【完結】Spice up my life〜元カレが今カレに一目惚れしたら目の前で薔薇が舞い散るようになってしまったんですが

ていくみー

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Episode2:No spice,No life

2-15 キスの条件【才造視点】

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 夜が明けて土曜、莉子は仕事があるのでいつもどおり朝から出勤していった。
 俺たち男二人はカレンダー通りの休みなので、大崎が俺の看病という名目で俺と莉子のマンションに残った。おおむね熱も下がり、体も動くようになったので不要なんだが。

「さいぞーさん、食べられそうなものありますか? 何でも作りますよ♡」

 食欲も湧いてきたし、コイツがそう言うので、無茶振りしてやることにした。

「……カレー。あの店の味、再現してみせろ」
「承知しました♡」

 我が家のキッチンに立って料理を始めた大崎の後ろ姿は、この上なく幸せそうに見えた。鼻歌なんぞ歌っていやがる。

 何だか癪なので、隣に立ってどんなスパイスの調合をするのか監視してやることにした。

「この前お前が作ったやつをベースで、コリアンダーの割合を増やしてみるとか?」
「やっぱりそう思います? 僕もコリアンダーが足りないかなと思いました。その代わり、オールスパイスの割合を減らしてみますね」

 大崎がコリアンダーの瓶を開けると、あたりに生臭い臭気が漂ったので、俺は思わず鼻をつまんだ。

「くっっっせぇ」
「ですよねぇ。コリアンダーって単品だとクセが強いので増やすのを躊躇ためらうんですが、でも、上手く使うといいアクセントになるんですよね。不思議です」
「……なんか、どっかの誰かみたいな」
「もしかして僕のことですか? カレーに例えられたのは生まれて初めてでしたよ」

 ニッコリ微笑みながらそう返されたので、俺は反射的に、カメムシにでも触った時のように顔をしかめた。

「僕的には、今回郡さんもなかなかいいスパイスになってくれたと思いますけどね」
「あ?」
「結果的に、彼女がかき回してくれたおかげで莉子ちゃんに対するさいぞーさんの愛を再確認できたじゃないですか。ついでに、僕に対するさいぞーさんの本音も聞けましたし」
「てめェ……まさか、最初からそれが狙いで郡さんをそそのかしたんじゃねぇだろな」
「まさかぁ。人を自分の思惑通りに動かすなんて、そんなことできるわけないじゃないですか。ましてや、あんな思考の読めない人を」

 あくまで明るくカラッと白を切ったが、怪しいもんだ。コイツならそのくらいのことしでかしそうだ。

 微笑みなんぞ浮かべて幸せそうに鶏肉とスパイスを炒める大崎の横顔を、俺はなんの気もなしに眺めた。
 よくよく見ると――いや、随分前から分かってはいたが、完璧なまでの美貌なのだ(ただし喋っていなければの話)。
 透き通る肌に、整った目鼻立ち。特に妖しげな口元が時折人をゾクッとさせる。華奢な体つきや柔和な雰囲気から、女性に間違えられることすらあると本人も言う。ここだけの話、俺も初めて会った時は随分な美人が来たなと一瞬うっかり思った。

 認めたくはない。ルッキズムなど決して信仰しない。むしろコイツを見ていると、劣等感×嫉妬=嫌悪感でしかない。

 なのに――

 こんなにも揺るぎない、絶対的な好意を俺と莉子に向けてくるのは一体何なんだ。俺にどうしろと。お前、俺の何なんだ。

 「目には目を、歯には歯を」という言葉がある。それならば――





 夕方、莉子が仕事から帰宅した頃、カレーがじっくり煮込まれていい具合になった。

「いいニオイ~♡ おなかすいたぁ。コンビニでスイーツ買ってきたから、デザートに食べよ」
「おかえり♡ スイーツもいいけど、莉子ちゃんの方が甘……」
「食わせねぇよ?」

 またそんなコントのようなやり取りを交わした。「まず食事にします? お風呂にします? それとも……」に代わる鉄板だ。


 そしてカレーを並べて三人で食卓につく。

「これ、二人で協力して作ったの?」
「作ったのはほぼ僕。さいぞーさんは横から口を出してただけ」
「俺のアドバイスがあってこそだろうが」
「はいはい、そうですね♡」

 何を言っても暖簾に腕押しなので、俺は聞こえよがしにチッと舌打ちをしてやった。

「……で、今日1日あたしがいない間、仲良くカレー煮込みながら……?」
「仲良く過ごしてはいたけど、莉子ちゃんが期待しているようなことは起こってないと思うよ。君がいないところでイチャイチャするのはルール違反でしょ」
「そんなルール知らん。つーか莉子がいてもイチャイチャなんてしねぇけどな?」

 そう返すと、なぜか大崎よりも莉子がガッカリした。なんでだ。

「それよりさいぞーさん、カレーの味、どうですか?」
「だいぶ近付いたけど……まだちょっと違うような」
「えぇ~? そうですかねぇ。何が足りないのかなぁ」

 大崎が自分で作ったカレーを口に含みながら、真剣な表情で考え込む。うーんと首をひねったり、皿をじっと見つめてみたり。
 そんな様子を見ているうちに、俺の中にじわじわと底意地の悪い感情が芽生え始めた。

「お前さ……俺とキスしたい?」
「へっ?」

 驚いたように、大崎がパッと顔を上げた。莉子も同じように目を見開いている。

「嫌なら別にいいけど」
「したっ……したいですぅぅぅぅ!!! 解禁ですか!!!!!??」
「条件がある。あの店の味を完璧に再現できたら、1回だけな」
「ほっ、本当ですか!!!?」
「俺の気が変わらない内にせいぜい努力しろ。死ぬ気で」

 悲鳴にも近い奇声をあげて大崎が狂喜乱舞した。喜ぶのは条件達成してからにしろ。ウゼーから。
 ただ、大崎だけでなく莉子もスプーンを持って固まったままボタボタと鼻血を垂らしている。この悪趣味クソ可愛腐女子が。





 週明け、風邪はすっかり完治し、俺は仕事に復帰した。

 それから数日経ったある日、俺と大崎は職場で意外なことを知った。

「郡さんから……莉子に渡してくれって手紙を預かったんだが」
「え゛っっっっ!!!!!!?」

 帰宅した後、莉子に一通の封筒を差し出すと、彼女は盛大に怪訝な顔をして拒絶反応を示した。

「なんであの人から手紙なんて……! さいぞー、この前のケンカのこと忘れたわけじゃないよねぇぇ?」
「大丈夫だよ、莉子ちゃん。僕も目を通させてもらったから。色々思うところはあるかもしれないけど、そこをこらえて読んでごらん」

 なぜか当たり前のように俺たちのマンションについて来た大崎に促され、やや警戒しながらも莉子は封筒を受け取って中身をガサガサと取り出した。
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