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第五話:“おうちワープ”はじめました
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「これは……ちょっとした調整装置」
朝、ミナトの家。
いつものようにパンをトーストしていたミナトの目の前で、レーアは何やら丸い球体のようなものを床に設置していた。
「いや、“ちょっとした”って何? なんで音がピーピー言ってるの?」
「大丈夫。自動調整中。揺れたら近づかないでね」
「不安しかないんだけど!?」
その装置は直径30センチほどの金属球。青いラインが脈動しながら回転し、小さく浮いていた。明らかにこの世界の工芸品ではない。
「後で説明する。とりあえず、今日の依頼に行こう」
「誤魔化したな今!」
依頼内容は「隣町マルセーンの薬師から、特効薬を受け取ること」。
ただし、そこに行くには二通りのルートがある。
ひとつは山を貫く《グレン洞窟》。安全だが片道一日以上かかる。
もうひとつは、悪名高い《迷いの森》。短縮できるが、99%の冒険者が中でルートを見失う「行きはよいよい帰りは迷子」地帯。
「……で、どっちにする?」
ミナトが地図を開きながら問うと、レーアは一瞬だけ空を見上げた。
「迷いの森」
「えっ!? あそこ!? いや、あそこはやめようよ!? 誰も抜けられたことないんだよ!?」
「“この世界の冒険者は”でしょ?」
「うわあ理屈っぽい感じ出してきたあ!!」
《迷いの森》の中。
無数に分岐した道、同じような景色、磁力の乱れ。
どんな冒険者も迷う“常識”の森――だった。
「第六層、北西ルート誤差0.2度……補正。完了」
レーアは腰の装置からホログラムを展開し、空間の位相をリアルタイムでスキャンしながら歩いていた。
まるで迷路をなぞるように、どの道も躊躇なく進んでいく。
「……こわっ。何これ。地元民より森詳しい……」
15分後、ふたりは何事もなかったかのように迷いの森を抜け、目的地マルセーンに到着。
「お、おぉ!? なんか普通に着いた!?」
「理論上は一本道。迷う要因は空間認識力と恐怖心から来る錯視よ」
「さらっと言ってるけど、そういうのはこの世界じゃ“バケモノ”って呼ぶんだよ!?」
一方その頃、勇者パーティ。
「……出口どこ!?」「いやもうさっき通った気がする!」「グラッツ鼻血止めて!」
完全に森に翻弄されていた。
1時間後、彼らは無言で引き返し、渋々グレン洞窟へと進路変更する。
薬師の老人は、「まさかこの時間に来るとは……」とミナトたちに目を丸くしながら薬を手渡した。
普通なら二日はかかる行程を、昼前には終えてしまったのだ。
「……で、どうする? 今から町に戻っても日暮れまで余裕あるけど」
ミナトが帰り道を指しながら問うと、レーアは静かに右手を上げた。
「じゃあ、そろそろ使うわね」
「使うって……何を?」
「初期座標呼び出しコード、E.X.HOME-01──起動」
レーアがそう唱えると、腰の装置が光を放ち、背後に設置されていた“あの謎の装置”が反応した。
次の瞬間、ふたりの姿は光に包まれ――
「……え、帰ってる!!??」
ミナトの叫び声とともに、彼の家のリビングに着地。
設置されていた球体はゆっくりと光を収め、再び無音に戻った。
「……それ、なんなの」
「個人用空間折り返し装置。まあ、“おうちワープ”って感じ?」
「かわいく言っても全部台無し!!」
依頼は、移動時間わずか45分で終了。
ギルドに報告に行ったところ、「最短記録更新」と騒がれるも、本人たちはあまりにアッサリしすぎて肩透かし気味だった。
町では新たな噂が生まれた。
『ミナト、今度は家に魔導拠点を設置したらしい』
ミナトはソファに倒れ込みながらつぶやいた。
「……もう、ほんとに君、いったい何者なの……」
「ミナトの仲間、でしょ?」
「……そうだけど……そうなんだけど……!」
今日もまた、ふたりの冒険は規格外にスマートだった。
朝、ミナトの家。
いつものようにパンをトーストしていたミナトの目の前で、レーアは何やら丸い球体のようなものを床に設置していた。
「いや、“ちょっとした”って何? なんで音がピーピー言ってるの?」
「大丈夫。自動調整中。揺れたら近づかないでね」
「不安しかないんだけど!?」
その装置は直径30センチほどの金属球。青いラインが脈動しながら回転し、小さく浮いていた。明らかにこの世界の工芸品ではない。
「後で説明する。とりあえず、今日の依頼に行こう」
「誤魔化したな今!」
依頼内容は「隣町マルセーンの薬師から、特効薬を受け取ること」。
ただし、そこに行くには二通りのルートがある。
ひとつは山を貫く《グレン洞窟》。安全だが片道一日以上かかる。
もうひとつは、悪名高い《迷いの森》。短縮できるが、99%の冒険者が中でルートを見失う「行きはよいよい帰りは迷子」地帯。
「……で、どっちにする?」
ミナトが地図を開きながら問うと、レーアは一瞬だけ空を見上げた。
「迷いの森」
「えっ!? あそこ!? いや、あそこはやめようよ!? 誰も抜けられたことないんだよ!?」
「“この世界の冒険者は”でしょ?」
「うわあ理屈っぽい感じ出してきたあ!!」
《迷いの森》の中。
無数に分岐した道、同じような景色、磁力の乱れ。
どんな冒険者も迷う“常識”の森――だった。
「第六層、北西ルート誤差0.2度……補正。完了」
レーアは腰の装置からホログラムを展開し、空間の位相をリアルタイムでスキャンしながら歩いていた。
まるで迷路をなぞるように、どの道も躊躇なく進んでいく。
「……こわっ。何これ。地元民より森詳しい……」
15分後、ふたりは何事もなかったかのように迷いの森を抜け、目的地マルセーンに到着。
「お、おぉ!? なんか普通に着いた!?」
「理論上は一本道。迷う要因は空間認識力と恐怖心から来る錯視よ」
「さらっと言ってるけど、そういうのはこの世界じゃ“バケモノ”って呼ぶんだよ!?」
一方その頃、勇者パーティ。
「……出口どこ!?」「いやもうさっき通った気がする!」「グラッツ鼻血止めて!」
完全に森に翻弄されていた。
1時間後、彼らは無言で引き返し、渋々グレン洞窟へと進路変更する。
薬師の老人は、「まさかこの時間に来るとは……」とミナトたちに目を丸くしながら薬を手渡した。
普通なら二日はかかる行程を、昼前には終えてしまったのだ。
「……で、どうする? 今から町に戻っても日暮れまで余裕あるけど」
ミナトが帰り道を指しながら問うと、レーアは静かに右手を上げた。
「じゃあ、そろそろ使うわね」
「使うって……何を?」
「初期座標呼び出しコード、E.X.HOME-01──起動」
レーアがそう唱えると、腰の装置が光を放ち、背後に設置されていた“あの謎の装置”が反応した。
次の瞬間、ふたりの姿は光に包まれ――
「……え、帰ってる!!??」
ミナトの叫び声とともに、彼の家のリビングに着地。
設置されていた球体はゆっくりと光を収め、再び無音に戻った。
「……それ、なんなの」
「個人用空間折り返し装置。まあ、“おうちワープ”って感じ?」
「かわいく言っても全部台無し!!」
依頼は、移動時間わずか45分で終了。
ギルドに報告に行ったところ、「最短記録更新」と騒がれるも、本人たちはあまりにアッサリしすぎて肩透かし気味だった。
町では新たな噂が生まれた。
『ミナト、今度は家に魔導拠点を設置したらしい』
ミナトはソファに倒れ込みながらつぶやいた。
「……もう、ほんとに君、いったい何者なの……」
「ミナトの仲間、でしょ?」
「……そうだけど……そうなんだけど……!」
今日もまた、ふたりの冒険は規格外にスマートだった。
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