存在しないフェアリーテイル

如月ゆう

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第四章 何かを護る、たった一つの条件

第二十四話 修行の成果 ~ ルゥ VS レス ~ 後編

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 やっぱりレスは強い……!
 一頻りの攻防を終えて抱いた私の感想はそんなものだった。

 実のところを言うと、この戦闘形式を行うのは初めてではない。
 レスが眠っていた間、山へ行っていた間にもルーカスたちとはたくさん試合をしていた。

 もちろん最初は負けっぱなしだったし、素手だけでのルールなら今でもかなりの敗率を誇る。
 けれども魔法を使えれば私は勝てる。勝てていた。

 だから、余計に彼の強さが身に染みる。
 いつもだったら、あの氷魔法で決着がついていた――と。

 近距離では勝ち目がないから、こうして魔法を使って遠距離から攻撃しているのだが、それを上手くくぐり抜けて接近されてしまう。
 魔法で牽制しても、なぜか読まれて躱されてしまう。

 タイミングは私の動作に合わせているんだろうけど、攻撃箇所はどうやって察知しているのだろうか?
 まずはそのカラクリを見つけなくてはいけない。

「ふぅー――……よし!」

 そこまでを思考し、私は息を吐いた。

 でも大丈夫。まだ問題はない。
 ちゃんと打つ手は残してある。

 身を屈め、脚部に力を入れているような姿勢のレスを見ながら私は右手を振るった。

 想像するのは八つほどの火の球。
 それらを、自分の周りに形成すれば一直線に相手へと飛んでいく。

 同時にレスも走り寄ってきたため、それぞれの距離は瞬く間にゼロとなる――その時にはまるで曲芸のように軽やかに、それでいて無駄のない動きで躱されていた。

 けれどそれは、私も百も承知。
 振った手をグッと握ると、通り過ぎるはずだった火球は瞬時に爆発し、一つの大きな炎塊を生んだ。

 だというのに、何故だろう……。
 どうしてレスは爆発を背に走っているの?

 タイミングは完璧だった。
 空間範囲の攻撃だから、咄嗟に動こうとも巻き込む自信があった。

 それでも、現実は想定通りには動いてくれない。

 為す術なく近距離まで持ち込まれてしまったため、再びの格闘戦。
 掴み、蹴り、殴り、突き。襲いくる多様な技の組み合わせを敢えて反撃は考えずに、防戦一方で受け流していく。

 ともすれば、苛立ちからか動きは大きくなり、重めの強い一撃が来た。
 そしてそれが好機でもある。

 合気の要領で体を動かしレスの腕を取ると、そのままの流れで切り替わる関節技。組み敷いて終わりだ。

 ――という筋道を相手は予想しているに違いない。
 その状況を覆す逆転の一手を用意しながら。

 だから私は、裏をつく。
 体勢こそまさに関節技をする気満々の状態ではあるのだが、その実とある魔法を使用していた。

 それは人の動きでは及べない領域。
 重心移動の真っ最中であるにもかかわらず足元は浮き、後ろへと身体が下がり、自由気ままな鳥のように空を泳ぐ飛行魔法。

 迎え撃つ思いでいっぱいだったレスにとって、その動きは想定外の出来事であり、致命的な隙だ。
 悠々と再び距離を離すことができた私はそのまま指を一本、空中に図形を描くようになぞる。

 同時に足元で芽吹いた蔓はその手足へと伸びて幾重にも絡みつこうとするが、驚くべきことにレスはそれらを手首の動きだけで受け流した。

 蔓だろうが人の手だろうが掴まれるという行動への対処は同じということだろうか。

 一度攻撃をやり過ごせば崩れた姿勢は戻ったようで、その後は空中を蹴って私を追いかけてくる。
 そして、その移動速度は私の飛行魔法よりも速い。

 追随し、強打を加えてこようとする彼。魔法で牽制し、何とか距離を取ろうとする私。
 激しい攻めの応酬に舞台はいつの間にか地上から空中へと移っていた。

 けれども、この状況下ではまだ私の方に分がある。
 片や空中を走り蹴って方向転換をするのに対して、片や予備動作なしに前後左右上下の滑らかな移動が可能。

 そう語れば、誰でも納得できることだろう。
 速度で負けていようとも、小回りの良さで相手を翻弄できる。女で子供な私にとっては普段と何ら変わりないのだし、自由に動き回れる分だけ却って良い。

