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@4日目
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いつものように、いつもと同じ場所、同じくらいの時間帯。
初夏の茹だるような暑さが程よく落ち着いてきた頃合いの公園のベンチで、少年はスマホを開く。
いつものようにログイン画面を見ると、2つ目のスロットに、老婆が作ったキャラクターが表示されている。
レベルは2、昨日、少しだけ上がった。
ーーあのお婆さん、早く来ないかなあ……
少年はスマホから顔を上げて老婆を探すが、その姿は見つからない。
代わりに、周りで遊んでいる子供達やら、散歩に来ている高齢者やらが目に入る。
今まで、このベンチを定位置にずっとスマホを眺めていた少年にとっては、ある種、新鮮な光景だった。
それと同時に、懐かしさを感じる。
中学に入るまでは、ずっとああして遊んでいたような気がする。
言いたいことを言い合って、喧嘩して……
ふと、生暖かい風が吹く。
それと同時に、少年の鼻腔が若葉の匂いで満たされる。
「お兄さん、ごめんなさい!」
足に軽く何かが当たった感覚を覚えるのと同時に、幼い声が聞こえた。
そちらの方を見遣ると、そこにはまだ小さい子供が立っていた。
「はい。」
少年はスマホをベンチに置いてベンチから立ち上がると、ボールを子供の方に投げる。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
子供はそう言ってぺこりとお辞儀をすると、また友達の方に帰って行く。
その後ろ姿に、少年は手を振る。
「やあ、ガキんちょぉ……どうしたんだい?」
いきなり後ろから声を掛けられて少年が振り向くと、そこには少年が先ほどまで探していた老婆の姿があった。
「こんにちは。」
少年はそれを悟られるのが嫌で、少しだけうつむき気味に挨拶する。
「……? こんにちは、で、昨日の続きを教えておくれよ。」
老婆は挨拶もそこそこに、早々とベンチに座り込む。
「はいはい。」
老婆の言葉に、仕方がないといった空気を醸し出しながら、少年もベンチに座る。
少年が先ほどベンチに置いたスマホは、すでに老婆の手中にある。
「はいは一回。」
老婆は得意げにそう言うと、少年にスマホを差し出す。
「はい。」
苦笑いすると、少年はスマホのスリープ画面を解除する。
「はい、どうぞ。」
少年が老婆にスマホを手渡すと、老婆は小さく礼を言ってそれを受け取る。
「ありがとう。で、ここ押すんだったねえ。」
断定的な口振りとは裏腹に、老婆は固い面持ちでスタートボタンを指差す。
少年が首を縦に振ると、老婆は安心したようにスマホの画面をタップする。
「ろぐいんぼーなす? 何だいこりゃあ?」
不思議そうに問い掛ける老婆に、少年は優しく答える。
「日毎にログインする度、貰えるんですよ。」
「へえ……気前が良いんだねえ……」
老婆が満足そうに頷くと、少年はそれに多少の疑問を覚える。
何故疑問を覚えたのかは、少年にも分からない。
「まあ、そうかもしれないですねえ……」
自分の言葉を、明確に否定も肯定もしない少年を他所に、老婆は更にゲームを進める。
いきいきと、楽しそうにスマホに向かう老婆を微笑ましく見守りながら、少年は自らに問う。
自分は、いつまでこんなに楽しそうにゲームをしていたのだろうかと。
自分とって、ゲームは何なのだろうと。
「うわあ、何だいこりゃあ?」
突然の老婆の叫び声に、少年は現実に引き戻される。
スマホから鳴るけたたましい警報音と共に、画面は赤く染まり、『danger』の文字が右から左に流れてゆく。
「お婆さん、これ、ボスですよ!」
少年がそう言うと、瞬く間に画面の文字は晴れてゆき、代わりに巨大な蜘蛛のようなモンスターが現れる。
「ぼす? 何だいそりゃあ?」
「ここで一番強い敵のことです! ……まず、右下の剣のマークを押してください!」
老婆の質問に答えるも、忙しなく少年は老婆に指示を出す。
今の少年のレベルであれば楽勝な敵ではあるが、老婆にとってはかなりの強敵だ。
「次っ……回避ボタン押してくださいっ!」
老婆は、辿々しいながらも少年の指示を聞き、何とかボスの体力を削る。
「そこでスキルですっ! ファイアソードをっ!!」
老婆は返事をする余裕もなく、少年の指示を聞きながら行動を選択する。
「「やった……!」」
老婆と少年はハイタッチして笑い合う。
「倒したのかい?」
老婆は首を傾けながら少年に嬉しそうな視線を送る。
「はいっ! 倒せました」
少年も嬉しそうに声を上げる。
「ふう、今日はすごいことをしちまったねえ……じゃあ、私はそろそろ帰るとするか……」
老婆は何故か照れ臭そうにそう言うと、スマホを少年に返す。
「ありがとね。」
老婆は少年に微笑み掛けながらベンチを立つと、自分が元来た道を戻りながら手を振る。
「……はい。」
少年は、いつも自分のタイミングでこの時間を切り上げてしまう老婆に、形容しがたい感情を抱きながら彼女の背中に手を振る。
