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第2話 謁見とファンサービス
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王との謁見は半年ぶりか。
1年の長い眠りから覚めた後、その報告へ行ったのが最後だ。
決して避けていたわけではない。
単純にさしたる用事がなかっただけだ。王も、俺も。
当然のことだ。
今や誰もが腫物扱いする俺に掛ける言葉など『復調に期待しているぞ』だの『世界を救えるのはお主だけだ』だの気休め程度の慰め文句くらいだろう。
むしろ、避けていたのは王の方かもしれない。
謁見の間で跪きながら、アレコレと思考する。
自分でも自覚している。
近頃、他人の言動の真意を異常なまでに気にするようになった。
つくづく、嫌な人間になったものだ。
立場や境遇は、こうも人を変えてしまうものなのか。
何ら生産性のない自己分析に飽きてきた頃、王が大臣を連れて謁見の間へ現れた。
入り口からのそのそと時間をかけ、跪く俺の前を通り過ぎる。
そして、ようやく玉座の前に辿り着き、ゆっくりとその席に腰を下ろす。
見る限り大分、草臥れている様子だ。
心なしか半年前よりも老け込んだか?
無理もない。
暫定勇者パーティー(笑)が順調とは言え、俺の失態により当初の討伐計画は大幅に遅れている。
この一年、そのしわ寄せに相当苦しんでいるのだろう。
王のその様子を目の当たりにし、一抹の罪悪感を抱きながらも俺は下げていた頭を一層下げ、王の言葉を待った。
「久しいな。勇者・マルク。その後、息災であったか」
「はい。おかげさまで、恙なく過ごしております」
「そうか。それは何よりじゃ」
そう言うと、王はしばらくの間沈黙した。
どうした?
そっちが呼びつけたんだろうが。
久しぶりの再会による気まずさも相まって、俺は早くも痺れを切らしかけていた。
「それで……、本日はどういったご用件で?」
「うむ、そのことなんだが……」
またしても王は言い淀む。
すると、横から大臣が口を挟んでくる。
「勇者・マルク。あなたにはこれより死霊の洞窟へ向かっていただきます」
「へっ!? そこは確か……」
「はい。3ヶ月前、暫定勇者パーティーが洞窟の主・ネクロマンサーを倒して以来、周囲の村々が死霊たちに脅かされることはなくなりました。しかし、諜報部隊の報告によれば、どうやら除霊に漏れがあったらしい、と。死霊の絶対数は少ないので、すぐに人々の脅威になることは考えにくいのですが、何分状況が状況ですので……。国としては出来るだけ先手先手を打っておきたいのです」
この大臣は相変わらず嫌味な言い方をする。
勝手に期待して、勝手に失望したのはお前らだろうが。
「……ということだ。行ってくれるな?」
王は、いかにも申し訳なさそうな表情で言う。
「……ご命令とあれば、従わない理由はありません」
「そうか。すまない」
「これは旅の餞別です。お受け取り下さい」
大臣は淡々と事務的に、金貨が入っているであろう巾着袋を手渡してきた。
「では、健闘を祈る。行け! 勇者・マルク!」
王にとっても、これ以上落ちぶれた俺を見るのは心苦しいのだろう。
用件を伝え終えるやいなや、半ば追い出すように俺を送り出した。
「クソ! クソッッ!! クソッッッ!!! どいつもこいつも馬鹿にしやがって!」
城門を出るなり人目も憚らず、地団駄を踏む。
近くにいる門番の視線を気にする余裕など、今の俺にはなかった。
どうして俺があの模造品どもの尻拭いをしなければならないんだ?
ガキの使いもいいところだ。
しかし、理屈では分かっている。
尻拭いをしているのは、アイツらの方だ。
俺が失態を犯さなければ、こうしてアイツらが駆り出されることもなかった。
「あの……、マルク様、ですか?」
嫌な場面で声を掛けてくる。
誰だ?