 そこで踵を返した私は、眩く輝く太陽に向かって真っ直ぐに上昇した。
 振り返れば、遅れて後を追うレスの姿が見て取れ、その距離は僅かにだが確かに狭まってきている。

 太陽を背に振り返ると、右手を向けた。
 想像とともに魔力を高め、魔法を使う。

 しかし、それはこれまでに使ってきた攻撃系の魔法ではない。
 発せられたのは光。ただの真っ白な、高度の強い光だ。

 予想外の一手。
 本来なら相手の目を眩ませるだけの単なる足止めに過ぎないが、このタイミングで使うことによりそれは致命的な隙となる。

 右手の魔法はそのままに、続けざまに左手を振るえば、今度は無数の氷のつぶてが生み出された。
 鋭利な先端をレスの方に向けた、ありふれた氷塊。それを何十――何百も用意して差し向ける。

 それは文字通り、暴力の雨だ。
 擦過でもしようものなら皮膚は裂け、刃物が降っているも同義。

 視界は潰れ、逃げ場のない攻撃に今度こそ手応えを感じる私であったが、それでも幼少より戦いの中に身を置いてきた少年のことを侮っていたようだ。

 どういうわけかは分からない。
 けれど目の前の光景は事実で――レスは目を瞑ったままの状態で自身に当たる攻撃だけを、正確無比にその手の銃で撃ち落としていく。

 さらに、そればかりではなかった。
 私の攻撃を阻んだことで軌道の変わる銃弾どうしをさらに弾かせ、私への攻撃にまで昇華させたのだ。

 まさに攻防一体の手。
 思わぬ反撃に、先の二種の魔法を中断し腕を構えて防御魔法を張る。

 私を包み込むように展開された光の膜が飛来する弾とぶつかり防いでくれれば、涼やかな破砕音とともに細やかな光子が散らばった。

 そんな中で状況確認をすると、先程までの場所にレスはいない。
 同時に膨れ上がる背後の気配。

 慌てて振り向けば、既に脚を振りかぶり終えたレスが蹴りを放ってきた。
 咄嗟に防御魔法を使うが、何故か即座に砕ける。

 焦って発動が失敗した? いや、砕けたということは発動事態はしているはず。
 魔法を使うことを読まれて、対策されていたんだ。

 避けられない攻撃がゆったりと近づいてくる世界を感じていた私の視界の隅にその答えはあった。それに気が付く。

 空いていたレスの左手。そこに握られていた銃は、確かに私の胴体に向けられていた。

 世界は元の時間を進み、ガードの上から蹴りつけられる。
 だけども衝撃が強すぎる。防衛本能故の咄嗟の動きだったが、無いよりマシな程度で何らその役割を果たせていない。

 揺れる視界の中、飛行魔法で姿勢を正しいものに戻すも、もちろん追撃は止まなかった。
 顔を起こせばすぐ目の前にはレスが拳を振るっており、直撃は必至。私が動作をする前に攻撃が届く。

 必敗の状況。私の負けで、レスの勝ち。
 でもだからこそ、一番隙の現れる瞬間でもあった。

 隠していた奥の手――予備動作なしでの魔法の発動を行った私は、同じく隠していた瞬間移動の魔法で相手の背後を取る。

 全ては私が戦況を読み切っていた故の結果だ。
 必勝の状況。私の勝ちで、レスの負け。

 でも、だからこそ――。

 ――レスがそこまで読んでいたら、どうなるのだろう?

 その答えは、移動した先。
 前を見ているにもかかわらず背後に――私の額に向けられた銃口が教えてくれた。
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