勇者の皆さん、いつ魔王城に着くんでっか? ――戦わんでも始まらん、せやけど請求は止まらん世界で――

角砂糖

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第二章 秘宝探しのため、更に遅延の危機

第十話:デモやんの災難

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王都郊外。
 勇者ローン回収のため、今日も舎弟・デモやんは出張に出ていた。
 魔王から渡された指令書にはこう書かれている。

《勇者一行を確認せよ。発見次第、説明会(強制)》

「ま、また説明会かぁ……。ワイ、最近人間見るだけで胃痛すんねん……」

 デモやんはため息をつきつつ、道端の少年を見つけた。
 黒いマントに杖、幼い顔立ち。
 どことなく魔法使いっぽい。

「おっ、いた! 勇者パーティの魔法使いの子やな!?」
 ミナト(※12歳・元勇者チーム)は、振り返ってびくっとする。
「えっ……だ、誰!?」
「ひぃぃっ!? ちょ、ちょっと待って、怖がらんといて!?」
「え、え? なんか黒い服の人が笑ってる!?」
「ちゃうちゃう! 取り立てちゃうねん、確認だけやねん!!」

 ミナトは泣きそうな顔で後ずさる。
 その後ろから、風のように静かな足音。

「――あなた、いま何をしているのかしら?」

 声の主は、月影。
 薄藍の瞳が細く光る。
 いつもは穏やかな微笑をたたえる彼女だが、今は違った。
 表情は凍てつくように冷たい。

「ま、ま、待ってください姐さんっ! ワイ、ホンマに誤解です! 勇者や思って声かけただけで!」
「この子は勇者ではありません。うちの子です。」
「う、うちの!?」
「ええ。“勇者パーティからクビにされた子”を、うちが拾ったの。……それを知らずに脅したのね?」

 デモやんは青ざめた。
「ち、違いますって! 脅してへん! ちょっと請求の話を――」
「請求?」
 月影の声が、音もなく低く落ちた。
「子ども相手に、請求?」
「い、いやいやいや、説明の延長で……!!」
「説明、ね。」

 その瞬間、空気が変わった。
 風が止まり、音が消える。
 月影の帯がゆらりと揺れたかと思うと、次の瞬間には――
 背後に回っていた。

「っひぃ!?」
「怖いのは、わたしの方でしょう?」
「すんませんすんませんすんません!」
「この子を泣かせた時点で、あなた、勇者より罪が重いわ。」
「お慈悲ぃぃぃぃ!!」

 デモやんは涙目で地面にひれ伏した。
 ミナトは慌てて止めに入る。
「ま、待ってください! ぼく大丈夫です! この人……たぶん仕事で来ただけで!」
「ミナトくん、優しい子ね。」
 月影の声が柔らかくなる。
 が、そのまま静かに続けた。
「でもね、優しい子ほど守らなきゃいけないの。――現場の恐怖教育として。」

「教育は結構ですぅぅぅぅぅ!!」

 デモやんは悲鳴を上げ、全力で逃げ出した。
 地面を蹴り、煙のように消える。
 彼の残した言葉はただ一つ。

「も、もう現場いややぁぁぁぁぁ!!」


 その夜。魔王城。
 報告を受けたガイゼルは、額を押さえていた。
「……また泣かされたんか。」
「はいぃぃ……姐さんマジで怖かったですぅぅ……」
「月影はんに手ぇ出したらアカンて、あれほど言うたやろ。」
「せやけど! 勇者似てたんですもん!」
「似てても違うもんは違う。おまえ、目利き鍛えろ。ローンより先に。」
「ぐぬぬぬ……」

 ガイゼルはため息をつきながら、帳簿の“損害報告欄”に一行追加した。

【項目】:舎弟・心理的損耗費 1,000ルミン(未払い)

「……やれやれ。これでまた請求増えたわ。」

 デモやんは机に突っ伏し、泣きながらつぶやく。
「も、もう魔王軍やめたいですぅ……」
「アカン。ローン中や。」
「ひぃぃぃぃぃ!!」

 その悲鳴が、今日も魔王城の夜に響いた。
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