彼と彼女の365日

如月ゆう

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November

11月24日(日) レイドバックDAYS

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 すっかり日常は元に戻り、何処へ行くでもなく、何か用事があるわけでもなく、心穏やかに過ごす日曜日。
 自宅のリビングのソファに、肘掛けの上からクッションを置いて枕代わりとした俺は、横になって寛いでいた。

 テレビは適当なチャンネルを垂れ流し。
 そして、その音をバックグラウンドミュージックに、仰向けとなってスマホを弄る。

 なんて事のない怠惰な一日に、俺は唯一の不満を漏らした。

「……で? お前は何してんの?」

「……読書」

 返事は胸元付近から。
 寝転がる俺の上にさらに寝転がる形ですっぽりと身体を収めている幼馴染のかなたは、人の問いかけに対してそう答える。

「質問の意味が違ぇよ。俺は『何してんだ、早く降りろ』って言ってんだ。重いだろ」

「……重くないから断る」

 どうやら、この場所が気に入ってしまったらしい。
 頑なな拒否を示した彼女は、まるで猫のごときマイペースさでグリグリと後頭部をこすりつけてきた。

「それより、喉乾いた。飲み物取って」

 指差した先にあるのは、ソファのそばに配置されているガラス板のローテーブル。
 その上には、布製のコースターと一緒に二つのコップが置かれており、それぞれに違った色の液体が注がれている。

「……嫌だよ。自分で取れば?」

「……届かぬ」

 目を向ければ、空を何度も切らせる腕が一本伸びていた。
 とはいえ、寝転がった状態を起こすことなく――なわけだけど。

「横着せずに、自分で起き上がって取れ」

 ズビシとその額を目掛けてチョップすれば、おでこに手を当てジロリと睨んでくる。

「……痛い。……というか、起きたらそらは何処かに行くでしょ?」

 …………ちっ、バレてたか。
 なら、次の作戦だ。

「だから、そらが取って」

「……ったく、しょうがないな」

 物理的な上目遣いでお願いされ、仕方なしに折れた俺は手を伸ばす――が、生憎と残り数センチという距離で指が触れない。

「あー……悪い。届かないから、一旦退いてくれね?」

 そのため、人の家で自由気ままに振る舞うこの王様……いや、王女様に進言すれば、チラと少しだけこちらの様子を窺った。

「……ん? ……じゃあ、別にいいや」

 そして、あっけらかんと自らの発言を撤回する。

 畜生……これもダメだったかー。
 どうやら読まれてしまっているようなので、何か別の方法を考えよう。

「というか……あと一週間もすれば十二月なんだね」

「ん? あ、あぁ……そういえばそうだな」

 なんて事のない世間話を振られて、思わず頷いた。

 寒さがまだそれほど厳しくなかったり、最近はバタバタとしていたせいで実感がなかったが、あと一ヶ月と少しで今年は終わるのだ。
 そう考えると、日々はゆっくりと流れていくのに、気が付けばあっという間な感じがする。

「あーあ、冬休みまでこのまま穏やかでいないかなぁ……」

 グッと寝ながらに身体を伸ばせば、俺は小さな欠伸を噛み殺す。
 手元に人間サイズの湯たんぽがあるからだろうか。眠くないのに、不思議と眠い。

「……それは、難しいかも」

 暖房器具――もとい、かなたが喋った。

「……十二月に入ってすぐに中間テストがある。……しかも、その後は三者面談」

「うぇぇ……マジかよ……。多忙だな……」

 確認していなかった未来の予定を聞かされ、俺は少しゲンナリとしてしまう。
 正月前には冬休みに入るとはいえ……いや、入るからこそ、年末の慌ただしい印象が影響して余計にそう感じるな。

「残り数十日……頑張るか」

「おー」

 意味もなく気合を入れた俺たちは、再び自分たちの作業に戻る。
 スマホを触り、本を読み、時折会話を挟んで小休止。

 この珍しくものんびりとした一日は、まだまだ続いていくのであった。



 …………えっ? オチ?
 そんなものは特にない!
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