飼われる側って案外良いらしい。

なつ

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3.霧、もしくは雨、もしくは…

4

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もくもくと手と口を動かしてとっとと食べる。食事を終え、須磨に処方された薬を飲む。部屋に戻るとそのまま寝てしまいそうなので、どうでもいいニュース番組をBGMに少しぼーっとしていたら、それなりに時間が経っていたらしい。

「紫ヶ崎君、君はそろそろ歯磨きして寝よう。怪我人だし、実は熱もまあそこそこあるんだからね?」

言われなくてもする。というか…

「熱、あったんですね」

「…君は少し自分の身体に無頓着すぎると思うよ」

無頓着でいいだろう、その方が都合がいい。

心のなかでだけそう返して洗面所に向かう。「紫ヶ崎だから紫なんだ」とやたら無駄に楽しそうに説明していた姿を思い出しながら、持ち手が紫色の歯ブラシを取る。もうミースは何も言ってこなかった。
歯を磨く己の姿が鏡に映る。見たことないくらい髪が、こう…ちゃんとしていた。いつも鳥の巣な紫ヶ崎はしっかり乾かされサラサラ髪な己があまりにも見慣れず、目を逸らした。
逸らした先にはこれまた歯ブラシと同色のコップやらフェイスタオルやらがあり、歯を磨いているはずなのになんだかうんざりした。

「寝るんで。おやすみなさい」

時刻は23時。キッチンで忙しなく動くミースに一応一声かける。

「そっか。いくらでも寝ててね!…って言いたいところだけど、規則正しい生活を送ってもらわないと治るものも治らないから。朝って呼べる時間なら何時でもいいから起きて明日もご飯食べてね。」

アニメやドラマに出てくるうるさめの母親かよ、あんたは。

「俺は明日朝早くて、紫ヶ崎君が起きた時居ないかもしれないけど、早めに帰るから!」

全然ゆっくりでいいです。

頷いて部屋へ。扉を閉め切ると不意にほ、と安堵の息が漏れた。

一時的かつ限定的だとしても、ひとりの時間がここまで落ち着くものだとは気付かなかったな。
いつもあの家でひとりで、その前も、職場でもひとりだから誰かとまともに話すことが滅多に無かった。
それが突然見知らぬ男(人外)とひとつ屋根の下。

そりゃ当然、疲れるだろうな

身体が重いのは熱のせいなのか怪我のせいなのか、心情的なものか。

「…寝るか」

明日もあんな面倒なやつの相手だなんて疲れるに決まっている。きっと無い体力を絞り出さないといけないに違いない。
ふっかふかな檻の中、薄い肌掛け布団を被り目を閉じた。



……

………

「……ねむ、れない…!」

忘れていた。あまりにもあの男と同じ空間に居たくなさすぎて寝るとか言ってしまったが、まだ23時ではないか。
紫ヶ崎はほぼ毎日職場で書類やパソコンと向き合いながら朝を迎える。
そんな奴が何かしらが高そうな他人の家で、日を跨ぐ前に眠れるか?いや、答えはノー。無理。否定。つまり虚無。
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