滅びゆく王国と平等の国を築く王女

第３４話：公爵の都市『モンテ・クレスタラ』での一日

公爵の治めている都市『モンテ・クレスタラ』は近くにある小さな山の隣で建てられた人口５万人以上の大きな町で、いつも大勢の市民の活気に満ち溢れ、興奮に包まれていた。

王都、『フェルダラリア』に並ぶほど王国の２番目大きな都市で、モンテ・クレスタラはモンテクレール公爵の自慢の町で、常に経済活動に最適な政策を取ってきた。

隣国のアルヴェリア王国の国境から１０キロメートル以内にあるこの都市は高い城壁で包まれており、敵襲を防ぐのにもっとも適している設計を持ちながらも、中へ入ってみたらは喧噪に満ち溢れている屋外の店舗や商店街もいっぱいあって、経済活動が機能している証である。

もっとも、道裏のあやしい店とか工場で過酷に働かされている老若男女問わずの黒人奴隷も町の一部として存在し、未だに公爵がその新女王の言葉ひとつで奴隷制度の法を公然と廃止できないままに王国軍と真っ向から戦争する準備がまだ出来ていない証拠ともいえる。

もしくは、まだその制度に代わる新体制の法律がまだ出来ておらず、奴隷を解放された後の主人達への賠償金の支払いの手筈がまだ整っていないのかもしれない。その件に関する書類なども用意する必要あるだろう。

エブリン新女王とマリクが賑やかな通りに足を踏み入れると、集まった町人たちから歓声と拍手が湧き起こった。

数日前に公爵が反乱軍に加わったりエブリンがその指導者の新女王と名乗り、現国王ヴァルデンとそれに組むする全ての者を必ず倒すって宣言したニュースはすでに広まっており、希望と変革の象徴である新女王が彼らの間を歩く姿は、人々に新たな自信を与えていた。

銀の鎧をまとった騎士たちが道沿いに並び、秩序を保ちながら、公爵の護衛たちはエブリンとマリクを適度な距離で見守り、彼らの安全を確保していた。

マリクは街の様子を見渡し、笑みを浮かべた。

「王都でもこんな歓迎を受けたことあるのか？」
と彼はからかった。

エブリンは軽く笑い、金色の髪が陽の光に輝いた。

「少しならあるわ。でも王都では、ここと違って人々は王太子にしか関心と支持をあまりしないんだもの。...まだ男性至上主義の文化が王都に強く昔から根付いてきている証拠ね」

二人は石畳の通りを散策し、活気ある市場や豪華なブティックを楽しんだ。

商人たちは上質なシルクや精巧な香水、手作りの宝石を売り、パン屋は温かくバターの香りがする黄金色のパンを並べていた。

新しいヒール：

高級靴職人のブティックの前で、エブリンの目はすぐにガラスケースの中に展示されたエレガントな金色のハイヒールパンプスに引き寄せられた。

その職人技は見事で——高く、スリムで、完璧に磨き上げられ、ヒールには繊細な彫刻が施されていた。

マリクは彼女の青い瞳がその靴に輝くのを見て、くすりと笑った。
「新しい靴が欲しいのか、陛下？」

彼女は遊び心のある笑みを浮かべながら顎を上げた。
「女王はいつもきちんと身だしなみを整えていなければならないわ」

店内に入ると、靴職人はエブリンを見てすぐに頭を垂れてから最高の品を取り出した。

彼女は金色のパンプスを試着し、優雅に立ち上がると、ヒールが磨かれた床をカチカチと鳴らした。

マリクは彼女を見つめ、狡い笑みを浮かべた。
「なるほどな」と彼は呟いた。

「人々が君を恐れるわけだ。ホムンクルスみたいにあの靴で蹴られたら、次の週まで飛ばされそうだ」

エブリンは笑みを浮かべ、足を組んで鏡に映る自分を眺めた。

「そうかしら？あなたで試してみる？」
と彼女は頭を傾けてからかった。

マリクは降参するように手を上げた。
「いや、俺はもう一日だけ長く生き延びていきたいよ」

彼女はくすくす笑い、靴職人に合図を送った。
「これをいただくわ」

マリクは前に出て、金貨の入った袋を渡し、エブリンを驚かせた。

「何をしているの？」
彼女はまばたきしながら尋ねた。

「プレゼントを買ってるんだ。前に、軍資金を少し公爵からもらったから」
と彼は簡単に答えた。確かにエブリン新女王も公爵からの軍資金をもらってきたはず。でもマリクは彼の分のお金で払いたいと言ってきた。

「陛下はもう十分なストレスを抱えている。たまには俺にごちそうさせてくれ」

彼女は一瞬黙り、頬に薄いピンクが差した。

それから小さな笑みを浮かべ、囁くように言った。
「ありがとう、...マリク」

街一番のステーキハウスでの昼食：

散策を続けた後、二人は古くから名高いステーキハウスにたどり着いた。

この店は街で最高の肉を提供することで有名だった。店内は温かく、グリルされた肉、バター、ローストハーブの豊かな香りが漂っていた。

個室のボックス席に座り、エブリンとマリクは店の名物ーーガーリックバターソースがかかった厚切りジューシーなステーキとローストポテトのサイドディッシュ——を注文した。

食事をしながら、会話は自然に流れていった——が、マリクは狡い笑みを浮かべ、公爵の婚姻条項について持ち出した。

「それでさ」
と彼はステーキを切りながら言った。

「陛下の子供は、あの同盟を強固にするために公爵家の貴族の娘と結婚しなきゃいけないと思うか？」

エブリンは飲み物を喉に詰まらせ、軽く咳き込みながら彼に当惑した視線を向けた。
「何の質問よ、それ？」

マリクは笑いながら前のめりになった。
「だって、それも取り決めの一部だろ？」

エブリンはフォークを置き、ナプキンを軽く握りしめた。
「あの取り決めは、新王国の安定を確保するためのものよ」
と彼女は慎重に答えた。

「私の個人的な選択についてじゃないわ」

マリクは身を引いて、笑みを柔らかくした。
「じゃあ、政治的な結婚には縛られたくないんだな？」

エブリンはゆっくりと息を吐いた。

心の奥底で、知らない相手と結婚するという考えは彼女を不安にさせた。

王族としての人生は義務に縛られていると常に受け入れてきたが、今になって初めて、それが本当に自分が望むものなのかを疑問に思った。

「…そうね」
と彼女は柔らかく認めた。

マリクはうなずき、思慮深い目で彼女を見つめた。
「じゃあ、誰にも強制されるな。たとえ戦争に勝って本当の女王になったとしても、君自身の幸せを決める権利はあるはずだ」

彼女は彼を見つめ、心が揺さぶられた。

宮廷の男たち——彼女を単なる政治的な道具としか見ない者たち——とは違い、マリクは彼女を一人の人間として、王族の女性としてだけでなく、対等な仲間同士として話しかけてくれた。

心地よい沈黙が二人の間に広がり、エブリンは胸に湧き上がる温かさを感じながら、咳払いをして素早く話題を変えた。

「それで…ステーキはどう？」

マリクはくすくす笑った。
「久しぶりに最高の味だ。でも、まあ…」
彼は笑みを浮かべた。
「もっと良いものを手に入れた気がする」

エブリンははにかみながら目を細めた。
「それは何よ？」

マリクはこめかみを指さした。
「珍しい光景——エブリン陛下が赤面する瞬間だ」

彼女は驚き、頬が熱くなるのを感じながら少し顔を背けた。
「あなた——！私はそんな——！」

マリクはただ笑い、目の前の慌てた新女王の姿と食事を楽しんだ。

エブリンは心の奥で、戦争にも参加せざるを得ない程に自分の人生で起こっているばかりのすべての不運を嘆くこともせず、マリクと過ごす時間を本当に楽しんでいることに気づいた。

そして、今のエブリンはまだ半分に自称みたいなものだが、反乱軍の重要な貴族連中や本物の女王になった暁には、マリクは公の場でエブリン陛下と完全なる敬語で話す覚悟と勉強も進んでいる中なので、いずれ『元奴隷』とは思えぬような上品な言葉遣いも覚えるだろう。