太陽は完全に向こう側にいってしまい、きっと空には月が出ていることだろうーーそんなことを思いながら、少年は一人、薄暗い輝きをこさえた電灯たちを背に、帰路に着いた。
初夏の茹だるような暑さが程よく落ち着いてきた頃合いの公園のベンチで、少年はスマホを開く。
いつものようにログイン画面を見ると、2つ目のスロットに、老婆が作ったキャラクターが表示されている。
レベルは2、昨日、少しだけ上がった。
ーーあのお婆さん、早く来ないかなあ……
少年はスマホから顔を上げて老婆を探すが、その姿は見つからない。
代わりに、周りで遊んでいる子供達やら、散歩に来ている高齢者やらが目に入る。
今まで、このベンチを定位置にずっとスマホを眺めていた少年にとっては、ある種、新鮮な光景だった。
それと同時に、懐かしさを感じる。
中学に入るまでは、ずっとああして遊んでいたような気がする。
言いたいことを言い合って、喧嘩して……
ふと、生暖かい風が吹く。
それと同時に、少年の鼻腔が若葉の匂いで満たされる。
「お兄さん、ごめんなさい!」
足に軽く何かが当たった感覚を覚えるのと同時に、幼い声が聞こえた。
そちらの方を見遣ると、そこにはまだ小さい子供が立っていた。
「はい。」
少年はスマホをベンチに置いてベンチから立ち上がると、ボールを子供の方に投げる。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
子供はそう言ってぺこりとお辞儀をすると、また友達の方に帰って行く。
その後ろ姿に、少年は手を振る。
「やあ、ガキんちょぉ……どうしたんだい?」
いきなり後ろから声を掛けられて少年が振り向くと、そこには少年が先ほどまで探していた老婆の姿があった。
「こんにちは。」
少年はそれを悟られるのが嫌で、少しだけうつむき気味に挨拶する。
「……? こんにちは、で、昨日の続きを教えておくれよ。」
老婆は挨拶もそこそこに、早々とベンチに座り込む。
「はいはい。」
老婆の言葉に、仕方がないといった空気を醸し出しながら、少年もベンチに座る。
少年が先ほどベンチに置いたスマホは、すでに老婆の手中にある。
「はいは一回。」
老婆は得意げにそう言うと、少年にスマホを差し出す。
「はい。」
苦笑いすると、少年はスマホのスリープ画面を解除する。
「はい、どうぞ。」
少年が老婆にスマホを手渡すと、老婆は小さく礼を言ってそれを受け取る。
「ありがとう。で、ここ押すんだったねえ。」
断定的な口振りとは裏腹に、老婆は固い面持ちでスタートボタンを指差す。
少年が首を縦に振ると、老婆は安心したようにスマホの画面をタップする。
「ろぐいんぼーなす? 何だいこりゃあ?」
不思議そうに問い掛ける老婆に、少年は優しく答える。
「日毎にログインする度、貰えるんですよ。」
「へえ……気前が良いんだねえ……」
老婆が満足そうに頷くと、少年はそれに多少の疑問を覚える。
何故疑問を覚えたのかは、少年にも分からない。
「まあ、そうかもしれないですねえ……」
自分の言葉を、明確に否定も肯定もしない少年を他所に、老婆は更にゲームを進める。
いきいきと、楽しそうにスマホに向かう老婆を微笑ましく見守りながら、少年は自らに問う。
自分は、いつまでこんなに楽しそうにゲームをしていたのだろうかと。
自分とって、ゲームは何なのだろうと。
「うわあ、何だいこりゃあ?」
突然の老婆の叫び声に、少年は現実に引き戻される。
スマホから鳴るけたたましい警報音と共に、画面は赤く染まり、『danger』の文字が右から左に流れてゆく。
「お婆さん、これ、ボスですよ!」
少年がそう言うと、瞬く間に画面の文字は晴れてゆき、代わりに巨大な蜘蛛のようなモンスターが現れる。
「ぼす? 何だいそりゃあ?」
「ここで一番強い敵のことです! ……まず、右下の剣のマークを押してください!」
老婆の質問に答えるも、忙しなく少年は老婆に指示を出す。
今の少年のレベルであれば楽勝な敵ではあるが、老婆にとってはかなりの強敵だ。
「次っ……回避ボタン押してくださいっ!」
老婆は、辿々しいながらも少年の指示を聞き、何とかボスの体力を削る。
「そこでスキルですっ! ファイアソードをっ!!」
老婆は返事をする余裕もなく、少年の指示を聞きながら行動を選択する。
「「やった……!」」
老婆と少年はハイタッチして笑い合う。
「倒したのかい?」
老婆は首を傾けながら少年に嬉しそうな視線を送る。
「はいっ! 倒せました」
少年も嬉しそうに声を上げる。
「ふう、今日はすごいことをしちまったねえ……じゃあ、私はそろそろ帰るとするか……」
老婆は何故か照れ臭そうにそう言うと、スマホを少年に返す。
「ありがとね。」
老婆は少年に微笑み掛けながらベンチを立つと、自分が元来た道を戻りながら手を振る。
「……はい。」
少年は、いつも自分のタイミングでこの時間を切り上げてしまう老婆に、形容しがたい感情を抱きながら彼女の背中に手を振る。
太陽は完全に向こう側にいってしまい、きっと空には月が出ていることだろうーーそんなことを思いながら、少年は一人、薄暗い輝きをこさえた電灯たちを背に、帰路に着いた。
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