俺がワガママ王子なわけがない! ~交通事故で転生したら、評判最悪の王族になっていた件~

角砂糖

文字の大きさ
70 / 78
第六章 王都騒乱録 ~不協和と珍騒動~

命を狙う理由は……魚

しおりを挟む
王城・中庭 深夜

月明かりに照らされた回廊を、アレクシス(中身は倫太郎)は侍女ミラに伴われて歩いていた。
突然――冷たい殺気が辺りを走る。

「ッ!?」
渚が影から飛び出し、すぐさま身構えた。

中庭の闇の奥。
ぬらりと現れたのは、一人の巨漢。
肩幅は広く、黒装束に身を包み……だが口には、大きな魚を咥えていた。

「……魚……?」
倫太郎は思わず素の声を漏らした。

男はにたりと笑い、魚を噛み砕くように音を立てる。
骨がポキリと砕け、血の滴る尾が地面に落ちた。

「王子……その命、いただく」

「うわ、やべぇやつだこれ!!」
倫太郎は即座に後退、渚が前に立ちふさがる。


戦闘開始

男の拳が唸りをあげ、石畳が砕け散る。
その姿はまさしく“暴走する武闘派”そのもの。
魚臭さと殺気が混ざり合い、常人なら恐怖で立っていられない。

渚は冷静に受け流しを繰り返しながら、声を張る。
「殿下、下がってください!」

「いや下がるけど! てか魚の意味は何なんだよ!!」

「アチョーッ!」
突如響いた掛け声。
闇の向こうから現れたのは糸目執事シモン。
ロープをヌンチャクのように操り、男の攻撃を弾き返す。

「ご安心を……ここは私が」

「お前もアチョー言うのかよ!」
倫太郎のツッコミが夜空に虚しく響いた。

月明かりに照らされ、緊張が走る。
刺客の男は低く唸り、口にくわえていた魚を吐き捨てると、野獣のように構えを取った。

「まだまだ……これからだ」

渚は素早く一歩引き、鋭い目で相手を観察する。
「……体幹が崩れていませんね。気を抜けば、一撃で仕留められます」

横でシモンがロープを構え、低く息を吐いた。
「ふん……面白ぇ」

男が突進し、低い体勢から連打を繰り出す。
渚はしなやかに受け流し、掌底で顎を狙うが、刺客は頭を逸らしてかわす。
間髪入れず、渚の足払いが閃く――だが刺客は飛び退き、瓦礫の上に着地した。

「……動きが鋭いな」

シモンは構えを崩さず、じりじりと間合いを詰める。
次の瞬間、ロープが蛇のようにしなり、刺客の手首を狙う。
男は腕を振り抜いてロープを払い除けるが、バランスを崩した隙を見逃さず、シモンの回し蹴りが側頭部に炸裂した。

「……ぐっ!」
刺客は地面に叩きつけられ、息を荒くする。

その時――。
シモンの目が、月明かりに濡れる地面をとらえた。
男が吐き捨てた魚が、そこに転がっていた。

「……魚……」
シモンの声は鋭かった。

「え?」渚が小さく首を傾げる。
「え?」倫太郎が素で固まる。

シモンは男をビシッと指差した。
「おのれ、貴様か! 最近の“魚事件”の黒幕はッ!」

「はぁ!?」倫太郎は絶叫した。

刺客は魚を吐き捨てた口元を拭いながら、拳を振り上げる。
「……何を言っている……」

だがシモンは一歩も引かない。
「言い逃れは無用! 魚を吐き捨てた時点で――犯人確定だッ!」

「……論理が飛躍しすぎています」渚は眉をひそめる。
「いやいや、どう見てもただの刺客だろ!? 魚関係なく!」倫太郎が突っ込む。

しかし、騒ぎを聞きつけて兵士たちが駆け込んできた。
床に転がる魚片を見て、彼らの顔色が変わる。

「魚を吐き捨ててる……!」
「つまり……こいつが犯人かぁーーーッ!」

完全にシモンの勢いに流され、刺客=魚事件犯説が一気に広まった。

「待て、違う! 俺はただの――」
「言い訳無用ォ!」シモンの蹴りが腹に直撃し、刺客は呻き声を上げて崩れ落ちる。

兵士たちは一斉に飛びかかり、弱った男を押さえつけた。
こうして刺客は、戦闘の最中にも関わらず“魚事件の容疑者”として捕縛されることになった。
月明かりの下、魚一匹がきっかけで、真実は見事にすり替えられていた。


