異世界宇宙人と天才少年のドタバタ冒険譚

角砂糖

文字の大きさ
35 / 77

第二十九話:ヒーロー、変身アイテム忘れる 前編

しおりを挟む
──夕暮れのキッチン、赤く染まった空が窓を照らすなか、鉄板の上では熱気と香ばしさが踊っていた。

「ん~……やっぱコレだよなぁ!
粉モン三種盛り、魂の味ッ!!」

そう叫びながらフライ返しを振るうのは、異世界から迷い込んだ“もう一人のヒーロー”、吾妻桃太郎――今やこの世界では《風影の灯》の一員、“モモタロウ”として暮らす少年だった。

たこ焼き、お好み焼き、焼きそば。
鉄板の上では、彼が“帰れないかもしれない元の世界”を、味と音で再現していた。

「たこ焼きは回転勝負! 焼きそばはタイミング!
お好み焼きは――心意気ッッ!!」

湯気の向こうで、関西人でもないのに魂だけは本場以上な少年が、まるでパフォーマーのような身のこなしで調理を続けている。



「……回転半径、±1.5cm。形状変化、黄金比の域。記録」

キッチンの隅では、もう一人の“別世界から来た少女”――レーアが、平常運転で分析に没頭していた。

・たこ焼き:温度変化グラフと焦げ色の均一性をスキャン
・お好み焼き:生地と具材の重量比を自動計算
・焼きそば:麺のソース吸収率と蒸気成分をリアルタイムモニタリング

「……職人領域、Bランク到達。味覚誘発率:高。
心理反応――期待上昇」

「なぁ、これ、そんなガチで解析するもんじゃないと思うんだけど!?」

モモタロウが鉄板越しに苦笑する中――

「だって……美味しそうなんだもの」

月影が、いつの間にかエプロンをつけてそっと立っていた。

「手伝ってもいい? キャベツ、細かく刻むの得意よ」

「……あ、もちろんっす!!」

ふたりの共同作業が始まると、鉄板の音も一層賑やかに。
月影は生地の調整を繊細な指先でこなし、見た目の美しさまで整えていく。

「こっちの世界には屋台文化がないけど……
“誰かと囲む夕飯”って、きっと似たようなものね」

「屋台の楽しさって、実は“誰かと分け合える”ことかもな」



やがて、粉モン三兄弟――完成!!

外カリッ、中とろりのたこ焼き

豊富な具材で、キャベツの甘さとソースが絡むお好み焼き

蒸し焼きで仕上げた、もっちり麺の焼きそば

「いただきまーーす!!」

ミナトが勢いよく箸を伸ばすと、たこ焼き一口で目を見開く。

「うっま!? ソースとマヨの破壊力やばい!!」

レーアもそっと箸を取り、一口。

「……神経伝達反応加速。情動安定。
分類:高効率癒し食。異世界式“回復アイテム”。」

「たこ焼きにRPGタグ付けんなって!!」



夕暮れ、鉄板、仲間、そして“たこ焼き”。

ふいに、モモタロウがつぶやく。

「オレ、あっちの世界の家族と、こういうの作ったことあってさ……
帰れなくても、この味と……この感じだけは、忘れたくないんだ」

月影は手を止めて、やわらかく言った。

「大丈夫よ。……あなたの味、ちゃんとここに残るもの」

「うん。記録にも、記憶にも。味も、気配も全部……保存完了」

レーアの言葉に、三人はそろってくすっと笑った。



その夜、《風影の灯》のキッチンには――

異世界の少年が持ち込んだ、故郷の香りとあたたかさが満ちていた。
それは、“同じ時を生きる者たち”だけが共有できる、かけがえのない味だった。

『この世界でも、ソースは正義。』

鉄板の端で、モモタロウが焼きそばを盛りながらつぶやく。

「……ってなわけで、おかわり、あるぜ!」

そしてまた、誰かの皿に笑顔が届く。
今日という日が、ただの“晩ごはん”じゃなくなる魔法のように。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...