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第二章「迷いの森のキノコ採取依頼」
迷いの森、パズル攻略編
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森に入って一刻。
湿った空気が肌にまとわりつき、吐く息すら白く霞んでいく。
どれほど歩いても、見覚えのある大木が視界の先に立ちふさがるのだった。
「……どうなってんだ、これ」
俺は額の汗を拭いながら、手元のメモ帳を睨みつけた。
「東に五十歩、北に三十歩……その後でまた西に戻ると、結局ここに帰ってくる。全部繋がってるみたいで……」
「いや繋がっとらん。繋がっておる“ように見せて”おるのじゃ」
玉蓮が腕を組み、鼻を鳴らす。まるで自分の店先で値踏みをしているかのような口ぶりだ。
「倫太郎さん。見上げてごらんなさい」
渚が細い指で枝葉の隙間を示す。そこから差す光――。
よく見ると、俺たちが進むたびに太陽の位置が少しずつ“巻き戻っている”のだ。
「……太陽が動いてない!? いや、俺たちが……戻されてるのか!」
渚は落ち葉を拾い、さらさらと砂に図を描く。
幾何学模様のような円と矢印。
「この森は、“特定の方角を選ぶと、歩いた時間ごと巻き戻される”仕組みのようです。
だから同じ場所に戻るのです」
俺は図に食い入り、喉を鳴らす。
「つまり――方向を間違えたら強制リセット……。これ、まんまゲームのパズルじゃないですか」
「ほっほ、それで正解じゃろうな」
玉蓮がニヤリと笑う。
「わしは北東ばかり選んだゆえ、三度も同じ大木に戻されたわ」
「待ってください! 北東がリセットなら……逆に北西か南を選べば進めるかも!」
自分で言いながらも、心臓が高鳴った。
渚は穏やかに頷き、俺に向けて微笑む。
「では、次はその仮説を検証しましょう。倫太郎さん、記録をお願いします」
「了解!」
俺は息を整え、必死に歩数を数え、進んだ方角と結果を一つひとつ書き込んでいく。
「ここは北西……進めた! 次は南……あっ、戻った!」
紙面に赤で大きな×、○。
地図は少しずつ“攻略チャート”のように形を成していった。
「……すごい、繋がった! こうすれば群生地に辿り着ける!」
胸の奥に熱いものが込み上げる。自分の手で導いた答えが、確かな実感となって刻まれていた。
渚は微笑みながら、記録を覗き込む。
「倫太郎さん。あなたの記録が、この森の迷いを解き明かしましたね」
「いや、でもまだ半分くらいですよ? これ、完全に脱出ゲームじゃないですか……」
俺は頭を抱えつつも、足は確実に前へ進んでいた。
玉蓮は「ほっほ」と笑い、背負い袋を肩に担ぎ直す。
「よいぞ、助手殿。どうやらそなたも探偵の道を歩き始めておる」
俺は小さく拳を握る。
――今は“探偵助手”として迷いの森を突破しようとしている。
湿った空気が肌にまとわりつき、吐く息すら白く霞んでいく。
どれほど歩いても、見覚えのある大木が視界の先に立ちふさがるのだった。
「……どうなってんだ、これ」
俺は額の汗を拭いながら、手元のメモ帳を睨みつけた。
「東に五十歩、北に三十歩……その後でまた西に戻ると、結局ここに帰ってくる。全部繋がってるみたいで……」
「いや繋がっとらん。繋がっておる“ように見せて”おるのじゃ」
玉蓮が腕を組み、鼻を鳴らす。まるで自分の店先で値踏みをしているかのような口ぶりだ。
「倫太郎さん。見上げてごらんなさい」
渚が細い指で枝葉の隙間を示す。そこから差す光――。
よく見ると、俺たちが進むたびに太陽の位置が少しずつ“巻き戻っている”のだ。
「……太陽が動いてない!? いや、俺たちが……戻されてるのか!」
渚は落ち葉を拾い、さらさらと砂に図を描く。
幾何学模様のような円と矢印。
「この森は、“特定の方角を選ぶと、歩いた時間ごと巻き戻される”仕組みのようです。
だから同じ場所に戻るのです」
俺は図に食い入り、喉を鳴らす。
「つまり――方向を間違えたら強制リセット……。これ、まんまゲームのパズルじゃないですか」
「ほっほ、それで正解じゃろうな」
玉蓮がニヤリと笑う。
「わしは北東ばかり選んだゆえ、三度も同じ大木に戻されたわ」
「待ってください! 北東がリセットなら……逆に北西か南を選べば進めるかも!」
自分で言いながらも、心臓が高鳴った。
渚は穏やかに頷き、俺に向けて微笑む。
「では、次はその仮説を検証しましょう。倫太郎さん、記録をお願いします」
「了解!」
俺は息を整え、必死に歩数を数え、進んだ方角と結果を一つひとつ書き込んでいく。
「ここは北西……進めた! 次は南……あっ、戻った!」
紙面に赤で大きな×、○。
地図は少しずつ“攻略チャート”のように形を成していった。
「……すごい、繋がった! こうすれば群生地に辿り着ける!」
胸の奥に熱いものが込み上げる。自分の手で導いた答えが、確かな実感となって刻まれていた。
渚は微笑みながら、記録を覗き込む。
「倫太郎さん。あなたの記録が、この森の迷いを解き明かしましたね」
「いや、でもまだ半分くらいですよ? これ、完全に脱出ゲームじゃないですか……」
俺は頭を抱えつつも、足は確実に前へ進んでいた。
玉蓮は「ほっほ」と笑い、背負い袋を肩に担ぎ直す。
「よいぞ、助手殿。どうやらそなたも探偵の道を歩き始めておる」
俺は小さく拳を握る。
――今は“探偵助手”として迷いの森を突破しようとしている。
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