俺がワガママ王子なわけがない! ~交通事故で転生したら、評判最悪の王族になっていた件~

角砂糖

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第三章 糸を束ねる者たち

凍縛と雄叫び、総力の一撃

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採掘場の奥

渚は盗賊団の頭目を壁際に追い詰めていた。

「……もう観念しなさい。召喚石を出して」

冷ややかな声に、盗賊団のボスは冷や汗を流す。
「し、知らねぇよ! そんなもん……!」

次の瞬間、渚の指先がすっとボスの喉元に伸びる。わずかな気配で全身が凍りつき、男は腰を抜かした。

「ひぃっ……! わ、分かった! こ、これだ!」
懐から光る石を取り出すと、慌てて床に投げ出した。

渚は素早く拾い上げると、振り返って倫太郎に差し出した。
「――今です、倫太郎」


倫太郎は大きく息を吸い込み、石を掲げる。
「……氷川怜! 来てくれ!」

光が弾け、清冽な霊糸の風が吹き荒れる。
そこに現れたのは、御札と短刀を携えた一人の青年。

「……ここは……?」
周囲を見渡した怜の視線が、渚で止まる。

「……渚? なぜ、あなたが……」

渚はわずかに目を細め、頷いた。
「事情は後で説明します。今は――仲間が危機なのです」

倫太郎が一歩進み出る。
「巽と理人だ! 二人があの化け物に苦戦してる! このままじゃ持たない!」

「……巽と理人……」
怜の眉が大きく動いた。

一瞬だけ驚愕と戸惑いが浮かぶが、その表情はすぐに鋭いものへと変わる。
「……分かりました。すぐに参ります」

御札を構え、怜の周囲に氷の結界が展開されていく。


その頃、前線

巽の雄叫びも虚しく、ユリウスたちは不協和晶獣《グルーミング・ファング》の“遠吠え”に翻弄されていた。

「くっ……頭が……!」
セリナが膝をつき、ユリウスも剣を取り落としそうになる。
ガルドの盾は結晶牙にひびが入り、巽の剣も押し返されていた。

「……っくそ! 全然歯が立たねぇ……!」
巽の叫びが響く中、不協和晶獣はさらに結晶を震わせ、破滅的な咆哮を放とうとしていた――。


轟く咆哮と結晶の爆ぜる音の中――。
巽が必死に剣を振るっていたその背後に、冷たい霊力の風が吹き抜けた。

「――凍縛の法陣!」
怜の御札が舞い、足元の地面が一面の氷陣に変わる。
不協和晶獣《グルーミング・ファング》の脚が絡め取られ、一瞬その巨体が止まった。

「なっ……怜!? 本当に怜なのか!?」
巽が驚愕の声を上げる。

そのすぐ後ろで、渚と倫太郎も駆け寄ってきた。
「巽さん、理人さん、ご無事で」
渚が短く言い、すぐに状況を見渡す。

倫太郎は荒い息を吐きながらも、力強く言った。
「こっちも……なんとか召喚できた! 怜を呼んだのは俺だ!」

巽が目を見開き、理人が呆然と呟く。
「……倫太郎……お前……」

倫太郎は自分の胸を指で叩き、真剣な顔で続けた。
「静香さんの指示だ。俺と渚は裏で動いてて……盗賊団から召喚石を奪ってきたんだ!」

怜が短刀を構え直し、仲間たちへと視線を向ける。
「詳細は後で。今はこの獣を封じましょう――仲間として」

巽はにやりと笑い、剣を掲げる。
「……やっぱり来てくれると思ってたぜ! 怜!」

理人もゴーグルを押し上げ、肩の力を抜いた。
「まったく……どいつもこいつも無茶ばっかしやがって……でも助かった」

氷の陣が光を放ち、結晶獣の咆哮が揺れる。
仲間が揃い、戦況は大きく動こうとしていた。


氷の法陣に絡め取られた結晶獣が咆哮を上げる。
「アォォォォォン!!」
その叫びだけで心を揺さぶられるような衝撃――だが、怜が祈りを響かせた。

「護法の祈り――!」
淡い光が仲間たちを包み、胸の奥を締めつけていた恐怖がすっと和らぐ。

「……頭が、軽く……!」
セリナが顔を上げ、ユリウスが剣を握り直す。

「よしっ! まだやれる!」


渚は腰の短刀を抜き、静かに踏み込む。
「――ここは通しません」

結晶牙が振り下ろされる瞬間、身を滑らせてすり抜け、柄で関節を打ち抜く。
巨体が一瞬よろめき、その隙を仲間たちが突いた。

「すげぇ……!」
ユリウスが息を呑む。
「これが王子付きの侍女……いや、鬼教官の本気か!」

渚は表情を崩さず、短く言った。
「集中を切らさないで」


理人のデコイドローンが囮となり、ガルドが盾で突進を受け止める。
「ぬぅぅ……! 今だ、叩け!」

ユリウスの剣がひび割れに突き刺さり、セリナの炎が爆ぜる。
怜が破魔の光矢を放ち、結晶を貫くたびに不協和の音が掻き消されていく。

「……効いてる! 怜、すげぇ!」
巽が笑みを浮かべ、仲間に雄叫びを放った。
「奮起の雄叫びィィ!!」

その声が全員の心を奮い立たせる。


結晶獣が瀕死に追い込まれ、全身の結晶が不気味にきしみ始めた。
「クリスタル・バーストだ、退避しろ!」
理人が叫ぶが――巽は前に踏み込んだ。

「ここで終わらせる!」

青白い霊糸が剣に集まり、閃光となる。
「――終の太刀・暁光!!!」

夜明けのような光が闇を切り裂き、結晶獣の巨体をまっすぐに貫いた。
轟音と共に結晶が砕け散り、歪んだ狼は絶叫を残して霧散する。


誰もが息を切らし、崩れ落ちそうになった時――。

巽は剣を支えに立ち続け、振り返って叫んだ。
「……仲間は、俺が守る! それが俺の役目だ!」

その言葉に、仲間たちは互いに笑みを浮かべ、戦場に夜明けの光が差し込んだ。
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