彼と彼女の365日

如月ゆう

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October

10月14日(月) 秋休み④

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 今日は体育の日、らしい。
 来年からは『七月二十四日、スポーツの日』へと変わる、今年で最後の体育の日。

 ……だからどうしたのだろう。
 そんなもの、私には何の関係もなかった。

 だって今日は、秋休みの最終日。
 明日から後期が始まる、休日の最後。

 だというのに、この五日間で翔真くんと一度も何らかの予定を入れることが出来なかったのだから。

 もちろん、平日中には部活があったので会うこと自体はできていた。
 でも、それだけ。遊びに行くも良し、宿題を教えてもらうも良し――色々と方法があったにもかかわらず、上手く予定を作れなかった私を、私は恨みたい。

「はぁー、散歩でもしようかな……」

 ということで、そんなやさぐれた私の出来事です。


 ♦ ♦ ♦


 閑散とした住宅街。
 アスファルトで舗装された道には人も車も見受けられず、ただただ静かな時間が流れている。

 ポカポカと日差しは暖かく、されど時折吹く風は冷たくて、そんな身体を冷やしてくれる秋らしい気候。

 空を見上げれば、真っ青な世界の中に点々と白い雲が続いていた。
 見知った道だからこそ、こうして余所見ができるのだと不思議と納得する自分がいる。

 ――そんな折だ。

「……………………?」

 クイッと背中側に引っ張られる感覚を覚えて、私は後ろを振り向いた。
 しかし、振り返っても誰もおらず……なのに、まだ服の裾を引っかかっているような違和感は拭えない。

 …………下?

 少し視線を下ろせば、そこには見知らぬ女の子がいた。

「えっと……どうしたの?」

 取り敢えず、しゃがんで目線を合わせて話しかけてみる。

 見たところ小学生のようで、サラサラと風になびく茶色の髪と宝石のように澄んだ真っ黒な瞳が特徴的な可愛らしい子だ。

「……知らない人に話しかけちゃ、ダメなんだよー?」

 そんなこの子の第一声は、それだった。

「えっ…………あ、うん。そうだね」

 脈絡のない返事に困惑するものの、私は頷く。
 確かに、知らない人に話しかけるのは良くない。こんな小さい女の子は、特に。

 けど、それをなぜ今言ったのだろうか。
 ……自分への注意?

「はなはねぇ、はなって言うの。お姉さんは?」

「私? 私は詩音……菊池詩音って名前だよ」

 などと考え込んでいると自己紹介をされたので、私もまた自分の名前を名乗っておく。
 それを聞いた少女――はなちゃんはニパッと笑顔を向けてくれた。

「これではなとお姉さんは知り合いになったから、お姉さんは安心してはなとお話しできるね」

 …………あっ、最初の注意って私に向けたものだったんだ。

 年下の子に窘められていた、という意外な事実に遅れながらも気付いた私。
 けどはなちゃん、知らない人に話しかけられても返事はしちゃいけないし、ましてや服を掴むのも良くないんだよ……。

「それで、一体どうしたの? もしかして迷子?」

 辺りに親らしき大人は見当たらない。
 そのために声を掛けたのかと尋ねてみれば、しかし、はなちゃんは首を横に振る。

「うぅん、はなの家はあれ」

 指差された先にあるのは、一軒家の数々。

 どれだろう……あの赤い屋根の家かな。
 でも、取り敢えずは迷子じゃないようで安心した。

「じゃあ、なんで話しかけたの?」

「…………? 話しかけてきたのはお姉さんだよ?」

 続けざまに、私に接触してきた理由を明かしてもらおうと質問すれば、今度は意味が分からないとばかりに首を傾けられる。

 あー……そういえば『話しかけた』のは私からだったっけ……。
 随分と言い回しにこだわる子だなぁ。

「……なんで、私の服を引っ張ったの?」

 これなら、正しく意図が伝わったはず。
 その考えは的中し、ようやくはなちゃんは話をしてくれた。

「人のいない場所での女の人の独り歩きは危険だ――って、パパが言ってたから」

 …………うん、まぁ確かにその通りだと思う。
 最近は誘拐も多いみたいだし、はなちゃんみたいな小さな子は特に誰かと一緒にいた方がいい。

 けど、まさかそれを私にも当てはめるなんて……。
 いや、それとも今回こそは自衛のために話しかけてきた……?

 ……はなちゃんが分からない。

「それに……お姉さん、悲しそうな顔してた」

「…………………っ!」

 図星をつかれ、今までの益体のない思考が全て消えた。

「何かあった?」

 純粋に、無垢に、ただひたすらに心配した様子で尋ねてくれるその姿は温かく――。

「……好きな人と、遊ぶ約束ができなかったんだ」

 ――私は自然と、話していた。

「せっかく五日間も休みがあったんだけどね……勿体ないことしちゃった」

 思い出しても後悔しかない。
 力なく笑う私の手を、はなちゃんはギュッと握る。

「ちゃんと言わなきゃダメなんだよー?」

「…………えっ?」

「はなの友達にもね、お姉さんみたいな黙っちゃう子が多いけど、言わなきゃ相手に伝わらないんだよ」

 至極当然のことを……いや、当然だからこそ子供ながらにちゃんと理解して、教えてくれていた。

「あとねー、はなも待ってあげるの。待ってあげたら、少しずつだけどみんな話してくれるから。お姉さんの好きな人は待ってくれないの?」

「……うぅん、待ってくれるよ」

 彼はいつだってそうだ。
 優しさで溢れてる。

 だからこそ、悪いのは――。

「――じゃあ、悪いのはお姉さんの方だね」

 思考に被せるように、はなちゃんの声が響く。

 子供ゆえの、悪意のない、真っ直ぐな真実。
 でも、それが逆にストンと私の心に落ちた。

 普段なら落ち込むだけの自覚が、スッキリとした気付きへと変わる。
 不思議と笑みが零れた。

「うん、悪いのは私だ」

 自分で口に出してみる。

 ……うん、その通りだ。
 なら、どうするか。頑張るしかない。

 だって、翔真くんを選んだ時点で結局、頑張らなければいけないんだから。

「良かった、元気になった」

 またニパッと笑ったはなちゃんは、繋いだ手を離すと家だと教えてくれた方向へ駆け出す。

「そろそろ帰らないといけないから……またね、お姉さん」

「うん、ばいばい」

 振り向きながら走るという、中々に心配な姿にハラハラする私。
 はなちゃん、転ばないといいけど……。

「……あんまり、一人で歩いちゃだめだよー?」

 しかし、向こうは向こうで別のことを心配してくれていたらしく、最後までそんな注意をしてくれたのでした。
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