滅びゆく王国と平等の国を築く王女

王族好きな鳥ちゃん

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第４５話：口を滑らせた瞬間

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モンテクレール公爵の街は活気に満ちていた。

エヴリン陛下とマリクは、護衛を伴いながら賑やかな市場を散策していた。

商人たちは王族のごひいきを得ようと、最高の品々を並べていた。

明日には大戦が始まる。

戦場がフェルダリスカ王国の運命を決める日だ。しかし、今のエヴリンは最後の平和な瞬間——彼女とマリクがただ一緒にいられる最後の日を楽しみたかった。

エヴリンはすでにいくつかの豪華なドレスを選んでいた。

その中には、先日にて彼女の戴冠式にふさわしい、白と金の見事に仕立てられた衣装も含まれていた。王座に就くという考えは、彼女に興奮と不安を同時に感じさせた。

彼女の心は、マリクのために考えた称号に何度も戻っていた。

「国領のクイーンズマン（女王主男）」。

今でも、その名前は完璧に思えた。

力強い称号でありながら、女王の統治を最高権威として保つもの。
まるで、『女王の男』みたいで、政治面だけでしっかりと上下関係が示される称号だ。

そして何より、誰もそれに反対できない。
人々は彼女がそう望むからこそ、それを受け入れるだろう。

それでも……彼女はまだマリクにそれを伝える準備ができていなかった。
勝利が確実になるまで出来ないことだ。

今のところ、彼女はただ彼との時間を楽しんでいたいだけ。

買い物を終えた後、彼らは昼食を取るべく高級レストランに入った。

そこは豪華な料理と豊かな雰囲気で知られる、居心地の良い場所だった。
焼き肉、焼きたてのパン、スパイスの効いたワインの香りが空気に満ちていた。

彼らは個室の席に座り、大きな窓から街を見渡した。

マリクは、先ほど購入した銀の刺繍が施された深いネイビーのコートを着て、今日は特に威厳ある姿だった。

彼がメニューを眺めている間、エヴリンは彼の振る舞いを感心しながら見つめていた。
強く、自信に満ち、そして落ち着いている。

彼女が思い描いた称号にふさわしい男だ。

料理はすぐに運ばれてきた。

湯気が立ち、香りが漂う。二人はくつろぎながら食事をし、軽い話題——過去の旅、文化、好きな食べ物——について話した。

エヴリンは安心感を覚えた。
戦争と政治の重圧に常にさらされている彼女にとって、それは珍しい感覚だった。

そして、マリクがワインを一口飲んだその時、彼女はうっかり口を滑らせてしまった。

「クイーンズマンのマリク、塩を取ってくれる？」

その言葉が一瞬、空中に浮かんだ。

マリクは凍りついた。

彼はゆっくりとゴブレットを下ろし、眉を上げて彼女を見つめた。
「……今なんと？」

エヴリンの全身が硬直した。鋭くて瞬間的なパニックが彼女を襲った。

私は今、何を言ったの？！

彼女はドレスの端を握りしめ、平静を保とうと藻掻いた。早く考えて！

「ああ！何でもない！ただの言い間違いよ」
彼女は手を振って取り繕い、無理やりぎこちない笑いを浮かべた。

「私、思った以上に疲れているみたいわね～！」

マリクは納得していないようだった。
彼は少し目を細め、食器を置いた。

「クイーンズマンのマリク？」
彼は明らかに困惑しながら繰り返した。

「そんな称号はこの王国にはない……いや、どこにもないだろう」

エヴリンは急いでワインのゴブレットを手に取り、唇に当てて表情を隠した。
「何でもないってば！」

.........

マリクは彼女を長い間見つめた。

そして、彼女がほっとしたことに、彼はただ笑いながら首を振った。

「陛下は本当に変わってるな...」

エヴリンは息を吐き、安堵したが、心の奥では心臓が高鳴っていた。

危なかった……

彼女はまだ彼に伝える準備ができていなかった。

王都を解放し勝利が確実になり、彼女が女王として正式に戴冠するまでは言わないと誓ったから。
その時——そしてその時だけ——彼女は彼に、歴史を変える称号を授けるつもりだった。

今のところ、彼女はただ微笑み、何事もなかったかのように食事を再開した。

しかし、心の奥では、彼女は思わず考えてしまった……

彼はそれを受け入れてくれるだろうか？

................

食事が進むにつれ、エヴリンはマリクとの会話に再び没頭した。
彼女は彼の笑顔を見るたびに、心が温かくなるのを感じた。

「マリク、あなたは本当に特別な存在よ」
と彼女は心の中で呟いた。
「この戦いが終わったら、一緒に私の側でこの国を良くしていこうね？」

エブリンの心には、マリクとの未来への希望が芽生え始めていた。
彼女はマリクがただの戦士ではなく、彼女の心の支えであることを確信していた。

「つまり、俺に近衛騎士団長の座につけとー？陛下に仕えと？…ふむ、そのぐらいなら最早覚悟がついていたよ？陛下の下で『護衛の仕事』をするぐらいなら、前の奴隷として扱われる待遇よりかは遥かにマシで好きだと言えるほどにね」

この数日間で色々な本も読んできたか、徐々に饒舌になってきたマリク。

それで、彼女はマリクの言葉に対してもっと深く考え込んだ。

そして、
「い、いいえ、もっと...近くに、私の側に、いて...ほしい」

彼女はマリクとの結婚が王国にとっての新たな始まりとなることを信じていた。
しかし、その道のりは決して簡単ではないだろう。

「......それって？...つまり、『そういうこと』、...なのだな、..陛下？」

「...ええ。たとえ反対があっても、...私は諦めない。あなたと一緒に、..新しい王国の誕生と共に新たな法律と制度を実現させるわ。...人種間と種族間の壁がないように......」

彼女は静かに目を閉じ、マリクとの未来を夢見ながら食事を済ませた。

そして、彼女の心には新たな決意が刻まれていた——彼女は必ずやこの王国を変え、マリクと共に新たな時代を築いていくのだと。

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