんな薄っぺらい機械でテレビみたいなのが流れてるじゃないか」

今時、こんなことは当たり前なのだが、老婆にとっては真新しい光景だったらしい。

老婆の目は、昨日にも増して一段と輝いている。

そんな老婆の反応は、スマホ社会に慣れてしまっている少年にとっては至極新鮮なものだった。

「最近のスマホゲームはどれもこんな感じなんですよ。」

少年が返すと、老婆は更に感心したように少年とスマホの画面を交互に見遣る。

「すごいねえ。私があんたぐらいの頃にはこんなもん無かったんだよ……今のガキんちょは凄いもん持ってんねえ……」

老婆は本当に感心しているらしく、スマホを色んな角度から見ている。

「で、次はどうするんだい?」

スマホを隅々まで見て満足したのか、老婆は再びゲームに話題をゲームに戻す。

少年は、老婆から、一旦スマホを受けとる。

「あ、えーっと、とりあえずそのキャラクターの指示に従ってください。」

そう言って少年は暗転してしまったスマホを復旧させると、再び老婆にスマホを渡す。

スマホからは軽快な音楽が流れており、案内役のキャラクターが吹き出しを出してゲームの進め方を解説している。

「ここをこう?」

声を弾ませながら初めてのアプリゲームを戸惑いながら進める老婆のことを微笑ましく見ながら、少年は老婆に、時々進行方向を助言する。

「光ったぞ……れべるあっぷ……? すごいのかい?」

目を丸くしながら少年にそう聞いてくる老婆に、少年はにやけながら小さく頭を縦に振る。

「さっきよりも少しだけ強くなってるんですよ。」

老婆の持っているスマホの画面をタップすると、少年は老婆にステータス画面を見せる。

「数字が大きくなってるんだねえ。これが強くなったってことなのかい?」

老婆が問うと、少年は小さく「はい」と答える。

「こりゃあ分かりやすくて良いねえ。」

楽しそうに無邪気な笑みを浮かべる老婆の姿を見て、少年は優しく笑う。

「じゃ……」

「でも、婆さんにはこれが限度だねえ。……目が疲れちまったよ……」

もう少し進めようと言おうとした少年の言葉を、忙しく瞬きしながら老婆が遮る。

「暗くなってきたし、もう今日は帰るよ。」

唐突に切り出された打ちきりの言葉に、少年は少しだけ悲しそうに顔をしかめる。

「そう、ですね。……また明日。」

少年の言葉を聞くと、老婆は杖を支えにベンチから立ち上がる。

「じゃあね。あんたも早く帰るんだよ? ガキんちょ」

老婆は勝手に終わりを告げると、手を降りながら、薄闇のなかに消えて行く。

少年は、自分にも分からない、遣り場のない感情を抱えながら、まだ薄暗く電灯が点った公園を後にした。
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