滅びゆく王国と平等の国を築く王女

王族好きな鳥ちゃん

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第1話:マリクの決断

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「お前の顔、...少し傷ついてるわね。見せて」

「あー」
有無を言わせぬ行動力で、王女の手が動いた。

「...酷い鈍器による打撃傷。これをお前の主人が?」

「あ、ああ...」
彼の頬に指先を触れさせた王女が、

「エブリン。...私の名はエブリン・フォン・フェルダリスカといって、この国の第一王女だ。お前の名、もう考えたか?」

さっきは一度訪ねられ、ないと答えた黒人男性だったが、今度は、

「......ま、マリク。...俺の名前は、マリクだ」

「...やっと名乗ることにしたようなのね。さっきはどうしてそうしなかったの?」

「ま、まだ信じられなかったからだ。だって、まさか貴女ともあろう身分の女性が、俺なんかの名を聞いてー」

「はうストップ。そうやって自分のことを卑下にしないことよ、マリク!」

王女はほんの少し後ろに下がり、彼の頬から手を離したが、二人の距離はそのまま保たれた。

「分かっていると思うけど、自由を得るというのは、身体だけじゃなくて頭の中も自由にならないといけないの。いい?」

「.....善処する。まだ、この国から出られるかどうか、分かったものじゃないので」

彼女の青い瞳は確信に燃え、胸の前で手を組むと、息は整っているものの、緊迫感を帯びていた。

「変えたいことがたくさんある」

彼女は語り始めた。その声は、心を打ち明ける女性の囁きではなく、王国全体の苦しみを背負う者の決意に満ちた響きだった。

「この国…私の故郷…は残酷さに染まっている。肌の色が違うというだけで人を蔑む貴族たちの中に、鎖につながれた人々の犠牲の上に利益を築く商人たちの中に、そして何より…私の家族の中に、私の兄と父の中に、それが見える。」

彼女の顔が硬くなる。優雅で気高かった彼女の表情は、静かな怒りによって鋭さを増した。

「王太子」
彼女はその言葉を吐き捨てるように言った。「あの男はこの忌まわしい法律を守り続けている。古い考えに縛られ、お前のような人々は生まれながらに仕え、苦しむ運命だと思い込んでいる。あの男が権力を握る限り、お前のような人々は永遠に鎖につながれたままなのだ。」

黒人の男、マリクは何も言わず、表情を読み取れないままだった。

彼の手首は解放されたにもかかわらず、まだ鉄の枷の重さを感じ、背中の傷跡は鞭の記憶でうずいていた。彼は長い間、貴族というものは自己中心的でしかないと思い込んでいた。しかし、今目の前に立っているこの高貴なる女性は、革命を、正義を、変革を語っている。

「終わらせたいの」

彼女は再び一歩近づき、彼に理解してほしいという切実な思いを瞳に浮かべながら続けた。

「もし私が王座に就くことができたら…もし私が統治する権利を得られたら…奴隷制度を廃止する。肌の色や生まれによって人が縛られることのないよう、法律を書き換える。」

彼女は息を吐き、繊細な手を脇で拳に固く握りしめた。

「でも、私一人ではできない。」

そこにあった。彼女の言葉の重みが、目に見えない鎖のように彼の上にのしかかる。彼女が彼を解放した瞬間、彼女が熱意を込めて囁いた瞬間から、彼はそれを予感していた。彼女は彼に何かを求めている。

彼女は、彼に自分のために戦ってほしいのだ。

彼は視線を下げ、心の中に不安が渦巻いた。

拒否したいという気持ちが彼の中にあった。

長年、彼はただ逃げることを夢見てきた。遠い故郷の岸辺に戻り、ヤシの木と潮の香りが濃く漂う場所で、鞭の音によって沈黙させられることのない人々の笑い声の中に身を置きたいと願ってきた。

この王国やその支配者たちの終わりのない争いには関わりたくないと思っていた。

しかし、彼の中のもう一つの部分——痛みの奥深くに埋めていた部分——がためらった。

彼女の話し方…彼女の彼を見る目…

彼女は本当に自分が語っていることを信じている。

彼女は初めての、彼を召使いでも物でもなく、一人の男として見た高貴な人間だった。

彼の拳が固く握りしめられた。

なぜ彼が気にかける必要がある?

なぜ彼が自分を打ちのめしただけの王国のために戦わなければならない?

しかし、彼は他の人々のことを考えた——まだ鎖につながれている者たち、解放されていない者たち、フレデリック王太子のような男が王座に座り続ける限り、決して解放されることのない者たちのことを。

彼は長い間、自分の苦しみを受け入れてきた。しかし、他の人々にも同じ運命を受け入れさせてよいのか?

沈黙が二人の間を引き裂いた。王女は彼を見つめ、浅い息をつきながら、彼が何かを言うのを待っていた——願っていた。

ついに、彼は口を開いた。

「俺に、貴女のために戦う事を望んでいるんだな」
それは疑問ではなく、確認だった。

彼女は頷いた。

「強制はしない。でも…私にはお前のような人が必要なの。この残酷さの深さを理解している人。それを打ち破る力を持った人。」

彼の喉は渇いていた。彼はこれを望んでいなかった。

それでも、彼女の切実な青い瞳を見つめていると、彼はわかっていた。

選択の余地はない。

少なくとも、自分自身と向き合いながら生きていくためには。

長い沈黙の後、彼はゆっくりと疲れた息を吐いた。

「…手伝うよ」

彼女の唇がわずかに開き、まるで彼の言葉を信じられないかのようだった。そして、初めて、彼女の顔に本物の、輝くような笑みが浮かんだ。

「ありがとう」

彼は微笑まなかった。

なぜなら、彼が今選んだ道に、もう後戻りはできないことを知っていたからだ。
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