勇者パーティクビになったら美人カウンセラーと探偵業始めることになってしまった

角砂糖

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閑話1 探偵達の日々

第二王子の愚痴と、探偵たちの謝罪

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公爵家令嬢殺人事件が解決した時のこと

日が傾き、屋敷を覆っていた混乱がようやく落ち着いた頃。
客間のソファに腰を下ろした王子――フリードリヒ殿下は、まだどこか気まずそうに眉をひそめていた。

「……事情は理解した。理解は、しているのだが……」

その言い方がいかにも“王族の我慢”を滲ませていて、俺は思わず苦笑をこらえた。

「いや、ほんとすみません殿下。まさかあのタイミングで見つけちゃうとは思わなくて……」

「“見つけちゃう”ではない!」
殿下が思わず声を上げる。
だがすぐに、息を吐いて肩を落とした。

「……あのクローゼット、狭いのだ。しかも拘束されたまま、息苦しいったらない。
 しかも外では誰かが怒鳴る声と、床を踏み鳴らす音ばかり。気が気ではなかったぞ」

「そ、そりゃそうですよね……」
俺は頭を掻きながら苦笑する。

渚さんは椅子に腰かけ、静かに頭を下げた。
「殿下。あのような扱い、誠に申し訳ありません。
 ですが――あの場では他に、殿下をお守りする手段がありませんでした」

王子はその言葉に目を伏せ、しばし沈黙した。
それから、ふっと笑みを浮かべた。

「……責める気はない。結果的に、私の身を守ってくれたのだからな。
 ただ――もう少し、楽な場所にしてほしかった。それだけだ」

「ほっほ、クローゼットの中でもご無事なら、それはそれで幸運じゃろうて」
玉蓮が笑い、場の空気が少し和らぐ。

王子はその姿に目を細め、苦笑した。
「君たちは……本当に、妙な取り合わせだな。
 貴族でも騎士でもないのに、国の一大事件を解決してしまうとは」

渚さんは微笑んで答える。
「我々は探偵です。身分ではなく、心の糸を辿ることが仕事ですから」

「……なるほど。心の糸、か」
王子は一度目を閉じて、再び開いた。
その瞳には、さっきまでの苦々しさとは違う、穏やかな光が宿っていた。

「恩義は忘れぬ。必ず報いよう。
 だが次に私をクローゼットに押し込む時は、せめてクッションを用意しておいてくれ」

「ははっ……心得ました」
俺が笑うと、渚さんも玉蓮もつられて微笑む。

「ほっほ、それは請け負えんのう。今度はもっと大事になっとるやもしれん」
「……玉蓮さん、それ笑い事じゃないから」
「ふふ、ですが――殿下がご無事で何よりです」

夕暮れの光が差し込み、カーテンの裾を揺らす。
事件の余韻とともに、奇妙な一体感がそこに生まれていた。

王子は立ち上がり、三人の前に静かに一礼した。
「改めて礼を言おう。高原倫太郎、真導渚、そして……玉蓮商会の娘よ。
 君たちの働きがなければ、私は――国家は今頃どうなっていたか分からなかった」

「いえ、俺たちはただ……できることをやっただけです」
俺が頭を下げると、殿下は小さく笑った。

「そういう者こそ、真に頼れるものだ」

そう言い残し、王子は護衛と共に去っていった。
扉が閉まった後、俺は深く息を吐く。

「……なんか、夢みたいだな。俺、王子にお礼言われたぞ」
「ほっほ、国境越えた甲斐があったのう」
「倫太郎さん。これもあなたの勇気があってこそです」

渚さんの言葉に、俺は照れくさく笑うしかなかった。

(……俺の人生、ほんとどうなってんだ)

夕焼けの光の中で、三人の影が長く伸びる。
その影の先には、まだ誰も知らない次の事件が、静かに待っているのだった。
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