最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル

文字の大きさ
102 / 214

第92話

しおりを挟む
「マルスさん居ますか?」
「あ、ユーマさん」
「今から宝石の配達ってどうですか?」
「もちろん大丈夫です。準備しますね」

 そう言うとマルスさんは店を閉めて、大事そうに宝石の入った箱を持って出てきた。

「では行きましょう。ユーマさんは先に帝国領まで行きますか?」
「そうですね。どこ集合にします?」
「では商人ギルド前でお願いします」

 俺はすぐに帝国領の街へ行き、少し街の中を探索する。

「前ここに来た時はすぐ帰ったからな」

 マルスさんが来るまでの暇つぶしに冒険者ギルドへ来てみたが、何故か皆俺を避ける。

「あの、ちょっとお話いいですか?」
「ひっ、他の奴に聞いてくれ」

「あの、少しお話を」
「お、俺は今から依頼なんだ」

「少しだけはな」
「す、すまねぇ!」
「皆話しかけたら離れてくのはなんでだろ」
「クゥ?」「アウ?」「……?」

 何もしてないのに俺が悪いことをしたような気分になってきたので、冒険者ギルドの受付の人に話を聞くことにする。

「すみません。ここの街のことを知りたいんですけど、冒険者の方に話を聞こうとしたら皆離れて行っちゃって」
「それは申し訳ございませんでした。最近プレイヤー様に絡んだ冒険者が返り討ちに遭いまして、ギルド内でもプレイヤー様を避けるように動く方が多いのだと思います」
「え、プレイヤーに絡むってそんなに治安が悪いんですか?」
「いえ、それほど治安が悪い街だとは思いませんが、少し乱暴な冒険者もいることは事実です。ですがどの街もそのような方は居るので、この街が特別というわけではありません」
「ちなみに冒険者同士の争いって何か罰則があったりします?」
「こちらに何も被害がなければ、冒険者ギルドから特に言うことはないですね。冒険者は乱暴な方が一定数居ますし、そういった方が活躍できる場でもありますから。行き過ぎた暴力等はギルドからも注意いたしますが、他のギルドよりも比較的緩い方ではあるかもしれません。ただ冒険者ギルドに限らず、ギルドへの迷惑行為があった場合は内容に応じて罰則があるので、それは注意してください」

 これまでは乱暴そうな冒険者はあまり見なかったが、確かに態度がデカい冒険者や周りを気にしないような冒険者は帝国領に来てから少し増えた気がする。

「じゃあ一応俺も冒険者に絡まれた時はやり返しても問題ないってことですよね?」
「そうですね。常識の範囲内であれば実力差を見せつけることも大事です。ですが、しばらくプレイヤー様にちょっかいをかける方はこの街では現れないと思いますよ」
「あぁ、プレイヤーが返り討ちにしたんですもんね」
「そうです。冒険者はプライドも重要ですから、プレイヤー様に負けたとなればしばらくギルドには顔を出せないでしょう」
「なんか思ったよりやんちゃな人達が多そうですね」
「全ての冒険者がそうというわけではありません。ありませんが、目立つのはそういった方達ですので、冒険者に少し怖いイメージを持たれている方も多いと思います」

 確かに大人しい冒険者は今だって居る。そしてはじめの街と、その周りの方角の名前が付いた4つの街では、乱暴な冒険者などプレイヤー以外では見なかった気がする。
 だが、もしかしたらプレイヤーに対してリスペクトがあっただけで、本当は乱暴な一面もあったのかもしれないなと今になってみると思う。

「これまではプレイヤー様のための街がありましたが、ここからはこの世界の住人のための村が、街が、国があります。その事をお忘れにならないでください」
「確かにそうですね。ありがとうございました」
「いえ、今思うと冒険者ギルドの受付として少し良くない発言もあった気がしますが、それは全て忘れていただけると」
「分かりました。お話ありがとうございました」

 受付の人は俺に頭を下げて見送ってくれた。

「ちょっと話しすぎたし、早く商人ギルドに行かないと」

 受付の人と話してなんとなくこの街のことが分かったし、冒険者ギルドのことも知れたのは良かった。

「あ、ユーマさん」
「マルスさんすみません。待たせました?」
「いや、今来たところですよ」
「良かったです。じゃあ行きますか」
「モンスターはユーマさん達に任せますね」
「クゥ!」「アウ!」「……!」

 本当は冒険者ギルドでもう少しこの街の周辺のことも聞いておきたかったが、今回はマルスさんの案内だけで頑張ろう。

「この街からはそう遠くないですけど、モンスターには気をつけて行きましょう」
「そうですね。俺達も初めての場所なんで、モンスターは慎重に倒していきます」

 王国領ではゴブリンが出たが、帝国領では何が出るのだろうか。

「来ました! コボルトです!」
「よし、いつも通りの陣形で行こう」
「クゥ」「アウ」「……!」

 これも王国で戦ったゴブリンに続いて有名なモンスターではあるが、ゴブリンの巣にまで行って戦った俺達にとって、コボルトはやりやすい相手だった。

「アウ!」
『コボッ』
「クゥ!」
『ゴボ』
「……!」
『コ、コボ』
「皆さんお強いですね」
「最近ゴブリンを相手にしてたので、それもあって戦いやすいのかもしれないです」
「なるほど」

