27 / 54
僕の痛み⑥・回想
しおりを挟む
「おっ! 来てくれたんだね。燈輝くん」
時間は容赦なく流れ、その日は訪れる。
僕と風霞が集合場所の駅に着くなり、麻浦先輩は白々しくも歓迎の言葉を投げかけてくる。
「おひさ~。ってそうでもないか。今日はヨロシクね~」
駅前花壇の縁に腰掛ける須磨先輩は、僕たちに気付くなり、少しだけ顔を上げる。
しかし、すぐにスマホの画面に目を落としてしまう。
彼女の他には、能登とその取り巻きの一人。
あとは恐らく、風霞のクラスメイトと思われる男子生徒2名が居た。
「……よし。じゃあメンバーも揃ったし、行こうか!」
「オッケー! アタシ、カラオケとかチョー久しぶりかも!」
麻浦先輩の呼びかけに須磨先輩は立ち上がり、軽快な足取りで歩き出す。
「じゃあ俺たちも行こうか」
麻浦先輩の号令で、他のメンバーもようやく動き出す。
僕と風霞も、須磨先輩たちの後を追おうとすると、不意に麻浦先輩が近付いてくる。
「やっぱりキミは来ると思ったよ」
耳元でそう呟かれた瞬間、僕の足は止まる。
そんな僕を見て麻浦先輩はほくそ笑み、須磨先輩たちの後に続いた。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
僕の異変に気付いた風霞は心配そうに、顔を覗き込んでくる。
「い、いや。何でもない……」
彼女の言葉に我に返った僕は、咄嗟に取り繕う。
「あ、あのさ! お兄ちゃん……」
「い、行くぞ!」
「え? う、うん……」
一度、この場へ来てしまったからには、後の祭りだ。
今ここで引き返す方が、後に禍根を残す。
そう自分に言い聞かせ、先輩たちの後を追った。
「じゃあ、次! 風霞ちゃんね!」
「は、はい!」
「え!? まじ!? 風霞、歌うの!? じゃあ一緒にコレ歌おうぜ!」
「バカ! お前、ソレ軍歌だろ! んなモン天ヶ瀬に歌わせんな!」
「ちょっとー? そういう思想の強い歌はシラけるから禁止ぃー! お姉さん許さないぞー!」
カラオケ店に着き、何が始まるのかと身構えたものの、何のことはない。
入室から早一時間。
気味が悪いくらい、皆普通にカラオケを楽しんでいる。
初めの内はぎこちなかった空気も、主に須磨先輩の扇動によってある程度、場は温まっている。
風霞にしても、流れとは言え、ああしてマイクを握ろうとしているのもその証拠だ。
所詮は、単純な中学生・高校生だ。
長いものには巻かれるというか、何となくでその場の雰囲気に流されてしまうのだろう。
しかし……、場の雰囲気に同化しやすいということは、逆もまた然りということだ。
「燈輝くん。楽しんでる?」
麻浦先輩は、一人警戒する僕を見逃さないとばかりに声を掛けてくる。
「は、はい。まぁ……」
「そっか。それは良かった」
それだけ言うと、麻浦先輩は黙りこくる。
彼の意図を掴めないまま、時間だけが過ぎる。
まるで僕と麻浦先輩だけ、この空間から切り離されたような感覚だ。
どうにも辛抱できなくなり、僕はずっと気になっていたことを聞いてみることにした。
「あのっ! 麻浦せ」
「お父さんとお母さん、共働きなんだって?」
僕の言葉は、無残にも遮られる。
しかし、意図せずも僕の目的も果たせそうな質問内容だった。
「は、はい。そうですね。詳しいことは知りませんけど……。二人とも同じ会社としか……」
「そっか。大変なんだね」
麻浦先輩は神妙な顔つきになる。
ますます分からない。
彼は、麻浦先輩は、一体僕から何を引き出したいのだろうか。
「い、いえ。大変と言うほどでも……」
「ふーん。でもさ。そうなると、家のこととか全部キミたちでやってるんだろ?」
「ま、まぁそうですね。食事は基本的に僕で、風霞にはたまに掃除をお願いしてる……、て感じですかね?」
「そうなんだ。燈輝くん、偉いんだね」
麻浦先輩は、これまでの僕の労をねぎらうかのように、優しい笑みを浮かべて言う。
上手くは表現できない。
敢えて言うなら、どうにもむず痒い。
普段褒められ慣れていないせいか。
もしくは、予想外の人物からその言葉を聞いたせいか。
「べ、別に。兄貴だから当然です」
「兄貴だから、ねぇ」
麻浦先輩はそう呟くと、また目を細め、どこか薄暗い視線を浴びせてくる。
「そう。キミが風霞ちゃんのお兄ちゃんで良かった」
