キツネとハンカチ

倉谷みこと

文字の大きさ
上 下
6 / 8

第6話 捜索

しおりを挟む
 夜目がきくとはいえ、やはり昼間よりも視界は悪い。したがって、どうしても嗅覚に頼らざるを得ないところがある。だが、先ほどから鼻腔をくすぐるのは、ほのかにただようキンモクセイの香り。いつもならこの甘い香りにうっとりするのだが、あいにく今はそんな余裕はない。

 嗅覚に頼るのを諦めたキツネは、切り株周辺の地面を注意深く見て回ることにした。

 しばらく探し回ると、とある小さな足跡を見つけた。それは、自分やリスの足跡とはまったく違うもの。だが、明らかに小動物のものと断定できるほどの大きさだった。

 キツネは、見失わないように注意しながら足跡を辿っていく。それは、森の奥へと続いていた。

 しばらく進むと周囲の闇は濃さを増し、木々や地面との境界線も曖昧あいまいになっていく。

 キンモクセイの香りは次第に薄くなっているが、鼻についた香りまではすぐには消えない。嗅覚もあてにはできなかった。

 集中力が切れてしまったキツネは、ため息をついてその場にへたりこんでしまった。

「あ~あ、もう見つからないのかな?」

 そうつぶやいて虚空を見上げる。

 そこへ、一羽のフクロウがやって来た。

「ホーウ、どうしたんだね? ため息なんかついて。いつもの元気な君らしくないじゃないか?」

 キツネはフクロウに、大切なハンカチがなくなってしまったこと、それが誰かに盗まれてしまったかもしれないことを告げた。

「足跡辿って来たんだけど、さすがにこれ以上は無理かなって……」

 鼻もきかないし、と肩をすくめる。

「なるほど。そういうことなら、ここから先は私が捜すとしよう」

「えっ!? いいの?」

「もちろんだとも」

 フクロウはにこやかにそう言って、地面をよく観察する。あの小さな足跡を確認しているのだろう。

 しばらくして、フクロウは顔を上げキツネに向き直ると、

「君の大切なものを持って行った犯人がわかったよ」

 自信ありげにそう告げた。

「本当っ!?」

「ああ。今から連れて来るから、君はここで待っていてくれ」

 そう言って、フクロウはどこかへと飛び去った。
しおりを挟む

処理中です...