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第三章 糸を束ねる者たち
仮病で得た七日の猶予
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ギルド食堂
昼食を終えた暁の牙の面々は、テーブルを囲んで休憩していた。
ユリウスがふと眉をひそめる。
「なぁ……ちょっと気になったんだけどさ」
「ん?」
理人が顔を上げる。
ユリウスは真剣な表情で続けた。
「俺たちが依頼を受けると、いつも都合よく必要な支援があるよな。
改造武器とか、ラボの装備とか、宿舎の整備とか……なんかタイミング良すぎないか?」
その言葉に、倫太郎はカップを落としそうになった。
「っ……!」
額に冷や汗が滲む。
(やばっ……ユリウス、勘が鋭すぎる……!)
ミラも固まってしまい、場の空気がぴりりと張り詰める。
しかし――。
渚が涼しい顔で湯呑を置いた。
「それは、私たちが常に先を読んで準備しているからです。
戦場では“備えがすべて”。偶然ではなく、必然と思っていただいた方がよろしいでしょう」
「……そ、そうなのか?」
ユリウスは目を丸くし、やがて照れくさそうに笑った。
「さすがだなぁ……俺らが突っ込むだけで済んでるのは、そのおかげか」
「はい。だから胸を張って戦ってください」
渚は柔らかく微笑んだ。
倫太郎はこっそり胸を撫で下ろす。
(助かったぁぁ……! 渚、ほんと頼りになる……!)
理人はニヤリとしながら独り言のように呟いた。
「……まあ、実際は偶然ってことも多いんだけどな」
「えっ?」
「なんでもない!」
テーブルには再び笑いが広がり、緊張は消えていった。
王子の私室
ふかふかのベッドに横たわるアレクシス王子――の姿をした倫太郎は、わざと苦しげに咳をした。
「ごほっ、ごほ……余は……しばし静養せねばならぬ……」
侍女たちは慌てて駆け寄ろうとしたが、倫太郎は手を挙げて制した。
「余の看病は……渚とミラに任せる。他は下がれ」
侍女たちは困惑したが、王子の命令には逆らえない。
渚とミラだけが部屋に残され、他の者たちは退出した。
扉が閉じられると同時に、倫太郎は小さく息を吐いた。
「……よし、なんとか通ったな」
渚は腕を組んで冷静に言った。
「大胆ですが、これでしばらく王子としての公務は回避できますね」
ミラは顔を赤くしながらも、うなずいた。
「は、はい……でも仮病なんて、バレたら……」
倫太郎は苦笑して肩をすくめる。
「大丈夫、俺が王子の姿でベッドに寝てる間は、“倫太郎”として自由に動ける。
ギルドのことも調べ物も、これでだいぶやりやすくなるはずだ」
渚が小さく微笑む。
「では、王子様は病床に――倫太郎は外で、という二重生活の始まりですね」
倫太郎は軽く拳を握った。
「よし……しばらくはこの作戦で行こう」
こうして――王子の仮病と、倫太郎としての活動が同時に走り始めた。
ギルド会議所
倫太郎と渚は、静香の前に座っていた。
「――つまり、王子は仮病を使い、渚とミラ以外の看病を拒否した。
その間は“倫太郎”として自由に活動する……そういう作戦です」
渚の報告に、静香は目を細める。
「……大胆ですね。なぜ、今?」
倫太郎は気まずそうに後頭部を掻いた。
「実は昨日、ユリウスに“都合よすぎないか”って突っ込まれたんです。
あいつ、感が鋭いから……このままじゃ正体がバレかねないと思って」
「なるほど」
静香は腕を組み、しばし黙考した。
渚が続ける。
「一時的にでも王子としての露出を減らせば、彼にとっても動きやすくなります。
ただし……長期は危険。噂や監視の目もありますから」
「……では、一週間」
静香は短く言い切った。
「その間に情報を整理し、ギルドの基盤を固めなさい。
一週間後には、王子の“公務復帰”を演出する必要があるでしょう」
倫太郎は深くうなずいた。
「分かった。一週間……それならなんとかやれそうだ」
静香の視線が鋭く光る。
「ただし――仮病が仮病で済むのは、こちらの采配次第です。
無駄に外へ出て、また噂を呼ぶようなことは慎むこと」
「……はい!」
倫太郎は背筋を伸ばした。
こうして、“王子仮病作戦”は正式に一週間限定で動き出すこととなった。
昼食を終えた暁の牙の面々は、テーブルを囲んで休憩していた。
ユリウスがふと眉をひそめる。
「なぁ……ちょっと気になったんだけどさ」
「ん?」
理人が顔を上げる。
ユリウスは真剣な表情で続けた。
「俺たちが依頼を受けると、いつも都合よく必要な支援があるよな。
改造武器とか、ラボの装備とか、宿舎の整備とか……なんかタイミング良すぎないか?」
その言葉に、倫太郎はカップを落としそうになった。
「っ……!」
額に冷や汗が滲む。
(やばっ……ユリウス、勘が鋭すぎる……!)
