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1. ハーフエルフの友人
しおりを挟む王国に住む古い友人の頼みで、人造魔石に魔力を注ぎ込んだ。
ちなみにこの人造魔石は、400年くらい前に僕が若気の至りで造ったものだ。生活に役立てるつもりで造ったのに、結局戦争に使われることになったので作り方も含めて封印した。
たぶん今でも僕しか造れないと思う。
「これ、何に使うの?」
どうせ戦争のために使うんだろうけど。
「あ、興味ある?明日の夜使うから見に来てもいいよ?」
魔族と人間のハーフである古い友人は、ハイエルフの僕よりは随分若いけれど、人間よりはずっと長く生きていて、100年くらい前に会った時と同じ美しい見た目で、人間でいうと20歳くらいにしか見えない。
自分が面白いと思ったものにしか興味がなく、刹那的で気まぐれな奴だけど、魔法の知識は人間の中では並ぶ者がいないのではないかと思う。
ハーフだから厳密に言うとヒトのカテゴリに入れていいのかわかんないけれども。
実際、かなりエルフ寄りのハーフな気がする。
翌日、他にやることもなかったので、僕が作って僕の魔力を入れた人造魔石の用途を確認するべく、古い友人に案内されてこの国の王宮へと向かった。
なぜ王宮?と思わなくもなかったけれど、人間には過ぎた遺物となっている人造魔石が、権力者の手で管理されている可能性は極めて高いなと思い、思考をするのを止める。
あまり良い噂の聞かないこの国のことだから、きっと碌でもないことに使うんだろうなと容易に想像出来てしまう。
人間同士の争いに、ハイエルフである僕は当然興味が湧かない。
同じ種族同士、なぜ殺し合うのか理解が出来ないけれど、増えすぎた種の自浄作用みたいなものなのかと推測している。
実際、戦争で土地が荒れるよりも、食糧や燃料を求めて森林を伐採し切り拓かれる方がより多くの命を奪われるのだ。それならば人間同士で命を奪い合ってくれた方が他の生命にとってはよほどマシなことだと思う。
「ここだよ。念のためにフード被って認識阻害の魔法でもかけておいて。部外者立入禁止だからね」
「わかった」
意気揚々と扉を開ける友人の後ろから部屋に入ると、豪華な服を着ている偉そうな男が数人と、ローブを着た魔法使いが十数人、魔法陣を囲っていた。
「おまたせ」
相手によって態度を変えることのない友人は、偉そうな男たちの前でもまた、態度を変えることはなく、たとえそれが相手の男か不快に感じていたとしても意に返さない。
僕もそうだけど、人間の決まり事に縛られようとは思わないし、その必要性もない。
そこに圧倒的な力の差があるから。
「早速始めるね」
友人はどこからともなく人造魔石を取り出して、呪文を唱える。
周りにいた魔法使いもそれに合わせて呪文を呟く。
ちなみに偉そうな男たちは何もしていない。
床に書いた魔法陣が光り輝き、術式が発動する。
あ、これ、ダメなやつだ。
禁術になってる異世界召喚の術式じゃないか。
コッチに連れてくるときに本人の同意なん確認しないだろう。普通に誘拐だよね。
まだ戦争の方がマシだった。
術式が起動してしまう。
きっとこの古い友人がそれなりの知識で頑張った結果なんだろう。
こうなってしまうともう止められない。
下手に止めるとみんな消滅してしまう可能性があるから。
室内が魔法陣からの光で満ちる。
光の中に人影が現れる。
一人じゃなくて何十人も。
これは僕が人造魔石に込めた魔力量のせいだろうか。
この世界にとって異物であるものが、こんなにたくさん存在してしまったらこの世界で抱えきれなくなって溢れてしまうのではないだろうか。
愚かだとしか言いようがない。
それ以上を欲しがる人間も。
その手段を与えてしまったこの世界も。
室内に満ちた召喚の光が、徐々に収束していく。
結構な数の、ざっと30人くらいだろうか。
成人するかしないかあたりの年齢の男女複数人。
皆、制服を着ている。
…制服?
メガネ女子のクラス委員長が、落ち着いて!と声をかけている。
こんなわけわからないシーンなのにたいしたもんだよね。
…クラス委員長?
なんだこれ、なにこのきおく。
「…っ!」
急に物凄く頭が痛くなって、色んな情報が一度になだれ込んできて、辺りが真っ白になって迂闊にも一瞬、気を失ってしまった。
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