僕たちはその歪みに気付くべきだった。

AT限定

文字の大きさ
26 / 54

僕の痛み⑤・回想

しおりを挟む
「あのさ、お兄ちゃん。今週の土曜日、空いてるかな?」

 能登との一件から、2日が経った。
 その後、決定的ながあったわけではない。
 むしろ、こちらが不気味に感じてしまうほど平穏無事に過ごしている。
 能登が話していた噂についても、どうにもリアリティに欠けるらしく、警戒していたほど広がりを見せていない。
 手前勝手ながら、そのまま風化していけば、と虫の良いことを考えていた。

 そんな中、風霞が早々と今週の予定を押さえようとしてくる。
 キッチンで夕飯の準備をする僕の傍らで、ミルクの入ったマグカップを両手で支えながら、気まずそうに見つめてくるあたり、彼女も僕と同じ心持ちであることに間違いはなさそうだ。

 それにしても、心外だ。
 『あるかな?』などと聞いてはいるものの、そう尋ねる風霞の瞳には、どこか確信めいたものを感じる。
 家事やら見舞いを除けば、僕に予定がないことなんて風霞自身が良く知っているはずだ。
 だからと言って、それを隠し通そうともせず、こうして申し訳程度の疑問符でお茶を濁してこられるのも、それはそれで癪に触るというものだ。

「……急になんだよ?」
「えっ。いや。ちょっと付き合って欲しいんだよね。はは……」

 どこかバツが悪そうに笑う彼女を見て、何かを直感してしまう。

「……もしかして、麻浦先輩関連、か?」
「あ、分かっちゃった? なんかさ。ウチのクラスにその麻浦先輩? と仲が良い子が居てさ。これも何かの縁だから、一緒に遊ぼうって。だからお兄ちゃんもどうかなって」

 やはりか。
 ココ数日のゴタゴタと、この風霞のぎこちなさを思えば、流石に想像がつく。
 風霞としても、クラスメイトとの関係もあるから断り切れなかったのだろう。
 しかし、まぁ……。さしたる予定があるわけではないのも事実だ。
 だから、僕は彼女の要請に首を縦に振らざるを得ない。

「……いいよ。場所はどこだ?」
「へ?」

 僕が応えると、風霞はあっけに取られたような顔をする。

「『へ?』じゃないだろ? 場所はどこだって聞いてるんだ」
「あ、そっか。ごめん……。場所は駅前のカラオケだよ」
「カラオケって……。またエラく急だな」
「だ、だよねっ! ホントに……」

 そう言うと、再び風霞の表情は沈む。
 しかし、次の瞬間には意を決したように僕に向き直る。

「お兄ちゃん? 無理しないでいいよ? 何かさ。私上手く言えないんだけど、凄い嫌な予感するんだよね」
「まぁ……、嫌な予感がするのは僕も一緒だよ」
「だよねっ! だからさ。麻浦先輩には私が言っとくからさ。土曜日は私一人で」 
 
 風霞は、まるで僕のその反応を待っていたかのように話し出す。
 でも、それは駄目だ。
 彼女の様子を見るに、事態が良い方向に進んでいるとは思えない。
 偶然とは言え、ある意味で僕が招いた面倒ゴトだ。
 詳しいことは分からないが、風霞を矢面に立たせるわけにはいかない。
 
「いや。僕も行く。行かなきゃだめ、だと思う」
「そ、そう……」

 そう呟く風霞は、どこか口惜しそうな様子だ。
 その反応はないだろう。
 せっかく風霞への被害を最小限に抑えようというのに。
 しかし、ここで腹を立てたところで何も生まない。
 無闇やたらな諍いは起こすべきではない。

「……とりあえず、詳しい時間が決まったら教えてくれ」
「う、うん。分かった」

 それだけ言い残すと、風霞は下を向きながらそそくさと自分の部屋に戻っていった。
 僕はそんな彼女の後ろ姿を見て、思わず溜息を漏らしてしまう。
 しかし、分からないのは麻浦先輩の目的だ。
 あの人は一体何がしたいのだろうか。
 底知れぬ恐怖を感じながらも、僕はいつものように盛り付けされた料理を食卓に並べた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

降る雪は沈む蒼の心を優しく包む〜冴えない根暗な陰キャぼっちの成り上がりリア充化プロジェクト〜

朔月カイト
恋愛
三年前に起きたある事件により心に大きな傷を負って、家族と近しい者以外には心を閉ざしてしまい、周りから遠ざけられるようになってしまった緋本蒼介。 高校二年生になってもそれは変わらず、ひっそりと陰に潜む様にして生活していた蒼介だが、ネット上で知り合ったある人物とオフ会をする事になり、その出会いが、彼の暗い高校生活を一変させる転機となる。 果たして彼は、見事に成り上がって立派なリア充になる事が出来るのか──。 冴えない根暗な陰キャぼっちのサクセスストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...