ミラも固まってしまい、場の空気がぴりりと張り詰める。
しかし――。
渚が涼しい顔で湯呑を置いた。
「それは、私たちが常に先を読んで準備しているからです。
戦場では“備えがすべて”。偶然ではなく、必然と思っていただいた方がよろしいでしょう」
「……そ、そうなのか?」
ユリウスは目を丸くし、やがて照れくさそうに笑った。
「さすがだなぁ……俺らが突っ込むだけで済んでるのは、そのおかげか」
「はい。だから胸を張って戦ってください」
渚は柔らかく微笑んだ。
倫太郎はこっそり胸を撫で下ろす。
(助かったぁぁ……! 渚、ほんと頼りになる……!)
理人はニヤリとしながら独り言のように呟いた。
「……まあ、実際は偶然ってことも多いんだけどな」
「えっ?」
「なんでもない!」
テーブルには再び笑いが広がり、緊張は消えていった。
王子の私室
ふかふかのベッドに横たわるアレクシス王子――の姿をした倫太郎は、わざと苦しげに咳をした。
「ごほっ、ごほ……余は……しばし静養せねばならぬ……」
侍女たちは慌てて駆け寄ろうとしたが、倫太郎は手を挙げて制した。
「余の看病は……渚とミラに任せる。他は下がれ」
侍女たちは困惑したが、王子の命令には逆らえない。
渚とミラだけが部屋に残され、他の者たちは退出した。
扉が閉じられると同時に、倫太郎は小さく息を吐いた。
「……よし、なんとか通ったな」
渚は腕を組んで冷静に言った。
「大胆ですが、これでしばらく王子としての公務は回避できますね」
ミラは顔を赤くしながらも、うなずいた。
「は、はい……でも仮病なんて、バレたら……」
倫太郎は苦笑して肩をすくめる。
「大丈夫、俺が王子の姿でベッドに寝てる間は、“倫太郎”として自由に動ける。
ギルドのことも調べ物も、これでだいぶやりやすくなるはずだ」
渚が小さく微笑む。
「では、王子様は病床に――倫太郎は外で、という二重生活の始まりですね」
倫太郎は軽く拳を握った。
「よし……しばらくはこの作戦で行こう」
こうして――王子の仮病と、倫太郎としての活動が同時に走り始めた。
ギルド会議所
倫太郎と渚は、静香の前に座っていた。
「――つまり、王子は仮病を使い、渚とミラ以外の看病を拒否した。
その間は“倫太郎”として自由に活動する……そういう作戦です」
渚の報告に、静香は目を細める。
「……大胆ですね。なぜ、今?」
倫太郎は気まずそうに後頭部を掻いた。
「実は昨日、ユリウスに“都合よすぎないか”って突っ込まれたんです。
あいつ、感が鋭いから……このままじゃ正体がバレかねないと思って」
「なるほど」
静香は腕を組み、しばし黙考した。
渚が続ける。
「一時的にでも王子としての露出を減らせば、彼にとっても動きやすくなります。
ただし……長期は危険。噂や監視の目もありますから」
「……では、一週間」
静香は短く言い切った。
「その間に情報を整理し、ギルドの基盤を固めなさい。
一週間後には、王子の“公務復帰”を演出する必要があるでしょう」
倫太郎は深くうなずいた。
「分かった。一週間……それならなんとかやれそうだ」
静香の視線が鋭く光る。
「ただし――仮病が仮病で済むのは、こちらの采配次第です。
無駄に外へ出て、また噂を呼ぶようなことは慎むこと」
「……はい!」
倫太郎は背筋を伸ばした。
こうして、“王子仮病作戦”は正式に一週間限定で動き出すこととなった。
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