麻浦先輩が小さくそう漏らした時、僕は激しい悪寒を覚える。
「あ、あの、先輩はどうして……」
「ちょっと蓮哉に燈輝くぅ~ん!? さっきから全然歌ってないじゃん!」
その時。
須磨先輩はいつまでも宴会に参加しない僕たちを咎めてくる。
「あ? バレた? ごめんごめん。そうだ! 皆、お腹減らない? そろそろお昼にしようよ。ココ、食事のメニューも充実してるみたいだしね!」
「あ! 誤魔化した! 蓮哉、ホントに逃げるのウマいよね~」
須磨先輩はそう言いながらも、嬉々とした表情でメニューを手に取り、眺め始めた。
「さ! 燈輝くんも食べよ! ここの料理、美味しいよ!」
何事もなかったかのようにそう振る舞う麻浦先輩は、僕には酷く歪に見えた。
「ふぅ。割と本格的でウマかったね」
「ホントホント! アタシ、カラオケでこんなガッツリ食べると思わなかったし!」
コースメニューは、ピザやパスタといった主食から、ポテトやローストビーフなどのオードブル・スイーツまで一通り網羅されていて、成長期の中高生にはとって申し分ない内容ではあった。
皆、麻浦先輩や須磨先輩の言葉通り、ガサツに並べられた空き皿の前で舌鼓を打っている。
そんな中、僕には食事を楽しむような余裕はなかった。
有り体な言い方をすれば、何を食べても味がしない。
風霞も僕の様子を見て何かを察したのか、目の前の料理にほとんど手を付けていない。
もちろん、それに気付かない麻浦先輩ではない。
「あれ? 風霞ちゃん。全然食べてないみたいだけど、大丈夫?」
「へ!? は、はい。実は、朝ごはん食べ過ぎちゃって……。はは」
麻浦先輩に不意打ちを食らった風霞は、苦笑しながらも何とか取り繕う。
「そうなんだ。食事は、燈輝くんが作ってるんだって?」
「は、はい。そうなんです。毎食、兄が……」
風霞はそう言うと、何故か顔を俯かせる。
「ん? どうしたの? 風霞ちゃん」
麻浦先輩は、風霞の顔を心配そうに覗き込む。
「い、いえ! そうなんです。ずっと兄に頼りっきりで……」
「そっか。お父さんたち、忙しいんだって?」
「は、はい。共働きで、二人とも帰りが遅くて……」
麻浦先輩は、流れのまま我が家について根掘り葉掘り聞き始める。
僕からも聞いた話を、何故わざわざ風霞にも聞くのだろうか。
第一、そんな他人様の家庭事情に誰も興味はないはずだ。
事実、須磨先輩は二人の会話に対して『へぇー』などと相槌を打ってはいるものの、その視線は手元のスマホに向かっており、全く関心はなさそうだ。
他のメンバーも似たり寄ったり、といった感じか。
ただ一人。能登だけは、そんな麻浦先輩の姿をどこか苦々しい表情で見ていた。
「大変なんだね。それでさ。ちょっとそのことで、燈輝くんたちに聞きたいことがあるんだよね……」
その瞬間、麻浦先輩の雰囲気は急変する。
それに合わせるように、これまでの和やかな空気は一変した。
露骨に声のトーンも低く、どう贔屓目に見ても良い話ではなさそうだ。
須磨先輩までもが、手持ちのスマホをテーブルに置いたことも、それを良く物語っている。
「あのさ、燈輝くん。キミについて、ちょっと良くない話っていうかさ……。一応、確認しておきたいことがあるんだ」
いよいよ、か……。
「……能登が言っていたこと、ですか?」
「あれ? ひょっとしてもう聞いてるの?」
「は、はい。まぁ」
すると、麻浦先輩は能登を鋭い視線で睨む。
「能登! ダメだろっ! 無神経にベラベラとっ!」
「す、すんません! どうしても気になって……」
麻浦先輩の叱咤に、能登は身をすくめて謝る。
「ごめんね、燈輝くん。能登が勝手なことして」
「い、いえ。別にそれは……。そ、それであの話って一体」
「ちょっとー!? イイ加減にしてくんない!? アタシたちずっと置いてけぼりなんだけど!? ねぇみんな!」
突如、須磨先輩が大声を上げ、僕の問いかけは遮られる。
彼女に触発された他の面々も、互いに目配せしながら、須磨先輩の言葉に頷く。
「そうだったね。ごめんごめん。じゃあ燈輝くん、いいかな?」
麻浦先輩は、僕に許可を求めてくる。
果たして、この場で話すべきことなのか。
事実無根であるにしろ、この様子を見る限り、知っているのは能登とその周辺の一部だけだろう。
風霞にしても、公にしたところでメリットは何もない。
僕は最後の抵抗を試みることにした。
