存在しないフェアリーテイル

如月ゆう

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第四章 何かを護る、たった一つの条件

第二十三話 修行の成果 ~ レス VS ルゥ ~ 前編

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『おかえりー!』

 お師匠さまの魔法で孤児院へと帰ってきた俺を出迎えてくれたのは、子供たちみんなだった。

 ほんの数日いなくなっていただけだというのに、まるで数年来の再開がごとく一様に抱きついてくる。

「当たり前でしょ……。私の提案とはいえ、数ヶ月寝たきりからの即修行で外出だったのよ? そりゃ、何かある度にこうして甘えてくるに決まっているじゃない」

 そういえば、そうだっけか。
 なんか時間の感覚が狂っている気がする。

「――レス!」

 その唐突な声に振り向けば、お腹にポスンと重みがかかった。

「よぉ、ルゥ。元気そうだな」

 抱きとめると、グリグリと顔を俺の体に押し付ける少女の姿が。
 そのせいで彼女がどんな表情をしているか分からないため、取り敢えず流れる金の御髪を手で梳いて撫でておく。

「……レスも無事で良かった」

「そう、だな……」

 投げられた言葉に苦笑いが浮かんだ。
 事実だけ見れば体は無事なのだが、修行結果として無事かと言われればそうでない気がする。

 お師匠さまはコレで良いと言っていたけれど、やはりドラゴンに勝てないようではこの先が不安だな。

「…………? どうかした?」

 見上げるようにして俺の顔を覗き、問いてくるルゥ。
 それに対して、首を横に振った。

「いや、何でも。ただ、もっと強くならないと――ってな」

「うん、私も……! 私ももっと強くなるの!」

 二人して改めて決意を固めていると、そこに水を差すようにこんな言葉が聞こえる。

「いや……ルゥちゃんは割と今のままでも充分なのだけど」

 見れば、お師匠さまが腕組んで歩み寄ってきた。
 そこに浮かぶ表情は、なんとも言えないような笑み。

「……そんなに強くなったのか?」

 その意味をいち早く察した俺は、思わず尋ねる。

「えぇ。才能があったのか、私の魔法をスポンジのように吸収していったわ。規模と種類だけなら、私に勝るとも劣らないわね」

 …………そこまでかよ。
 告げられた事実に冷や汗が流れた。

 本人はよく分かってないようで可愛らしく小首を傾げているだけだが、俺が寝ていた期間も含め、彼女が修行できた時間は半年にも満たないはず。

 それだけでお師匠さまレベルって、数年もすれば世界最強になってんじゃね……?

