勇者パーティクビになったら美人カウンセラーと探偵業始めることになってしまった

角砂糖

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第一章「王城金貨横領事件」

聞き取りパート

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王城の会議室。
長机の向こうに並ぶのは、勇者パーティの面々。
俺は座った瞬間から胃がキリキリしていた。

(うわぁ……気まずい。俺をクビにした連中が、真正面にズラッと……!)

そんな俺を横目に、渚は落ち着いた声で口を開いた。

「それでは、お一人ずつ当日の行動を教えてください」


勇者(リーダー)

「俺はその夜、訓練場にいた。兵士にも目撃されているはずだ」
胸を張り、当然のように答える。
「ただし、途中で巡回していた兵が怪しい動きをしていたのを見た。」

戦士

「俺は食堂だ。酒を飲んでいた。仲間も見ている」
だが、その視線は泳いでいて、明らかに自信なさげだ。

魔術師

「私は研究室で魔法書を読んでいた。ずっと一人だったがな」
皮肉げに笑いながら、わざとらしく杖を弄んでいた。

弓兵

「俺は城壁の上で警戒してた。月が綺麗だったから、見張りをしてたのを覚えてるぜ」
軽口を叩くが、裏付ける証言はなかった。

渚は一切顔色を変えず、淡々と記録を続けた。
一方、俺はメモを取りながら混乱していた。

ペンを止めそうになった俺に、渚が小声で囁く。
「倫太郎さん。大丈夫です。矛盾はむしろ手がかりになります」

その落ち着いた声に励まされ、俺は再びメモに集中した。
勇者たちの証言は、後で必ず“絡まった糸”として浮かび上がるはずだ。


王城の執務室。
几帳面そうな会計官が机の前に座り、震える手で眼鏡を押し上げていた。

渚は落ち着いた声で問いかける。
「まず、金貨の管理体制を教えていただけますか」

「は、はい……! 金貨は王家の金庫に収められ、私と数名の管理官しか鍵を持ちません。
 それに……合鍵など存在しないはずです」

会計官は汗を拭いながら早口で答えた。
俺は必死にメモを取りつつ、(“はずです”って自信なさげだな……)と心の中で突っ込む。

渚は表情を変えず、帳簿を手に取った。
「ですが、この帳簿。数日の記録がごっそり空白ですね」

「そ、それは……!」
会計官の顔が青ざめる。

「単なる記入漏れだと主張するには、金貨の消失時期とぴたりと重なっています。――何があったのか、詳しく」

沈黙。
やがて会計官は肩を落とし、絞り出すように言った。
「……申し訳ありません。あの時期、財貨の動きに不自然な点がありました。ですが、勇者様方の威光を前に、私は……」

言葉はそこで途切れた。
俺は慌ててペンを走らせながら、胸がざわついた。
(……勇者パーティの名前が出てくるのか? でも、この人自体が犯人って感じじゃないよな……)

渚は静かに頷いた。
「ありがとうございます。――あなたの証言も、確かに記録しました」


「では、――第一王子アレクシス殿下にも、お話を伺いたく存じます」

渚が視線を向けた瞬間、背後に控えていた執事ギルバートが一歩前に出た。
「……殿下に直接の聴取など、無礼が過ぎます」

張り詰めた声に、部屋の空気がさらに重くなる。
勇者パーティの連中はにやつき、俺は冷や汗を垂らした。
(やばい……これ、下手したら不敬罪とかで俺たち処刑コースじゃ……!?)

だが渚は怯むことなく、淡々と告げる。
「国の財貨が消えた事件です。王家の方の証言を得ずして、真実には近づけません。……ならば、執事殿。あなたにお尋ねしてもよろしいでしょうか」

ギルバートはわずかに目を細め、無表情を崩さぬまま答えた。
「殿下の日常を補佐するのが私の務め。必要とあらば、お答えいたしましょう」

彼は細かく、殿下の日々の動きを語った。
謁見、茶会、狩猟、宴……。
その口調は完璧に整っていたが、何もかも美化しすぎていて逆に情報の取捨が難しい。

渚はそれでも真剣に耳を傾け、一つひとつ記録を確認していった。
「ありがとうございます。殿下ご自身のお考えも、もしお聞かせ願えるなら」

そのとき――玉座にふんぞり返っていたアレクシスが、気まぐれそうに笑った。

「ふん……よい、退屈しのぎに話してやろう」

足を組み直し、気だるげに言葉を紡ぐ。
「余は財貨などに興味はない。金貨の数が増えようが減ろうが、どうでもよい。――ただ、余の命じた宴が中止になったのは気に食わぬがな」

ギルバートの顔がピクリと引きつり、勇者たちが吹き出す。
俺は頭を抱えた。
(……やっぱこの王子、ワガママ全開じゃん!)

渚は小さく目を伏せ、しかし表情を崩さなかった。
「承知しました。殿下のお言葉も、確かに記録させていただきます」

彼女の冷静な筆致の横で、俺はひたすらメモ帳に震える手で書きつけた。


王城での聴取を終え、俺たちは宿に戻った。
渚は持ち帰った書類を机に並べ、俺は慌ててメモ帳を広げる。

「ふぅ……疲れた……。勇者たちの視線、ずっと刺さってましたよ」
「よく頑張りましたね、倫太郎さん。あなたの記録が、これからの道標になります」

渚の言葉に少し元気を取り戻し、俺はメモをめくった。


整理した証言
• 勇者パーティ
 「褒美が減らされたのは迷惑だ」
 「盗みなど名誉を汚す」
 (全員、強い苛立ち。だが互いに“その場にはいなかった”と主張)
• 会計官
 「金庫の管理は厳重だった。合鍵は存在しないはず」
 (だが帳簿の一部に不自然な空白期間あり)
• 執事ギルバート
 「殿下の日常は常に私が同伴している」
 「不正に関わることなどあり得ない」
 (細かく説明するが、完璧すぎて逆に実感が乏しい)
• 王子アレクシス
 「金貨などどうでもよい。ただ、宴が中止になったのは気に食わぬ」
 (事件自体に興味なし。だが浪費癖をにおわせる発言)


「……こうして並べると、なんかみんな胡散臭いですね」
「嘘を言っているのか、都合の悪いことを隠しているのか。どちらにしても、“矛盾”は必ず見つかります」

渚は淡々とペンを走らせ、アリバイの時系列を整理していく。
勇者たちが“別々の場所にいた”と主張する時間帯、会計帳簿の空白、王子の宴の日程――。
それらが絡み合うと、ある一点に影が落ち始めていた。

「倫太郎さん。次に確かめるべき場所が見えてきましたね」
「……え、もうっすか!? 俺まだ頭の中ぐちゃぐちゃなんですけど……」

渚は小さく笑みを浮かべ、紅茶を口にした。
「焦らずともよいのです。少しずつ、糸を手繰っていきましょう」

俺は深呼吸して、もう一度メモを見直した。
――ここから、俺たちの推理が本格的に始まる。

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