コピーキャットの仮面

釜借 イサキ

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 内心舌打ちしながら目の前の美女に作り物の笑顔を差し出す。
「ハルカちゃんは美人で、頭も良くて、みんなの人気者で……ずっと私の憧れだったんだよ」
コハルにそう言われて悪い気はしないらしく、ハルカは嬉しそうにはにかんだ表情を見せる。
「ありがとう」
そう返すと、ハルカはコハルに優しく微笑み掛ける。
「あ、そうだ……」
ハルカは、何かを思い付いた様に握りこぶしをもう一つの掌に打ち付ける。
「コハルちゃん、秘密基地の場所覚えてる?」
可愛らしく首を傾げながら問い掛けるハルカの言葉に、静かに頷くと、ハルカは目を輝かせながら言葉を続ける。
「折角だからさ、もう一度、あそこに行かない?」
コハルも、嬉々とした表情で首を縦に振る。
「うんっ!」
2人で顔を見合わせると、ハルカがコハルの手を握ってくる。
「あ、でも、お仕事大丈夫?」
気持ちが早りすぎてがっついてしまった事に内心焦りつつ、相手の都合を一応確認する。無論、彼女が出してきた案なのだ。大丈夫でない訳がない。
「ええ。大丈夫よ。コハルちゃんは?」
ふわりと笑いながらそう言うと、ハルカは上目遣いで問い返す。
「私も大丈夫!」
コハルも声を弾ませながら、右手の親指と人差し指で丸を作る。他の三本の指は、スラリと細く、綺麗に立っている。それを見たハルカの顔が一瞬歪んだ事に、コハルは気づかないフリをする。
「じゃあそうと決まれば早く行っちゃおっ!」
ハルカは、首を傾げながら肘を肋につけて両の拳を肩の位置まで持ってくると、首を傾げながら満面の笑みを浮かべる。
「行っちゃおっ!」
態とらしく、大げさな素振りでその動作をするハルカを暖かい目で見守ると、コハルもそれに続く。2人は颯爽とマンションの敷地を後にする。
 ヒールがアスファルトに叩きつけられる音を2つ並べながら、同じ様な格好をした仲良し2人組は、全く同じ方向に歩き出す。
「そう言えば、ハルカちゃんは今どこに勤めてるの?」
コハルは、他愛もない会話……昔馴染みに遭ったときの、ごく普通の世間話を、ハルカに持ちかける。
「うん。今は◇◇証券に勤めてるの。」
気取った様子など一切見せず、ハルカはにこやかにそう伝える。◇◇証券と言えば、日本でも大手の外資系企業だ。
「えっ……そうなの? それ、すごくない?」
誰もが羨むであろう経歴に内心ほくそ笑みながら、コハルは驚いたような表情を浮かべる。
「そんな事ないよぉ……」
照れ笑いを浮かべながら顔の前でこちらに左の掌を向けて、コハルの言葉を打ち消す動作をする。
「ハルカちゃんはやっぱりすごいや……」
懸命に綺麗な笑みを作ったまま、相手のことを賞賛する言葉を掛ける。コハルは、この後のことを考えながら舌なめずりをする。
 相変わらず澱んだ雲が日光を覆い隠す空の下、残らない足跡を刻みながらアスファルトを叩きつける2つの靴音は、並んで"思いでの場所"へと歩みを進めてゆく。

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