「いや、やっぱりこの場で話さなくても……。皆さんに聞かせるような話でもないですし」
「俺もそう思うんだけどね。たださ。泉純。あぁなったら、話すまで許してくれないだろうし……。それは何となく分かるだろ?」
困ったように笑いながら、麻浦先輩は言う。
これは完全にやられた。
役割分担など、端から完璧に出来ていたのだろう。
「それにさ。もし事実だったらさ……。俺も許せないしね」
麻浦先輩は畳みかけるように、僕にその冷めた視線を突き刺す。
「……わかりました」
僕の返答に、麻浦先輩は頷くでもなく、ただただ淡々と話し始める。
……余計な心配は無用だ。
僕が無実であることに変わりはない。
幸いにも、この場には風霞という最大の証人がいる。
冷静に一つ一つ、誤解を解いていけばいいだけの話だ。
それにしても、腑に落ちない。
麻浦先輩はどういう意図で、この嘘を流布しようとしているのだろうか。
時間は容赦なく流れ、その日は訪れる。
僕と風霞が集合場所の駅に着くなり、麻浦先輩は白々しくも歓迎の言葉を投げかけてくる。
「おひさ~。ってそうでもないか。今日はヨロシクね~」
駅前花壇の縁に腰掛ける須磨先輩は、僕たちに気付くなり、少しだけ顔を上げる。
しかし、すぐにスマホの画面に目を落としてしまう。
彼女の他には、能登とその取り巻きの一人。
あとは恐らく、風霞のクラスメイトと思われる男子生徒2名が居た。
「……よし。じゃあメンバーも揃ったし、行こうか!」
「オッケー! アタシ、カラオケとかチョー久しぶりかも!」
麻浦先輩の呼びかけに須磨先輩は立ち上がり、軽快な足取りで歩き出す。
「じゃあ俺たちも行こうか」
麻浦先輩の号令で、他のメンバーもようやく動き出す。
僕と風霞も、須磨先輩たちの後を追おうとすると、不意に麻浦先輩が近付いてくる。
「やっぱりキミは来ると思ったよ」
耳元でそう呟かれた瞬間、僕の足は止まる。
そんな僕を見て麻浦先輩はほくそ笑み、須磨先輩たちの後に続いた。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
僕の異変に気付いた風霞は心配そうに、顔を覗き込んでくる。
「い、いや。何でもない……」
彼女の言葉に我に返った僕は、咄嗟に取り繕う。
「あ、あのさ! お兄ちゃん……」
「い、行くぞ!」
「え? う、うん……」
一度、この場へ来てしまったからには、後の祭りだ。
今ここで引き返す方が、後に禍根を残す。
そう自分に言い聞かせ、先輩たちの後を追った。
「じゃあ、次! 風霞ちゃんね!」
「は、はい!」
「え!? まじ!? 風霞、歌うの!? じゃあ一緒にコレ歌おうぜ!」
「バカ! お前、ソレ軍歌だろ! んなモン天ヶ瀬に歌わせんな!」
「ちょっとー? そういう思想の強い歌はシラけるから禁止ぃー! お姉さん許さないぞー!」
カラオケ店に着き、何が始まるのかと身構えたものの、何のことはない。
入室から早一時間。
気味が悪いくらい、皆普通にカラオケを楽しんでいる。
初めの内はぎこちなかった空気も、主に須磨先輩の扇動によってある程度、場は温まっている。
風霞にしても、流れとは言え、ああしてマイクを握ろうとしているのもその証拠だ。
所詮は、単純な中学生・高校生だ。
長いものには巻かれるというか、何となくでその場の雰囲気に流されてしまうのだろう。
しかし……、場の雰囲気に同化しやすいということは、逆もまた然りということだ。
「燈輝くん。楽しんでる?」
麻浦先輩は、一人警戒する僕を見逃さないとばかりに声を掛けてくる。
「は、はい。まぁ……」
「そっか。それは良かった」
それだけ言うと、麻浦先輩は黙りこくる。
彼の意図を掴めないまま、時間だけが過ぎる。
まるで僕と麻浦先輩だけ、この空間から切り離されたような感覚だ。
どうにも辛抱できなくなり、僕はずっと気になっていたことを聞いてみることにした。
「あのっ! 麻浦せ」
「お父さんとお母さん、共働きなんだって?」
僕の言葉は、無残にも遮られる。
しかし、意図せずも僕の目的も果たせそうな質問内容だった。
「は、はい。そうですね。詳しいことは知りませんけど……。二人とも同じ会社としか……」
「そっか。大変なんだね」
麻浦先輩は神妙な顔つきになる。
ますます分からない。
彼は、麻浦先輩は、一体僕から何を引き出したいのだろうか。