 そしてあっという間にコボルト達を倒してしまったが、ウル達は周りの警戒を怠らない。

「これなら安心して任せられます!」
「それなら良かったです」
「クゥ!」「アウ!」「……!」

 そしてこのあとも何度かコボルト達に襲われたが、全て倒して目的の街まで護衛することが出来た。

「ユーマさん、ありがとうございます!」
「いえいえ、どうぞその宝石を持っていってください。正直誰かに奪われたりする方が俺としては不安なので」
「確かにそうですね。すぐに行きましょう」

 街の中でもマルスさんを俺とウル達で囲みながら、宝石が奪われないようにした。

「ここです」
「大きいですね」

 ハティの家と同じくらいの大きさ、いや、もしかしたらそれ以上の家が目の前にあった。

「マルスです。あの時渡すことが出来なかった宝石を持って参りました」
「マルスさんというと、マルス宝飾店のマルスさんですか?」
「はい、そうです」
「少々お待ちください」

 家から出てきた執事らしき人は、マルスさんの話を聞くとまた家の中に戻っていった。

「ちなみに宝石を今日持ってくることは連絡したんですか?」
「いえ、私には今回の事件も含めてどう説明すれば良いのか分からなかったもので、全く連絡はしていません」
「そ、そうなんですね。でも、一応来ることくらいは言っておいた方が良かったんじゃないですか?」
「ここに来る正確なタイミングが決まっていなかったのもありますが、確かに来ることくらいは伝えておいた方が良かったですね」

 マルスさんも今になって少し顔が青くなってきた。

「私、この宝石を渡すことに夢中で、とんでもない失礼をしてしまったのかもしれません」
「いやいや、そんなことないですって。説明したら分かってくれますよ」
「どうぞお入りください」
「わ、分かりました」
「俺も良いんですかね?」
「どうぞ」

 家に案内された俺達は、入ってすぐの部屋に入れられて、この家の主人を待つことになる。

「失礼がないように、失礼がないように、失礼が……」
「マルスさん、あんまりこういうの慣れてないんですか?」
「お店の中であれば大丈夫なんです。ただ、こういった形で商品をお渡しするのは昔からどうも苦手でして。フォルスが生きていた時は貴族様の相手を任せていたもので、久し振りというのもあり、き、緊張します」

 マルスさんが緊張しているせいというか、おかげというか、俺は全く緊張していなかった。もしかしたら最近貴族の方と関わりがあるのも影響しているかもしれない。

「おまたせしました。父は今外に出ておりまして、息子の私が代わりに対応させていただきます」
「突然の訪問で申し訳ありません。本来であれば事前に連絡するところでしたが、早くお届けしないとという気持ちで来てしまいました。早速ですがこの宝石をお受け取りください」

 マルスさんはこの家の息子さんに宝石の入った箱を渡す。

「これは?」
「私が以前加工を依頼されたものでございます。遅くなってしまいましたが、どうか受け取ってください」
「中は見て良いのですか?」
「本来は依頼された御当主様へ最初にお見せしたかったのですが、急な訪問でしたし、御当主様の代わりということですのでどうぞご覧になってください」
「……な、なんと」

 俺も完成品は見たことがなかったが、息子さんが宝石を手に取り持ち上げてくれたおかげで初めて見ることが出来た。
 俺は宝石に詳しいわけではないが、遠くからでも今までの宝石とは全くレベルの違うものだということだけは分かる。

「こ、これを父はどうして?」
「それは私には分かりません」
「と、とにかく父には私から伝えてこう。余計なことは言わなくて良い」
「では、よろしくお願いいたします。お渡しするのが遅くなったこと、心よりお詫び申し上げます」
「あ、あぁ、それも私から伝えておこう」
「では失礼いたします」

 マルスさんに続き俺も部屋から出る。

「あの、息子さんに渡して本当に大丈夫でしたか?」
「私はしっかりと父の代わりに受け取るということを聞きましたから。何も問題はありません」
「あ、執事さんの前ですみません」
「いえ、今のお話は聞かなかったことにします」

 こうして宝石を渡すというマルスさんの目的は達成され、執事さんに玄関まで案内してもらい俺達はこの家を出るのだった。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

【完結】VRMMOでスライム100万匹倒して最強になった僕は経験値で殴るゲームやってます

鳥山正人
ファンタジー
検証が大好きな主人公、三上ハヤト。 このゲームではブロンズ称号、シルバー称号、ゴールド称号が確認されている。 それ以上の称号があるかもしれないと思い、スライムを100万匹倒したらプラチナ称号を手に入れた主人公。 その称号効果はスライム種族特効効果。 そこからは定番の経験値スライムを倒して最強への道かと思ったら・・・ このゲームは経験値を分け与える事が出来て、売買出来るゲーム。 主人公は経験値でモンスターを殴ります。 ────── 自筆です。

俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件

夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。 周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。 結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。 理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。 今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。 ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』 計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る! この物語はフィクションです。 ※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...