滅びゆく王国と平等の国を築く王女

第２７話：反乱の火花

アデムとジャヒはマルボロウの町に乗り込んだ。

マルボロウはルシャール侯爵が治めている領地内の領地首都みたいな町で、彼の管轄下にある。

なので、アデムとジャヒが王国の誰からもちょっかいをかけられぬよう、自由人の身分であることを証明している侯爵発行の『自由人証明書』のバッジを服の上に貼り付けられ、それを見ている誰もが二人の肌色や外見を目にしても奴隷身分じゃないことが確認できる。

もちろん、黒人であるということだけで、たとえ身分が自由人であろうと蔑まれたり、差別を受ける場面も減ってはいない可能性が高いが、それでも、彼らは町の人々を反乱へと扇動する任務を全うしなければならない。

マルボロウという町自体は活気のある町だ。そこは農民、鍛冶屋、職人たちが日々集まる賑やかな市場地区だった。

人々は疲れた表情で狭い道を歩き、終わりのない労働で手にはタコができていた。

あらゆる角で、黒人の奴隷たちが残酷な監督者の目に監視されながら働き、その背中には無数の鞭の跡が刻まれていた。

しかし、その表面の下には静かな不満がくすぶっていた。

町の人々は王国の残酷さに目を向けていなかったわけではない。

彼らは家から引きずり出される男女を見てきた。借金によって自由だった庶民が奴隷にされるのを見てきた。そう、白人の庶民さえも立場が悪くなったら、奴隷制度の法に触れて奴隷として売り飛ばされる場合もある。

無論、『白人優位社会』を保つために、たとえプランテーションとか鉱山採掘や工場で両方の人種が奴隷として働かされていても、黒人奴隷の方がもっとも過酷な労働と扱いが敷かれるよう、昔からの歴代王様からの王令が下った。

なので、奴隷の労働現場でも同じ奴隷にされた白人から迫害やいじめに遭うこともある黒人奴隷。そして、奴隷としての労働で、いつも黒人の方が命を落とす確率の方がずっと高い。

だが、白人だって人間。僅かな機会があれば、奴隷身分から抜け出して、自由人へと戻る可能性のある話にも乗ってくるはず。なので、正しいきっかけがあれば、彼らは王女の大義の味方になる可能性もある。

アデムとジャヒは小さな酒場、「錆びたランタン」の近くで馬から降りた。

そこは労働者たちが過酷な一日の仕事の後に集まる場所だった。

彼らは中に入り、疲れているが警戒心のある男女が薄いエールを静かに飲んでいるのを見つけた。

ジャヒは木のテーブルに登り、咳払いをした。

「マルボロウの人々！」彼は叫んだ。

「ほら、このバッジを見たでしょうー？見ての通り、僕はこうして王女様の親切心によって救われ、今は侯爵も認めてくれた自由人になったのだー！でも君達はいつまで耐えるつもりなのかー！？　あとどれくらい恐怖の中で生きるつもりだ？あとどれくらい王冠がお前たちを鎖につないでおくのを許すつもりだ？」

部屋は静まり返った。

数人が神経質に見回したが、他の者は興味を持って身を乗り出した。

煤で覆われた腕を持つがっしりとした鍛冶屋、ガレスは顔をしかめた。

「言葉に気をつけろ、よそ者。王冠の耳はどこにでもある。」

アデムが前に出た。

「じゃあ、聞かせてやれ」
彼は言った。

一応、アデムとジャヒは今、どれもが強力な召喚精霊を使役できるようになった『エルフの選ばれし存在』となったので、たとえ揉め事とか王冠の手下や王国軍直下の兵士が彼らの違法な反乱の扇動をここで見つけて襲ってきても簡単に赤子の手をひねるように処理できる。なので、二人としても何も恐れることはないのだ。

アデムが続いた、

「なぜなら、彼らがそれを望もうが望むまいが、変化は来ているからだ。正義のために立ち上がる唯一の王族、エヴリン王女殿下は奴隷制度を終わらせるために軍隊を集めている。彼女は奴隷のためだけでなく、あんたたち全員——農民、鍛冶屋、毎日背骨を折って働く労働者たち——のために戦っている。あんたたちをただの道具としか見ない王国のために」

酒場の中にざわめきが広がった。

長い針仕事で手に傷だらけの仕立て屋が震える声を上げた。
「でも、オラ達に何ができるの？オラ達は戦士じゃない。抵抗すれば王宮警備隊に切り捨てられるぞー！？」

ジャヒという黒色肌の少年は部屋を見回し、鋭い視線を向けた。そして、声を張り上げる、

「正しいことをするために戦士である必要はないんだー！必要なのは勇気だけだよ。鍛冶屋には武器を鍛えてもらい、農民には食料を提供してもらい、スパイには情報を流してもらう必要があるんだ。貴族はお前たちを分断し、無力だと思い込ませてきた。でも、一緒なら？僕達は彼らよりも数が多い！」

若い農場労働者、ルーカスはマグカップをテーブルに叩きつけた。
「俺は俺たちの人々が不可能なノルマを達成できなかったために鞭打たれるのを見るのにうんざりだ。もし王女様が俺たちのために戦ってくれるなら、俺は彼女のために戦う！」

鍛冶屋のガレスは深く息を吐いた。
「おれらが立ち上がれば、貴族の支援があるって言うのか？」

アデムはうなずいた。
「心優しきルシャール侯爵はすでにこの大義に力を貸すと約束してくれた。人々の意志を見れば、もっと多くの貴族が続くだろう」

沈黙が広がった。そして、一人ずつ声が上がった。

「俺もやる。」

「私も！」

「国王陛下と王太子に死を！」

火花が灯された。

アデムとジャヒは互いに視線を交わした。これはただの始まりだった。

反乱の炎が広がり始めた。

そして、このフェルダリスカ王国の行く末や未来をも大きく変えられるだけじゃなくて、この北の巨大な大陸にまで、大きな変革をもたらすことになるとは、誰も想像することのできない、大いなる原点となった今この場での扇動と蜂起は......