39 / 77
第三十三話:僕に足りなかったものは、“正解”じゃなかった 後編
しおりを挟む
夜更け。
ミナトは、薄く明かりの灯る作戦室に一人座っていた。
魔力制御式の地図盤に手をかざし、光のラインで戦場を描く。
ポイントには、月影の斥候位置、レーアの砲撃支援線、そしてモモタロウの突入経路――
それらを、ひとつの“陣形”として結ぶ線を引きながら、ミナトはふと、手を止めた。
隣には、レーアが静かに座っていた。
「……ミナト。眠ってない」
「……うん。今日は、ちょっとだけ、思い出してた」
彼は図盤から目を離し、静かに呟く。
「最初のころさ。……君と二人だったとき、
夜になると、なぜか眠れなかったんだ。音も、明かりも、全部……やけに広く感じてさ」
レーアは頷く。
「記録にも残ってる。“沈黙が拡張されて、眠れない夜”。」
「……そんな名前、ついてたのかよ」
小さく笑って、ミナトは肩を落とす。
でもその目は、もう弱々しいだけの少年ではなかった。
「でも、今は違う。モモタロウが来て、月影さんがいて……
気づけば、みんなの“動き”が俺の中にある。
だったら、それを“形”にしたくて」
レーアは、光るパネルにそっと触れた。
「それが、今の“配置”」
「……ああ。大賢者の言ってた通り、“信じて位置を決める”ってやつだ」
翌朝――
風影の灯、出撃準備中。
突発的に発生した魔物群の掃討依頼に、チームは臨戦態勢に入っていた。
「っしゃー! 今日も決めるぜ、ドラグカイ……」
勢いよく走り出そうとするモモタロウを、後方からレーアの声が静かに遮る。
「モモタロウ、待機。重要な装備を忘却中」
「えっ、え? オレなんか持ってなかったっけ――」
レーアが無言でポーチから《カイザードライブ》を取り出して差し出す。
「繰り返す、重要な装備を忘却中。再発率72%。よって、事前渡し処置」
「うっ、サーセン……!」
それを見ていたミナトが肩をすくめながら呟く。
「……やっぱり、あいつが動く前に配置するって、正解だったな」
そして戦場――
敵の数は想定よりも多く、魔獣の包囲網が村落を取り囲んでいた。
だが、風影の灯の陣形はすでに完成していた。
• 月影が影から影へと移動し、敵の斥候を寸断。
• レーアの魔導砲台が高所から正確に遮蔽火線を走らせ、敵の進行を抑える。
• ミナトは中央で全体の魔力流をコントロールしながら、支援魔法を絶え間なく繋ぎ――
そして、突撃するモモタロウのルートには、すでに敵がいなかった。
「変身――ドラグイン!!」
空に紋章が浮かび、青白い龍の気が風を切る!
「鋼の意志が、蒼の空を駆ける――」
「無敵龍神!! ドラグカイザー!!
配置? 気にすんな! オレは真ん中、突っ込むだけだああああああ!!」
「そのままで、ちゃんと噛み合うのが……私たちらしいわね」
月影が微笑む。
「連携精度95%。戦闘領域、安定化完了」
レーアの装置がその結果を即座に表示した。
「よし、次の位置、展開するぞ! リンク制御、右側に誘導!!」
ミナトの指揮が飛ぶ!
敵はなす術もなく崩れていく。
あとは掃討――というところで、モモタロウが叫ぶ。
「よーし! 位置もバッチリ! あと今日は、変身アイテムも忘れてねぇ!!」
「忘れそうになってたけどな……」
ミナトとレーアのツッコミが同時に重なった。
戦いの後、地図盤に記録された魔力軌跡が、ひとつの形を描いていた。
それはまるで、風の流れと灯のように穏やかな軌道。
「これが、俺たちの陣形か……」
ミナトは、その“形”に――確かに宿るものを感じていた。
“ひとりじゃない”という、あたたかさを。
ミナトは、薄く明かりの灯る作戦室に一人座っていた。
魔力制御式の地図盤に手をかざし、光のラインで戦場を描く。
ポイントには、月影の斥候位置、レーアの砲撃支援線、そしてモモタロウの突入経路――
それらを、ひとつの“陣形”として結ぶ線を引きながら、ミナトはふと、手を止めた。
隣には、レーアが静かに座っていた。
「……ミナト。眠ってない」
「……うん。今日は、ちょっとだけ、思い出してた」
彼は図盤から目を離し、静かに呟く。
「最初のころさ。……君と二人だったとき、
夜になると、なぜか眠れなかったんだ。音も、明かりも、全部……やけに広く感じてさ」
レーアは頷く。
「記録にも残ってる。“沈黙が拡張されて、眠れない夜”。」
「……そんな名前、ついてたのかよ」
小さく笑って、ミナトは肩を落とす。
でもその目は、もう弱々しいだけの少年ではなかった。
「でも、今は違う。モモタロウが来て、月影さんがいて……
気づけば、みんなの“動き”が俺の中にある。
だったら、それを“形”にしたくて」
レーアは、光るパネルにそっと触れた。
「それが、今の“配置”」
「……ああ。大賢者の言ってた通り、“信じて位置を決める”ってやつだ」
翌朝――
風影の灯、出撃準備中。
突発的に発生した魔物群の掃討依頼に、チームは臨戦態勢に入っていた。
「っしゃー! 今日も決めるぜ、ドラグカイ……」
勢いよく走り出そうとするモモタロウを、後方からレーアの声が静かに遮る。
「モモタロウ、待機。重要な装備を忘却中」
「えっ、え? オレなんか持ってなかったっけ――」
レーアが無言でポーチから《カイザードライブ》を取り出して差し出す。
「繰り返す、重要な装備を忘却中。再発率72%。よって、事前渡し処置」
「うっ、サーセン……!」
それを見ていたミナトが肩をすくめながら呟く。
「……やっぱり、あいつが動く前に配置するって、正解だったな」
そして戦場――
敵の数は想定よりも多く、魔獣の包囲網が村落を取り囲んでいた。
だが、風影の灯の陣形はすでに完成していた。
• 月影が影から影へと移動し、敵の斥候を寸断。
• レーアの魔導砲台が高所から正確に遮蔽火線を走らせ、敵の進行を抑える。
• ミナトは中央で全体の魔力流をコントロールしながら、支援魔法を絶え間なく繋ぎ――
そして、突撃するモモタロウのルートには、すでに敵がいなかった。
「変身――ドラグイン!!」
空に紋章が浮かび、青白い龍の気が風を切る!
「鋼の意志が、蒼の空を駆ける――」
「無敵龍神!! ドラグカイザー!!
配置? 気にすんな! オレは真ん中、突っ込むだけだああああああ!!」
「そのままで、ちゃんと噛み合うのが……私たちらしいわね」
月影が微笑む。
「連携精度95%。戦闘領域、安定化完了」
レーアの装置がその結果を即座に表示した。
「よし、次の位置、展開するぞ! リンク制御、右側に誘導!!」
ミナトの指揮が飛ぶ!
敵はなす術もなく崩れていく。
あとは掃討――というところで、モモタロウが叫ぶ。
「よーし! 位置もバッチリ! あと今日は、変身アイテムも忘れてねぇ!!」
「忘れそうになってたけどな……」
ミナトとレーアのツッコミが同時に重なった。
戦いの後、地図盤に記録された魔力軌跡が、ひとつの形を描いていた。
それはまるで、風の流れと灯のように穏やかな軌道。
「これが、俺たちの陣形か……」
ミナトは、その“形”に――確かに宿るものを感じていた。
“ひとりじゃない”という、あたたかさを。
0
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる