俺がワガママ王子なわけがない! ~交通事故で転生したら、評判最悪の王族になっていた件~

角砂糖

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第五章 安息と騒乱――渚は笑い、倫太郎は赤面

安らぎの別荘と、誓いの結び目

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村内・新築別荘

玄関を開けると、木の香りがふわりと広がった。
白木の床はまだ新しく、畳の部屋は青々とした香りを放っている。
障子越しに射し込む陽光が、柔らかく室内を照らしていた。

「……すげぇ、ほんとにちゃんと造ってあるんだな」
倫太郎は思わず感嘆の声を漏らし、縁側へと歩を進める。

渚は静かに廊下を歩きながら、指で柱をなぞった。
「丁寧な仕事ね……王城の豪華さとは違って、心がすっと安らぐわ」

「だよな。……俺、こっちの方がずっと落ち着くわ」
倫太郎は庭を見下ろしながら、深く息をついた。
「王城はいつも気を張ってないといけねぇけど……ここなら、普通に“俺”でいられる」

渚は少しだけ目を細め、彼の横顔を見つめる。
「……それなら、この場所は倫太郎にとって正解だったのね」

「まぁ……渚と一緒に歩いてる時点で、間違いなんてねぇよ」
不意に口をついて出た言葉に、倫太郎自身が真っ赤になった。
「い、いや! 今のはその……深い意味じゃなくて!」

渚は小さく肩を揺らし、くすりと笑った。
「ふふ……分かってるわ。でもね、そう言ってもらえるの、すごく嬉しいの」

二人は並んで縁側に腰を下ろした。
庭の池に風がさざめき、涼やかな水音が響く。

倫太郎は思わずぽつりと呟いた。
「……あー、なんか本当に“こっちが本物の家”って気がしてきた」

渚は頷き、そっと視線を落とした。
「そう思える場所があるのって……きっと幸せなことよ」

そのひと言が、倫太郎の胸に深く刻まれた。


シラカベ村・寄合所の裏手

夕暮れ、涼しい風が吹き抜ける縁側に腰を下ろし、巽と颯真が肩を並べていた。
昼間の喧騒が嘘のように静かで、虫の音だけが耳に心地よい。

「なぁ、颯真」
巽がぼそりと口を開く。
「……しばらくは、倫太郎と渚、参加させない方がいいんじゃねぇか?」

「……ああ。休暇を取っているのは明白だ」
颯真は腕を組み、冷静に頷いた。
「二人の空気を見て分かっただろう。今の彼らに必要なのは“戦い”ではなく“休息”だ」

巽は鼻を鳴らし、頭をかいた。
「ま、俺もそう思ってたとこだ。……だから、俺らでうまく“引っ張る”ってのはどうだ?」

「引っ張る?」

「そう。次に不協和が出ても、俺たちでなんとかする。依頼も、ギルドとの連絡も。二人に余計な心配かけずに済むように、さ」

颯真は一瞬だけ目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。
「……悪くない考えだな。巽、お前にしては殊勝な意見だ」

「おいコラ、“しては”は余計だ!」
巽が睨むと、颯真は淡々と肩をすくめる。

「ただし――完全に外すのは不可能だ。だから“それとなく”遠ざける。俺たちが先に動くか、情報を回すタイミングを調整すればいい」

「……さすが冷静だな」
巽はにやりと笑った。
「よし、決まりだ。倫太郎と渚には、せいぜい甘ったるい休暇を楽しんでもらおうじゃねぇか」

夕暮れ、巽と颯真の密談が終わろうとした時だった。

「――なるほどな。二人に休暇を過ごさせたい、か」

背後から落ち着いた声がして、二人はぎょっとして振り返った。
そこに立っていたのは、腕を組んだ尊だった。

「た、尊!? いつから聞いてやがった!?」
巽が慌てて立ち上がる。

尊は涼しい顔のまま歩み寄り、縁側に腰を下ろした。
「最初からだ。……お前たち、声が大きい」

颯真は動じることなく、軽く頷いた。
「……なら、話が早い。聞いた通りだ。俺たちは二人を戦場から遠ざけたい」

尊はしばらく黙り、考えるように顎に手を添えた。
やがて視線を上げ、真っ直ぐに告げる。

「……協力しよう。俺もあの二人には、休む時間が必要だと思っていた」

巽はほっと息をつき、笑みを浮かべた。
「おおっ、話がわかるじゃねぇか!」

だが尊はそこで言葉を区切り、釘を刺すように言い放った。

「――ただし」

巽と颯真が同時に身を固くする。

「二人に直接聞かれたら、そこで終わりだ。言い逃れはするな。」

「……っ!」
巽は苦い顔をし、頭をかいた。
「そりゃあ、まぁ……仕方ねぇか」

颯真も静かに頷く。
「合理的だ。秘密は長く隠せるものではない」

尊はわずかに口元を緩める。
「それでも、やれるだけやってみよう。――俺たちが前に立つことで、二人に少しでも安らぎを与えられるのなら」

夕暮れの空を仰ぎながら、三人の間に小さな結託の火が灯った。


一方で王城・執事室

「おおおお……殿下ぁ……!」
机に突っ伏し、頭を抱えるギルバート。
胃のあたりを押さえながら呻き声を上げていた。

「ここしばらく引きこもられたまま……! 外出もなさらず……! 王子のご容態が――わ、わたくしの胃に……ッ!」

彼の前に、薬箱を抱えた小柄な少女が姿を見せた。
玉蓮の妹――玉燕である。

「ほっほ。姉の代わりにやってきた玉燕でございます。発注通り、特効胃薬をお持ちしましたぞ」
彼女は朗らかに微笑み、包みを机に置いた。

「おおっ、救世主よ……!」
ギルバートは泣きそうな顔で瓶を掴む。

だが背後で控える侍女ミラは、落ち着いた声で告げた。
「執事様、ご安心ください。殿下は……少々お疲れなだけです。療養のようなものでして」

(――倫太郎様の“秘密”は、決して知られてはならない)
ミラは心の内でそう繰り返しながら、玉燕とさりげなく視線を交わした。

「ふふ、わかっておりますとも」
玉燕は扇子をぱちんと閉じ、頷いた。
「わたくしと姉は商売人。秘密を守るのも“契約”のうちにございます」

二人の少女は無言のうちに協力体制を結んでいた。


同刻・村内・新築別荘

「――へっくし!」
倫太郎が突然大きなくしゃみをした。

渚が振り返り、首を傾げる。
「……風邪ですか?」

倫太郎は鼻をすすりながら肩をすくめた。
「いや……なんか今、誰かにめっちゃ噂されてる気がする……」

渚はくすりと笑みをこぼす。
「ふふ。王城の皆さんが心配しているのかもしれませんね」

倫太郎は天井を仰ぎ、頭を抱えた。
「……ギルバートさん、絶対胃壊してるだろ……」

――遠く離れた王城と村で、それぞれの“気苦労”が奇妙に重なっていた。
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