「い、いえ。大変と言うほどでも……」
「ふーん。でもさ。そうなると、家のこととか全部キミたちでやってるんだろ?」
「ま、まぁそうですね。食事は基本的に僕で、風霞にはたまに掃除をお願いしてる……、て感じですかね?」
「そうなんだ。燈輝くん、偉いんだね」
麻浦先輩は、これまでの僕の労をねぎらうかのように、優しい笑みを浮かべて言う。
上手くは表現できない。
敢えて言うなら、どうにもむず痒い。
普段褒められ慣れていないせいか。
もしくは、予想外の人物からその言葉を聞いたせいか。
「べ、別に。兄貴だから当然です」
「兄貴だから、ねぇ」
麻浦先輩はそう呟くと、また目を細め、どこか薄暗い視線を浴びせてくる。
「そう。キミが風霞ちゃんのお兄ちゃんで良かった」
麻浦先輩が小さくそう漏らした時、僕は激しい悪寒を覚える。
「あ、あの、先輩はどうして……」
「ちょっと蓮哉に燈輝くぅ~ん!? さっきから全然歌ってないじゃん!」
その時。
須磨先輩はいつまでも宴会に参加しない僕たちを咎めてくる。
「あ? バレた? ごめんごめん。そうだ! 皆、お腹減らない? そろそろお昼にしようよ。ココ、食事のメニューも充実してるみたいだしね!」
「あ! 誤魔化した! 蓮哉、ホントに逃げるのウマいよね~」
須磨先輩はそう言いながらも、嬉々とした表情でメニューを手に取り、眺め始めた。
「さ! 燈輝くんも食べよ! ここの料理、美味しいよ!」
何事もなかったかのようにそう振る舞う麻浦先輩は、僕には酷く歪に見えた。
「ふぅ。割と本格的でウマかったね」
「ホントホント! アタシ、カラオケでこんなガッツリ食べると思わなかったし!」
コースメニューは、ピザやパスタといった主食から、ポテトやローストビーフなどのオードブル・スイーツまで一通り網羅されていて、成長期の中高生にはとって申し分ない内容ではあった。
皆、麻浦先輩や須磨先輩の言葉通り、ガサツに並べられた空き皿の前で舌鼓を打っている。
そんな中、僕には食事を楽しむような余裕はなかった。
有り体な言い方をすれば、何を食べても味がしない。
風霞も僕の様子を見て何かを察したのか、目の前の料理にほとんど手を付けていない。
もちろん、それに気付かない麻浦先輩ではない。
「あれ? 風霞ちゃん。全然食べてないみたいだけど、大丈夫?」
「へ!? は、はい。実は、朝ごはん食べ過ぎちゃって……。はは」
麻浦先輩に不意打ちを食らった風霞は、苦笑しながらも何とか取り繕う。
「そうなんだ。食事は、燈輝くんが作ってるんだって?」
「は、はい。そうなんです。毎食、兄が……」
風霞はそう言うと、何故か顔を俯かせる。
「ん? どうしたの? 風霞ちゃん」
麻浦先輩は、風霞の顔を心配そうに覗き込む。
「い、いえ! そうなんです。ずっと兄に頼りっきりで……」
「そっか。お父さんたち、忙しいんだって?」
「は、はい。共働きで、二人とも帰りが遅くて……」
麻浦先輩は、流れのまま我が家について根掘り葉掘り聞き始める。
僕からも聞いた話を、何故わざわざ風霞にも聞くのだろうか。
第一、そんな他人様の家庭事情に誰も興味はないはずだ。
事実、須磨先輩は二人の会話に対して『へぇー』などと相槌を打ってはいるものの、その視線は手元のスマホに向かっており、全く関心はなさそうだ。
他のメンバーも似たり寄ったり、といった感じか。
ただ一人。能登だけは、そんな麻浦先輩の姿をどこか苦々しい表情で見ていた。
「大変なんだね。それでさ。ちょっとそのことで、燈輝くんたちに聞きたいことがあるんだよね……」
その瞬間、麻浦先輩の雰囲気は急変する。
それに合わせるように、これまでの和やかな空気は一変した。
露骨に声のトーンも低く、どう贔屓目に見ても良い話ではなさそうだ。
須磨先輩までもが、手持ちのスマホをテーブルに置いたことも、それを良く物語っている。
「あのさ、燈輝くん。キミについて、ちょっと良くない話っていうかさ……。一応、確認しておきたいことがあるんだ」
いよいよ、か……。
「……能登が言っていたこと、ですか?」
「あれ? ひょっとしてもう聞いてるの?」
「は、はい。まぁ」
すると、麻浦先輩は能登を鋭い視線で睨む。
「能登! ダメだろっ! 無神経にベラベラとっ!」
「す、すんません! どうしても気になって……」
