滅びゆく王国と平等の国を築く王女

第１２話：束の間の休息

馬車はエルダーツリーの森に向かってゆっくりと揺れながら進み、荒野のそびえ立つ木々が徐々に近づいてきた。

日が沈み始め、大地を黄金色に染めていた。昼間の耐え難い暑さは、夕方の涼しく優しい空気に変わっていた。

馬車の中では、先ほどのマッサージの後、新たな沈黙が漂っていた。

エヴリンは再び背筋を伸ばして座り、その姿勢は威厳に満ちていたが、明らかにリラックスしていた。

彼女は無意識に肩に触れ、まだそこに残っている彼らの手の温もりを感じていた。

ジャヒは背もたれに寄りかかり、腕を組んで彼女を面白そうに見ていた。
「王女、意外と照れやすいんだよね～」

エヴリンは鋭い視線を彼に向けたが、頬のわずかな赤みが彼女の本心を露わにしていた。
「口の利き方に気をつけた方がいいわよ？」

マリクはくすくす笑った。
「俺たちはこれから女王様になるかもしれない女をマッサージしたんだ。ちょっとのからかいくらい許してくれてもいいだろう？」

彼女はふんっと息を吐き、腕を組んだ。
「私が手伝わせたのは、体が痛かったからよ。急にあなたたちを対等だと思ったわけじゃないわ」

ジャヒは笑みを浮かべた。
「ああ？確か、ある王女様が気持ち良さそうにため息をついてたような——」

エヴリンは彼の足を踏みつけた。

「痛っ！ちくしょう、この女！」
ジャヒは顔をしかめたが、笑みは消えなかった。

これまで無口だったアデムがついに口を開いた。
「もういいだろ」彼の声は落ち着いていたが、しっかりとしていた。
「彼女を放っておけ。」

ジャヒは舌打ちしたが、従った。

一方のマリクは足を伸ばし、満足そうな声を上げた。
「まだ信じられないな…俺たちは王族の馬車に乗って、王女本人と一緒に旅をして、つい最近まで夢にも思わなかったような食事をしてる」

ジャヒはうなずき、窓の外の暗くなりつつある空を見つめた。
「ああ…現実じゃないみたいだね」

エヴリンは首を傾げた。
「そんなに変なことなの？」

ジャヒは嘲笑った。
「王女様、ついこの前まで僕達三人は奴隷だったんだよー？これがどれだけ非常識なことかわかってるでしょ？僕達は鎖につながれてるべきで、馬車に乗って王族と旅をしてるべきじゃないんだってことを」

マリクはため息をついた。
「あいつは正しい。もしお前に会ってなかったら、俺たちはまだ太陽の下で鞭打たれてるか、もっとひどい目に遭ってたはずだ」

エヴリンの表情は和らぎ、いつもの自信に満ちた態度が揺らいだ。
「…わかってる」

彼らは何か高貴な慰めの言葉を期待していたが、代わりに彼女は視線を落とした。

「もっと多くの人を救えたらよかったのに」
彼女は静かに認めた。

三人の男たちは互いに視線を交わした。

これは以前とは違っていた——高貴な女性が高尚な理想を語る声ではなかった。これは、失敗の重荷を背負った一人の女性の声だった。

マリクは、珍しく笑みを浮かべていなかった。
「…本気でそう思ってるんだな？」

エヴリンは彼を見上げ、眉をひそめた。
「もちろんよ。私を何だと思ってるの？」

アデムは彼女を観察し、それから冷静な口調で言った。
「苦しんだことのない王女だ」

彼女の息が止まった。

ジャヒは低く口笛を吹いた。「ちくしょう、アデム。冷たいよー！？」

しかし、エヴリンは反撃しなかった。

代わりに、彼女はゆっくりと息を吐いた。
「あなたは正しいわ。私はあなたたちのような苦しみを味わったことはない。鎖につながれたこともない。殴られたこともない。誰かを『主人』と呼ぶことを強制されたこともない…」

彼女の指はドレスの裾を握りしめた。
「でも、それで私が気にしないわけじゃない」

再び馬車の中は静寂に包まれた。

マリクは長い間彼女を見つめ、それからため息をついた。
「認めるよ、お前は他の奴らとは違う。ほとんどの貴族は俺たちのことで悩んだりしない」

ジャヒは頭を座席に預けた。
「それでも、王女様がここまでやるつもりだなんて信じられないね。地位や安全…いや、命さえも危険にさらしてさー」

エヴリンは一瞬目を閉じた。
「私は何もせずに傍観することはできない」

彼女の声には確信が込められていたが、同時に疲労も感じられた。

一人で背負うには重すぎる荷物だった。

相変わらず無口なアデムは、彼女の白く繊細な顔を観察していた。

彼は生き延びるために、長年貴族たちの意図を読んできた。

エヴリンは嘘をついていなかった。彼女は本気だった。

旅が始まって以来初めて、彼は彼女に対して何か見知らぬ感情を抱いた——義務や感謝を超えた何かを。

彼はその考えを振り払った。

「…そろそろ休むべきだ」
アデムはついに言った。
「体力が必要になる。」

他の二人もうなずいた。

緊張が和らぎ、馬車は夜の闇の中を着実に進み続けた。

かつて奴隷だった三人の男たちは、今や自分たちを超えた大義に縛られていた。そして、良くも悪くも、彼らはエヴリンを単なるリーダーとしてではなく——

無視できない一人の女性として見始めていた。