「でも、逆に言えばそれだけ。圧倒的に戦闘経験が不足しているわ。…………そうだ、貴方ちょっと戦ってみない?」

「なにそれ……興味があると同時に、めちゃくちゃ怖いんですけど…………」

「じゃあ、決まりね」

 と、いうことらしい。
 まぁ、俺も修行の成果とやらを実感できるいい機会かもしれないか。


 ♦ ♦ ♦


「あの……ナディアお姉さん、本当に思い切り戦ってもいいんですか?」

 俺とルゥ。二人が対峙する中で、そんな心配事が呟かれる。

「もちろんよ、二人とも相手を殺す気でいきなさい。大丈夫! いざ死にそうになったら、私が割って入ってあげるから」

 そんなお師匠さまの返答を聞きつつ、俺は身体をほぐしていた。

 未だにルゥは心配そうだが、こっちは慣れたもの。
 というより、ウチでは昔からこの戦い方をさせられているのだ。

 身内だろうが、殺す気でかかれ。全てはお師匠さまが何とかしてくれる。
 ひとえに、お師匠さまの実力とそれに対する俺たちの信頼があってのものなわけだけど。

「それにルゥちゃん、そんなことを言っている余裕はないわよ? 相手は全力なのだから」

 その言葉と、俺の送った殺気でようやく覚悟を決めたルゥの顔つきが変わる。

 ……上々だな。
 見渡せば、ギャラリーが多い。孤児院の子供たちはもちろんのこと、仕事に出ていたリズとウィリーも臨時休業にして帰ってきたらしい。

 いや、お前らは仕事してこいよ……。

 腰に触れればいつもの感触と重み。今回は銃も解禁だ。
 剣だけは折れていて使えないので残念だが、仕方ない。今やれる全力を見せてやろう。

「お互いに準備はいいわね? それじゃあ、始め!」

 開始の合図と同時に前へと駆け出せば、その真逆でルゥは後ろへと退く。

 ――素手で魔法を相手にするなら、距離を詰めろ。

 その原則を彼女もまた習い、覚えているのだろう。
 それ故のお互いの初動だった。

 歩幅とそもそもの身体的な能力の差で距離は詰められているが、まだ拳の当たる距離ではない。
 魔法を使わせないためにも、初撃として抜いた銃に魔力を通す。

「――――わわっ……!」

 驚いたようにルゥは顔を手でガードした。
 けれどその前に、魔法で生まれた光の壁が音速を超えた弾丸を遮る。

「魔法で防御しているのに、腕でもガードしてどうするのよ。単に自分の視界を狭めるだけで、得なんてひとつもないわ。そんな暇があったら、同時に魔法で攻撃しなさい」

 一連の流れにお師匠さまからの指摘が飛んだ。
 ……てか、ルゥのセコンドするのかよ。ずるいな。

 その言葉を受けて目付きの変わったルゥは腕を振るう。

 同時に俺も、もう一発銃を放った。
 先程の攻防でさらに距離が詰まり、銃というよりは刀の範囲なのだが……壊れているため、仕方なく代用しておく。

 そこで覚える濃密な魔力の感覚。
 目線は……僅かに外れて俺の足元に向いているか。

 即座に上へと跳び上がれば一瞬で足元の地面は凍りつき、氷の結晶が生まれた。
 少しでも遅れていれば、身動きが取れないでいただろう。

 また、俺の攻撃も再び魔法で阻まれ、両者ともにダメージはない。

 なるほど……確かに威力は充分だが、攻撃が素直すぎるな。お師匠さまの「経験が足りない」という言葉にも頷けるというものだ。

 そのまま『飛脚』で前へと駆けると、ようやく俺の攻撃範囲。

「よし…………!」
「…………くっ」

 お互いに心情の込めた息を漏らせば、続くは近接戦闘だ。

 手始めとして俺は右拳を引くと、突き放つ。
 それを右側へと逸らしたルゥは片方の手で俺の手首を、もう片方の手で俺の肩をそれそれ掴んできた。

 ――関節技で組み敷かれる。

 そう予期すると、腕を捻られるよりも先に肘を突き出し、相手の顔へと目掛けて牽制した。

 首を動かし躱したルゥだったが、そのせいでバランスを崩す。
 好機と悟った俺は『飛脚』を用いて方向転換すると、そのまま膝蹴り。

 だがしかし、崩したバランスを踏ん張ろうとはせず、敢えてそのまましゃがみこむことで、この攻撃もまた避けられてしまった。

 けれど、それも予想の範囲内。
 体を丸めて回転すると、再びルゥの方へと向き直る。

 体を捻り、『飛脚』で踏ん張る僅かな時間――俺と彼女の目が合った。

 疾駆すればその距離は瞬く間に詰まり、俺に対する魔法攻撃を行おうとしても間に合わないだろう。
 勝った――という確信とともに俺の拳が届こうとする最中、ルゥは人差し指と中指を揃え、同時に上へ突き上げる。

 そうして起こる爆発。

 二人の間で起きた現象は熱と爆風を生み、両者ともに吹き飛ばされた。

 即座に受身を取って起き上がれば、一方の相手も立ち上がっている。
 だが、決定的な違いとして、ルゥは光の球体に覆われており傷一つ見当たらない。

「爆発と同時に自分の身を守ったか……」

 しかし、よく考えたものだ。
 俺への攻撃が間に合わないからって、地面を爆破させるとは。

「まぁ、そのおかげで情報も手に入ったけどな」

 考えをまとめるため独りごつ。

 まずは、魔法を……少なくとも二つ以上同時に展開することができる点だ。
 これにより、相手の攻撃中は無防備、防御さえさせていれば攻撃がこないという淡い希望を捨てられる。

 続いてが、魔法を使うために動作が必要な点。
 所作こそ違えど、お師匠さまと同様に何らかのアクションを必要としているっぽいな。

 そして、最後に――。

 組手は俺の方が上であり、魔法も厄介ではあるものの発動に癖があった。まだまだこちらが有利だ。
 とは言え、まぁよくもここまで強くなったものだと関心もする。

 徐々に戦闘へのギアが高まり、思考の速度が言葉の枠組みを越えようとしている感覚を覚えながら、俺は構えた。

 第二ラウンド、開始だ!
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