俺がワガママ王子なわけがない! ~交通事故で転生したら、評判最悪の王族になっていた件~

角砂糖

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第四章 再生の火は物語を照らす

巽の静かな決意と穏やかな朝

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医務室

珍しく布団に大人しく横たわる巽。
窓から差し込む朝の光に目を細め、ただ黙って目を閉じていた。

その姿は、いつも荒々しく前線に立つ彼とは別人のようだった。
額には冷や布、握り締められた拳だけが、彼の内心をわずかに示している。


休憩所

「……なぁ、悪いもんでも食ったんじゃねぇか?」

理人が端末をいじりながらぼやく。
彼の軽口に、場にいる全員が複雑な表情を浮かべた。

「私もそう思います」怜が眉を寄せて首を傾げる。
「いつもなら『休むなんて性に合わねぇ!』って暴れているはずなのに……」

セレス隊も腕を組み、疑念を隠さない。

「……病気か?」クロウ。
「検査が必要かもしれないわね」アイリス。

セレスは静かに息を吐いた。
「異常が続くなら、私たちも協力しよう」

ミラは湯気の立つスープを運びながら、小声で囁いた。
「……まるで別人みたいです。やっぱり何かに憑かれているのでは……?」


廊下

「……あの巽が、大人しくベッドに?」

倫太郎は耳を疑い、壁越しに聞こえる会話に絶句した。
「信じられねぇ……」

渚は静かに目を伏せ、淡々と答える。
「……倫太郎。きっと理由があるのでしょう。あの人が大人しくするなんて、ただ事ではありません」

その声音には、わずかな緊張がにじんでいた。

一方で静香は落ち着かず、部屋の中を一通り調べて回っていた。
「食事も問題なし、寝具も異常なし……。何か行き届いていないのかと思ったのですが」


巽の心中

布団の中で、巽は静かに拳を握っていた。

(……赤い召喚石、颯真……。聞いちまった以上、軽はずみなことは言えねぇ。だから今は、大人しく力を蓄えるしかねぇんだ)

だがそれを言葉にすることはなかった。
ただ静かに眠るふりを続けた。


中庭

月明かりの下、ひとり腰かけていた巽の前に、颯真が歩み寄った。

「……ここにいたか」

巽は頭をかきながら、バツが悪そうに笑う。
「おう。……なんだよ、また“悪いもん食ったのか”って言いに来たのか?」

颯真は首を横に振り、静かに答えた。
「そうじゃない。……あれはただの冗談だろう。けど俺には分かる。お前が“理由あって大人しくしてる”ってことくらいはな」

巽は目を丸くし、思わず声を漏らした。
「……やっぱり気づいてたか」

「昔から一緒にいた。お前の顔色や息の仕方を見れば、隠しごとはすぐ分かる」
颯真はそう言って、石のベンチに腰を下ろした。

巽はしばし沈黙したが、やがて低い声で呟く。
「……赤い召喚石の話、聞いちまったんだ。俺は怪我で動けねぇけど……治ったら絶対、関わらなきゃならねぇって思ってる」

颯真の瞳がわずかに光を帯びる。
「やっぱり、そうだったか」

「だから今は……休むしかねぇんだよ。焦って動いたら全部台無しになる」
巽は拳を握り締め、唇を噛む。

颯真はふっと口元を緩めた。
「……相変わらずだな、巽。無茶をするために無理やり休むなんて、お前らしい」

「うっせ……」巽は苦笑しながら肩をすくめる。
「でも、ありがとな。お前に見抜かれるのは……ちょっと安心する」

颯真は短く頷き、立ち上がった。
「互いに命を拾ったんだ。これからは秘密でも、支え合えばいい」

巽は月を見上げながら、小さく呟いた。
「……ああ。次は一緒に並んで戦うぞ」

――夜風が吹き抜ける中、二人だけの秘密の会話は静かに結ばれた。

その様子を、渚はそっと影から見ていた。
中庭で語らう巽と颯真。
そこに焦りも苛立ちもなく、ただ確かな決意だけがあった。

「……そういうこと、だったのね」

渚は小さく息をつき、踵を返した。


ギルド宿舎

布団の上でごろごろ転がりながら、倫太郎はまだ寝付けずにいた。
「はぁ……巽、大丈夫かな……。また無茶してないといいけど……」

そこに渚が入ってきて、静かに腰を下ろす。
「倫太郎。巽さんのことなら、心配いらないわ」

「え?」

「颯真さんと二人で話していたの。――あの人は無茶をするために、無理やり休んでいるのよ」
渚は穏やかに笑った。
「ちゃんと理由があって大人しくしている。だから安心して」

倫太郎は目を瞬かせ、やがて安堵の表情を浮かべる。
「……そっか。あの巽が“理由あって大人しく”してるなら……もう大丈夫だな」

そのまま布団に潜り込み、倫太郎は安心したように爆睡した。

実は巽に「三日間休養」が言い渡されてから――倫太郎も密かに王子として「引きこもり宣言」をしていた。
「体調が優れぬ」と言い訳をして部屋に籠るふりをし、その間はギルド宿舎で寝泊まりしていたのだ。

(……巽がまた無茶するんじゃないかって思ったから。俺も、そばで見張っとこうって……)

だが結局、巽は自分から大人しく休んでいた。
倫太郎は心の中で苦笑する。

「……引きこもり宣言なんて、するまでもなかったな」

安心感に包まれた寝顔は、どこか少年らしい無防備さを取り戻していた。


翌朝

眩しい朝の光が障子越しに差し込み、倫太郎はまどろみの中で目を開けた。
「ん……よく寝た……」

身体を伸ばそうとしたその瞬間――すぐ横で静かな寝息が聞こえる。

「……え?」

視線を向けると、そこには銀髪を枕に広げて眠る渚の姿。
布団を半分分け合うようにして、すぐそばに寄り添っていた。

「なっ……ななななな……っ!!!」
倫太郎は慌てて飛び起き、布団をはねのける。
「な、渚!? え、なんで俺の横に――!?」

渚はゆっくりと目を開け、寝ぼけまなこのまま小さく微笑んだ。
「……おはよう、倫太郎」

「お、おはようじゃねぇよ!? 俺、昨日普通に一人で寝たはずだぞ!?」

渚は上体を起こし、乱れた髪を指先で整えながら落ち着いた声で答える。
「……夜中、様子を見に来たの。あなたがあまりに安心した顔で眠っていたから……起こすのも忍びなくて。気づいたら、一緒に寝てしまっていたみたい」

倫太郎は真っ赤になり、頭を抱える。
「な、なんでそんな自然に言えるんだよ……心臓止まるわ!」

渚はくすりと笑い、布団を畳みながら一言。
「……でも、よく眠れたでしょう?」

「……っ!」
倫太郎は顔を覆いながら、情けない呻き声しか出せなかった。

――巽が休養に入り、みんなが慌ただしくしている中で。
倫太郎にとっては、久しぶりに“穏やかな朝”だった。
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