コピーキャットの仮面

釜借 イサキ

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 曇り空の下、いつもよりも一層暗くなったマンションの廊下に出てドアに施錠していると、隣から明るい女性の声が聞こえる。
「おはようございます。」
声の持ち主は、見ず知らずの隣人。第一印象はこの上なく良い。恐らく、初めて顔を見たであろうその人は、どうやら女性だったらしい。
「おはようございます。」
女性も、大きな目を細め、ぷっくりとした薄い唇で笑みの形を作りながら言葉を返す。同じ様な格好をした女性2人は、共に階段の方に歩いて行く。
「あなたも階段を使われるんですね。」
コツコツと、2つのあしおとが階段を降りてゆく中、不意に後から付いてきている隣人が女性に声を掛ける。
「ええ、最近、ダイエットしなきゃと思って」
くるりと振り返り、作り笑顔と共に頭の片隅にも無い返事を返すと、女性は視線を前に戻す。ここは8階だ。圧倒的にエレベータを利用する者が多い中、階段を使う彼女は、端からみればかなり珍しいのだろう。
「私も何です。最近、お腹のお肉が気になっちゃって……」
隣人はそう言うと、腹の肉を摘んで上下させる仕草をする。その顔には少しだけ朱が差しているが、恐らく真意では無いだろう。
「そうなんですね。お互い頑張りましょうね。」
尤も、彼女と腹の探り合いをするつもりは毛頭無いので、女性は適当にそれを流す。偶にいるのだ。少し話しただけで、相手と親しくなった様な気になる奴が。人懐っこいとも言うが、このタイプの人間は扱い易い者とそうで無い者に分けられる。……女性にはあくまで関係の無いことではあるが。
 2つの靴音は、階段が行き当たった場所でピタリと止まる。
「それじゃあ……」
女性も、一応これから仕事に行かなければならない。ここで別れを告げようとするが、
「ねえ、あなた、ハルカちゃんだよね?」
親しげに話しかけてくる隣人に言葉を遮られる。
「え、ええ……」
少し訝しみながらも、女性はその言葉を肯定する。過去の情報から、目の前にいる隣人の顔を引き出そうとするが、かねてから余り他人に興味が無かった彼女にとって、それはとても無意味なことだった。
「私、コハル。小中が同じで一緒に秘密基地作ったよね?」
ーーコハル……? そんな人、いたかしら……
女性ーーハルカは、隣人ーーコハルの記憶を引き出そうとするが、やはり思い出せない。大体、ハルカには他人と一緒に秘密基地を作った思い出など無いのだ。
「ああ、コハルちゃん? ……ああ、そういえばそんなことあったよね。あの頃は楽しかったね。」
ハルカは、コハルに自然な笑顔を向けながら懐かしむ素振りを見せるものの、全く思い出せない。しかし、それは慣れたもので、全く不自然さを感じさせない。
 コハルは、そんなハルカに対して表情を一つも曇らせず、始終ニコニコしているだけだ。
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