俺がワガママ王子なわけがない! ~交通事故で転生したら、評判最悪の王族になっていた件~

角砂糖

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第三章 糸を束ねる者たち

静香隊長の訓練タイム

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ギルドに新しい日課が生まれた。
藤堂静香――ギルド長の発案である。

「冒険者である以上、日々の鍛錬は不可欠です。
依頼に出る者も、食堂やラボを支える者も、最低限の体力と判断力を養っていただきます」

その一言で、ユリウスたち《暁の牙》をはじめ、ギルドに出入りする面々は毎朝の訓練に駆り出されることとなった。


ギルド中庭

「いち、にっ、さん、しっ!」
掛け声が飛び交う中、ユリウスは汗だくになって剣を振り、ガルドは黙々と体幹を鍛え、セリナは必死に走り込み。

「はぁ、はぁ……! わ、わたし……もう足がっ……!」
「まだだ! お前が倒れたら、仲間が守れなくなる!」
静香の冷徹な声に、セリナは涙目になりながらも足を動かした。

理人も例外ではなかった。
「ちょ、俺ラボ担当だから! 頭脳労働だから!!」
「頭脳を守るにも体が要るのです」
「ひぇぇ……! やっぱ来るんじゃなかった!」

ギルドの中庭は、すっかり軍隊じみた訓練場と化していた。


一方その頃

倫太郎、渚、ミラの三人は中庭から少し離れた静かな部屋にいた。
机の上には、静香から手渡された「トレーニングメモ」。

「……この内容なら、王子の姿でも怪しまれずにできますね」
渚が淡々と読み上げる。
「呼吸法、軽い体幹運動、筆記や暗記を兼ねた思考訓練……」

倫太郎は苦笑した。
「ほんと抜け目ないな、静香さん……。俺、王子姿で腕立てしてたら絶対バレるもんな」

ミラは小さく笑って、運動用のタオルを差し出した。
「でも、これならお三方で一緒に取り組めます。時間を決めて……ほら、文化祭の準備みたいに」

「文化祭かぁ……」
倫太郎は懐かしそうに天井を仰ぎ、そして渚とミラに微笑んだ。
「よし、俺たちも“裏の訓練タイム”だな」

三人だけの、ひそやかな鍛錬。
それは静香に託された“もう一つの訓練場”として、彼らの日課となっていった。


王城の一室。

窓は閉ざされ、外には漏れないように注意が払われていた。

部屋の中央では――。

「……いち、にっ、さん、しっ……!」
アレクシス王子の姿をした倫太郎が、床に正座して深呼吸を繰り返している。

隣では渚が冷静に声をかける。
「はい、そのまま背筋をまっすぐに。――次は腹式呼吸。王子の姿でも自然にできますから」

その横でミラが紙を手にし、呪文のように暗記を唱えていた。
「“右手を伸ばし、背筋を保ち、次は膝立ちにて――”」

三人は真剣そのもの。
だが外から見れば、王子と侍女たちが謎の儀式をしているようにしか見えなかった。


廊下の侍女たち

「ねぇ見た? さっき王子様のお部屋の隙間から……」
「ええ、“王子様が正座して呪文を唱えていた”ってやつでしょ!?」
「しかも両脇に銀髪の美女と侍女がいて……三人で息を合わせて……」

「まさか……新しい秘密の儀式!?」
「いえ、“愛を繋ぐ呼吸法”に違いないわ!」
「なんですかそれ!?」

噂は一瞬で拡散した。


兵士たちの間でも

「王子が城内で謎の修行をしてるらしいぞ」
「修行? 座ったまま“はぁーっ”て気を高めるやつだ」
「つまり……王子様、気功を習得しようとしてるんだな」
「……いや、噂じゃ“秘伝の暗示術で侍女の心を操る訓練”らしいぞ」
「なにぃ!?」


少し前のギルド

「……渚が兵士全員に模擬戦で勝った?」
報告を耳にした静香は、ほんのわずかに眉を上げただけだった。

理人が慌てて補足する。
「いやいや、話が盛られてるだけでな!? 確かに強いけど、全員ってのは――」

「事実か誇張かは関係ありません」
静香はきっぱりと言い切った。
「評価されているなら、その実力を正式に示すべきです。
渚、あなたは余暇を利用して城の兵士たちの訓練に参加しなさい」

「……承知しました」
渚は静かに一礼した。


そして現在
渚、城内訓練へ

王城の訓練場。
甲高い木剣の打ち合う音が響き渡る。

「くっ……!」「速いっ!」
兵士たちが次々と倒れ、土に転がる。

その中心で涼しい顔のまま木刀を構えるのは、銀髪の侍女――渚。
彼女は静香の命を受け、この場に“特別講師”として立っていた。

「次は誰ですか?」
落ち着いた声に、兵士たちの背筋が凍る。

「お、王子付きの専属メイドが……怪物じみてる……!」
「やばい、また倒された!」

兵舎の端でそれを見ていた倫太郎は、額に手を当てていた。
(……ああ、これ……また絶対変な噂になるやつだ……!)

一方の渚は、容赦なく次の対戦者に向かい合う。
その凛とした姿は、もはや兵士たちにとって「銀髪の鬼教官」そのものだった。
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