麻浦先輩の叱咤に、能登は身をすくめて謝る。
「ごめんね、燈輝くん。能登が勝手なことして」
「い、いえ。別にそれは……。そ、それであの話って一体」
「ちょっとー!? イイ加減にしてくんない!? アタシたちずっと置いてけぼりなんだけど!? ねぇみんな!」
突如、須磨先輩が大声を上げ、僕の問いかけは遮られる。
彼女に触発された他の面々も、互いに目配せしながら、須磨先輩の言葉に頷く。
「そうだったね。ごめんごめん。じゃあ燈輝くん、いいかな?」
麻浦先輩は、僕に許可を求めてくる。
果たして、この場で話すべきことなのか。
事実無根であるにしろ、この様子を見る限り、知っているのは能登とその周辺の一部だけだろう。
風霞にしても、公にしたところでメリットは何もない。
僕は最後の抵抗を試みることにした。
「いや、やっぱりこの場で話さなくても……。皆さんに聞かせるような話でもないですし」
「俺もそう思うんだけどね。たださ。泉純。あぁなったら、話すまで許してくれないだろうし……。それは何となく分かるだろ?」
困ったように笑いながら、麻浦先輩は言う。
これは完全にやられた。
役割分担など、端から完璧に出来ていたのだろう。
「それにさ。もし事実だったらさ……。俺も許せないしね」
麻浦先輩は畳みかけるように、僕にその冷めた視線を突き刺す。
「……わかりました」
僕の返答に、麻浦先輩は頷くでもなく、ただただ淡々と話し始める。
……余計な心配は無用だ。
僕が無実であることに変わりはない。
幸いにも、この場には風霞という最大の証人がいる。
冷静に一つ一つ、誤解を解いていけばいいだけの話だ。
それにしても、腑に落ちない。
麻浦先輩はどういう意図で、この嘘を流布しようとしているのだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』
本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」
かつて、私は信じていた。
優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な──
そんな普通のお兄ちゃんを。
でも──
中学卒業の春、
帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、
私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった!
家では「戦利品だー!」と絶叫し、
年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、
さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!?
……ちがう。
こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない!
たとえ、世界中がオタクを称えたって、
私は、絶対に──
お兄ちゃんを“元に戻して”みせる!
これは、
ブラコン妹と
中二病オタク姫が、
一人の「兄」をめぐって
全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──!
そしていつしか、
誰も予想できなかった
本当の「大好き」のカタチを探す、
壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
降る雪は沈む蒼の心を優しく包む〜冴えない根暗な陰キャぼっちの成り上がりリア充化プロジェクト〜
朔月カイト
恋愛
三年前に起きたある事件により心に大きな傷を負って、家族と近しい者以外には心を閉ざしてしまい、周りから遠ざけられるようになってしまった緋本蒼介。
高校二年生になってもそれは変わらず、ひっそりと陰に潜む様にして生活していた蒼介だが、ネット上で知り合ったある人物とオフ会をする事になり、その出会いが、彼の暗い高校生活を一変させる転機となる。
果たして彼は、見事に成り上がって立派なリア充になる事が出来るのか──。
冴えない根暗な陰キャぼっちのサクセスストーリー。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる