滅びゆく王国と平等の国を築く王女

王族好きな鳥ちゃん

文字の大きさ
36 / 48

第35話:大胆な戦略と死のデモンストレーション

しおりを挟む
モンテクレール公爵の屋敷で一晩を過ごした後、エブリン王女とマリクは翌朝早く公爵の会議室とは別の作戦室にて軍の騎士団長や将官達と一緒に公爵との作戦会議を始める。

そこは詳細な地図や戦略模型が飾られた広大な部屋で、長いマホガニーのテーブルにはモンテクレールの最高位の将軍たちが集まっていた。

公爵は上座に座り、金の刺繍が施された深紅のコートを身にまとい、胸当てには彼の家紋が誇らしげに飾られていた。彼の鋭い視線は集まった指揮官たちを一通り一瞥し、エブリンとマリクに落ち着いた。

「率直に話しましょう、陛下」
とモンテクレールは始めた。彼の声は平穏だが力強かった。

「我々は数的に不利です」

敵の戦力:

彼らの前に広げられた王国の詳細な地図には、部隊の動き、防衛陣地、主要な軍事拠点が示されていた。

公爵は敵軍の位置を指さした。

「王立軍は膨大で、装備も整っています」
と彼は続けた。

「国王の最も信頼する軍師であるデュヴァル将軍は、第1軍団を指揮しています。その数は4万に上る。王立精鋭騎兵隊は1万騎で、この国で最も優れた騎兵です。そして、王太子自身が6千の精鋭重装歩兵を率いている。彼らは最強の兵器を装備し、無敵の野戦砲も持っているんです」

モンテクレールの将軍たちは、王立軍の力の大きさに唸り声を上げた。

エブリンは父の軍勢に詳しかったが、それでも重苦しい重圧を感じた。

公爵は続け、彼らの戦力に目を向けた。

「モンテクレール公爵軍:2万」

「ルシャール侯爵軍:5千の兵士に加え、4千の傭兵」

「元奴隷として我々に加わった者たち:500未満」

「ヴァレリア伯爵夫人の軍勢:1千5百の騎士、1千の一般歩兵」

彼はため息をついた。
「我々は圧倒的に不利です。すべての戦力を結集したとしても、デュヴァル将軍の第1軍団にすら匹敵しない。ましてや国王の全軍には到底及びません」

エブリンは黙ったまま、手を握りしめた。

彼女は状況が厳しいことを予想していたが、数字を目の前にすると現実味を増した。

恐怖の計画:

モンテクレールはテーブルを指で叩いた。
「進むべき道は明らかです」と彼は言った。

「我々はより多くの兵を集めなければなりません。国王に仕える者たちの信仰を揺るがせなければならない。そして、メッセージを送らなければならないんです」

彼の鋭い目がエブリンを見つめた。
「そのためには、デモンストレーションが必要ですよ、陛下」

彼は将軍たちに向き直った。
「陛下とマリクは、並外れた力を持つ精霊を操る——戦いの流れを変えるほどの力ですね。もし彼らの能力が儂の期待通りに強力なら、敵に壊滅的な打撃を与えられるはずです。そのためにそれを奇襲で使うべきだと思います」

エブリンは目を細めた。
「何を提案しているの、公爵?」

モンテクレールは地図上の敵の基地を指さした——そこは大規模な兵舎と訓練場で、新たな予備兵が集められていた。名は『アルゼミン基地』といって、公爵領にあるこの豪華な城みたいな邸宅より北西80キロメートルに位置する。

「4日後の夜、5千の予備兵が前線に配備される前にそこに駐屯する予定だと斥候からの報告がありました。儂は陛下達に、彼らを殲滅してほしい」

重い沈黙が部屋に広がった。

エブリンの息が止まり、マリクも彼女の隣で緊張した。確かに馬で乗る距離なら、1日は50キロメートルまで移動することができる。なので、さほど距離が離れているという訳でもないが、戦場以外での一方的な虐殺になるはず。それは、騎士になった経験もないエブリンさえ騎士道精神に反する行いだと自覚できるだろう。

モンテクレールは屈せずに続けた。
「もし我々が彼らを一瞬で壊滅させれば、国王に仕えようとするすべての兵士にメッセージを送ることができる——『暴君の軍に加われば、死ぬ』と。恐怖が彼らの戦列を弱め、より多くの者が我々の大義に加わるでしょう」

マリクは鋭く息を吐いた。
「一晩で5千の兵を消し去れと?」

モンテクレールは彼の目を見つめた。
「できるか?」

エブリンの心臓が高鳴った。

彼女はエルフから与えられた自分が契約した天界の精霊、輝く『戦乙女アイリス』が並外れた破壊力を持つことを知っていた。同様に、マリクの紅蓮の鳥の精霊、ヴォルカニスも既にその恐ろしいな爆炎の力を示していた。

彼女はマリクに向き直った。
「もし私たちの力を合わせれば…」

マリクは腕を組み、考え込んだ。
「…基地全体を壊滅させられるかもしれない」

公爵は短くうなずいた。
「では決まりましたね。3日後の夜、陛下たちにはその基地の破壊をお任せします」

.................

熟考の夜:

会議の後、エヴリンとマリクは敷地内の中庭にいた。

冷たい夜の空気が彼らを取り囲んでいた。作戦会議の緊張感はまだ彼らに重くのしかかっていた。

エヴリンは星空を見つめた。

「本当にやるのね?」
と彼女は静かに尋ねた。

マリクは石の手すりにもたれ、表情を読めないままだった。
「戦争は綺麗ごとじゃない。殺らないなら、殺られるだけだ」

彼女は拳を握りしめた。
「わかってる。でも5千の兵士…」

「その5千の兵士は、すぐに戦場に立つ」
とマリクはきっぱりと言い放った。

「先に手を打たなければ、奴らは我々を殺しに来る軍の一部になる」

エブリンは顔を背けた。

マリクの言うことは正しいとわかっていた。

その基地の兵士たちは無垢の民ではない——彼女の反乱を鎮圧するために訓練されている兵士たちだ。

それでも…

「…残酷な世界だわ」
と彼女は囁いた。

マリクはため息をつき、彼女の方に向き直った。
「陛下はそれを変えるために戦っている。でもそのためには、まず勝たなきゃいけない」

彼女は彼の目を見つめた。

彼の無愛想な態度にもかかわらず、彼の目には悪意はなかった——ただ決意だけがあった。

「…じゃあ、やるわ」
と彼女はついに言った。

「王に、...いや、父と兄だった男達に、私たちを甘く見た結果を見せつけてやる!」

マリクの唇にゆっくりと笑みが広がった。
「そうこなくちゃな、陛下!」

迫りくる嵐:

破壊へのカウントダウンが始まった。

4日後の夜、王国の兵士はエヴリンの輝く戦乙女アリスとマリクの紅蓮の炎をその身に纏うヴォルカニスの力を目の当たりにするだろう。

そして、塵が収まったとき、反乱軍のメッセージは明確に響き渡る——

「暴君の駒に慈悲はない」と。

......................


エヴリンはマリクに目を向け、声を潜めて言った。
「でも、......もしこれが間違いだったら?...もし私たちがただの暴虐の限りを尽くす虐殺者になってしまったら?......そうなれば、私たちの掲げた大義は父たちを暴君呼ばわりしてきた事と同じことをやるのでは?...」

マリクは彼女の目を真っ直ぐに見つめ、静かに答えた。
「戦争には灰色の領域しかない、陛下。正しいか間違っているかなんかじゃない。生き残るか死ぬか、それだけだ。陛下はこの戦いを始めた。だから今や引き返すことはできないよ?」

彼女は深く息を吸い、頷いた。
「わかってる。でも、これが私を変えてしまうかもしれない。私を…冷酷な人間にしてしまうかもしれない」

マリクは一歩近づき、彼女の肩に手を置いた。
「陛下はすでに強い。でも、冷酷になる必要はない。陛下、...その心を失わずに戦う方法を見つけるしかないんだ。それが真のリーダーたる者の責任だと思う」

エヴリンは彼の言葉に胸を打たれ、小さく微笑んだ。
「あなたはいつも私を支えてくれるのね、マリク」

彼は肩をすくめ、笑みを浮かべた。
「誰かがやらなきゃいけないだろ?それに、陛下は十分にそれだけの覚悟と強さがある」

彼女は彼の言葉に頬を染め、再び星空を見上げた。
「じゃあ、私たちはこの戦いを終わらせるわ。そして、皆が平等に生きれる新しい王国を築くの」

マリクはうなずき、彼女の隣に立った。
「その日が来るまで、俺は陛下の手足として仕え、いつでもそばにいてやるよ」

二人は静かに夜空を見つめ、迫りくる戦いの重さと、彼らが背負う責任を感じていた。

しかし、彼らは孤独ではなかった。互いの存在が、暗闇の中に一筋の光をもたらしていたから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

処理中です...