王城・謁見の間

捕らえられた刺客は、縄で縛られたまま跪いていた。
アレクシス(中身・倫太郎)は王座に腰掛け――その表情は怒りに燃えていた。

「我が命を狙った理由……今ここで吐け」
低い声で告げると、場の空気が一瞬にして凍りつく。

刺客は冷や汗を垂らし、口ごもった。
「……そ、それは……」

「答えろ!」
王子の声が響き渡り、衛兵たちが一斉に槍を構える。

観念した刺客は、思わず口を滑らせた。
「……魚、です……」

「……は?」
王子、渚、ミラ、ギルバート――全員が絶句する。

刺客は慌てて続ける。
「ち、違うんです! ボスが……魚を買い占めていて! 俺はただ、それを分けてもらっていただけで……!」

「それで暗殺に加担したと?」
アレクシスの声は怒りを隠しきれない。

「み、見返りに……『王子の命を狙え』と……」

――謁見の間に沈黙。
全員が「そんな理由で国を揺るがすな」と心の中でツッコんでいた。

アレクシス(倫太郎)はこめかみを押さえながら深く息を吐いた。
「魚のために……俺を殺そうとしたのか……」

声がわずかに震えていた。
怒りか、呆れか、自分でも分からない。

渚が横で静かに言葉を添える。
「殿下……ここまで来れば、魚事件も見過ごせませんね」

王子は衛兵に向かって手を振り下ろした。
「……連行せよ。――“暗殺未遂”の罪は重い」

兵士たちに引きずられていく刺客。
彼の口からは、最後まで「魚……魚が……」という呟きが漏れていた。


城内・自室

謁見を終え、着飾った衣を脱ぎ捨てた倫太郎は、ベッドの端に腰を下ろした。
肩は落ち、背中はぐったりと丸まっている。

「……魚のせいで暗殺未遂って……なんなんだよ……」
両手で顔を覆いながら、声が震えた。
「俺……もうやってらんねぇよ……」

自分が命を狙われた理由が「魚」――。
国を揺るがすにしてはあまりに馬鹿げた理由で、怒りよりも脱力感が勝っていた。

すると、隣にそっと腰を下ろす気配。
「倫太郎……」
渚だった。

銀の髪が肩に触れ、彼女の静かな声が落ちてくる。
「大丈夫。あなたの価値は、そんな理由で揺らぐものじゃありません」

「……でもさ……俺、王子やってる意味あんのかな……」
小さな声で漏らすと、渚は柔らかく笑った。

「あるわ。あなたが“王子”でいてくれるから、救われる人がいる。……ほら、今だってこうして無事でしょう?」

そう言って、渚は倫太郎の頭を優しく撫でた。
まるで子どもをあやすように、髪を梳き、肩を包む。

「……渚ぁ……」
倫太郎の声がかすれる。

「甘えていいの。今だけは」
彼女はそう囁き、膝を差し出した。

倫太郎はためらいながらも、その膝に頭を預けた。
温かな掌が額に触れる。
――張り詰めていた心が、音を立てて崩れていく。

「……あぁ……なんか……楽になった……」
呟いた倫太郎の瞼は、次第に重く閉じていった。

渚は静かにその寝顔を見守り、銀の髪越しに囁いた。
「あなたは大丈夫。糸は、ずっとあなたを支えていますから……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

なぜ、最強の勇者は無一文で山に消えたのか? ──世界に忘れられ、ひび割れた心のまま始めたダークスローライフ。 そして、虹の種は静かに育ち始め

イニシ原
ファンタジー
ダークスローライフで癒しに耐えろ。 孤独になった勇者。 人と出会わないことで進む時間がスローになるのがダークスローライフ。 ベストな組み合わせだった。 たまに来る行商人が、唯一の接点だった。 言葉は少なく、距離はここちよかった。 でも、ある日、虹の種で作ったお茶を飲んだ。 それが、すべての始まりだった。 若者が来た。 食料を抱えて、笑顔で扉を叩く。 断っても、また来る。 石を渡せば帰るが、次はもっと持ってくる。 優しさは、静けさを壊す。 逃げても、追いつかれる。 それでも、ほんの少しだけ、 誰かと生きたいと思ってしまう。 これは、癒しに耐える者の物語。 *** 登場人物の紹介 ■ アセル 元勇者。年齢は40に近いが、見た目は16歳。森の奥でひとり暮らしている。 ■ アーサー 初老の男性。アセルが唯一接点を持つ人物。たまに森を訪れる。 ■ トリス 若者。20代前半。アーサー行方不明後、食料を抱えて森の家を訪れる。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...