聞き慣れぬ声がする方向に恐る恐る首を向ける。
振り向くと、俺と同年代くらいの少女がキラキラとした瞳でこちらを興味深そうに見ていた。
薄緑色のローブという服装から察するに魔導士の見習いか何かだろう。
「そうだが……、アンタは?」
「私、あなたの大ファンなんです! えっと……、とりあえず握手してもらえますか!?」
出たよ……、こういうの。
とりあえずって何だ、とりあえずって。
ちょっと前だったら、新しい街へ立ち寄るたびにこういった輩には死ぬほど絡まれたものだったが、近頃とんとご無沙汰だった。
だから、まぁ、つまり……、ぶっちゃけチョット嬉しいと思ってしまった。
さて、こういう類の奴らを無下にすることは非常に危険な行為だ。
具体的には、『何かあの勇者お高く止まってるわりに、今じゃ落ちぶれてコボルト(小柄で犬の頭部と人間の体を持った低級モンスター)とトントンらしいわよ。はず―』といった具合にやや脚色された事実が広まってしまう恐れがある。
これはパーティーの士気に関わる由々しき事態だ。
だから、俺は彼女の要求に応じることにする。
決して、久々にチヤホヤされて、浮ついた気分になっているわけではない。
「まぁ、握手くらいなら……」
「ホントですかっ!? やった! この手は来世まで洗いません!」
彼女がお決まりの文句を言うと、俺は差し出された左手を軽く握った。
この感覚、久しぶりだ……。
そして柔らかい! まぁそれはどうでもいい。
「私、この城下町で魔導士をやってるフィリっていいます! ちなみに年齢は17歳!」
握手を終えると、彼女は自己紹介へ移る。
俺やクルーグ、ルイスの一つ下か。
「あまり見ない顔だな。最近、越してきたのか?」
「はい! 元々エンゲルの街で宿屋を営んでいたんですけど、マルク様が帰還されたという噂を聞いたので、居ても立っても居られず……」
と、彼女は何故か顔を赤らめながら話す。
そりゃ大層ストイックなミーハーだ。
今の俺にそこまでの価値があるのかは大いに疑問だが……。
「熱烈なアピールは結構だが、生憎俺はアンタの特大な期待に応えられるほどのファンサービスは出来そうにない」
「いえっ! そんなファンサービスなんて! ただ、折り入ってマルク様にはお願いがあるんです!」
やはりか。
何が目的だ、この女。
しかし言わずもがな、ここで彼女の要求を頭ごなしに否定するのも危険だ。
一応話だけは聞いてやるとするか。
「……まぁ、無理がない範囲でなら」
「では……、私をマルク様のパーティーに加えていただけませんか!?」
1年の長い眠りから覚めた後、その報告へ行ったのが最後だ。
決して避けていたわけではない。
単純にさしたる用事がなかっただけだ。王も、俺も。
当然のことだ。
今や誰もが腫物扱いする俺に掛ける言葉など『復調に期待しているぞ』だの『世界を救えるのはお主だけだ』だの気休め程度の慰め文句くらいだろう。
むしろ、避けていたのは王の方かもしれない。
謁見の間で跪きながら、アレコレと思考する。
自分でも自覚している。
近頃、他人の言動の真意を異常なまでに気にするようになった。
つくづく、嫌な人間になったものだ。
立場や境遇は、こうも人を変えてしまうものなのか。
何ら生産性のない自己分析に飽きてきた頃、王が大臣を連れて謁見の間へ現れた。
入り口からのそのそと時間をかけ、跪く俺の前を通り過ぎる。
そして、ようやく玉座の前に辿り着き、ゆっくりとその席に腰を下ろす。
見る限り大分、草臥れている様子だ。
心なしか半年前よりも老け込んだか?
無理もない。
暫定勇者パーティー(笑)が順調とは言え、俺の失態により当初の討伐計画は大幅に遅れている。
この一年、そのしわ寄せに相当苦しんでいるのだろう。
王のその様子を目の当たりにし、一抹の罪悪感を抱きながらも俺は下げていた頭を一層下げ、王の言葉を待った。
「久しいな。勇者・マルク。その後、息災であったか」
「はい。おかげさまで、恙なく過ごしております」
「そうか。それは何よりじゃ」
そう言うと、王はしばらくの間沈黙した。
どうした?
そっちが呼びつけたんだろうが。
久しぶりの再会による気まずさも相まって、俺は早くも痺れを切らしかけていた。
「それで……、本日はどういったご用件で?」
「うむ、そのことなんだが……」
またしても王は言い淀む。
すると、横から大臣が口を挟んでくる。
「勇者・マルク。あなたにはこれより死霊の洞窟へ向かっていただきます」
「へっ!? そこは確か……」
「はい。3ヶ月前、暫定勇者パーティーが洞窟の主・ネクロマンサーを倒して以来、周囲の村々が死霊たちに脅かされることはなくなりました。しかし、諜報部隊の報告によれば、どうやら除霊に漏れがあったらしい、と。死霊の絶対数は少ないので、すぐに人々の脅威になることは考えにくいのですが、何分状況が状況ですので……。国としては出来るだけ先手先手を打っておきたいのです」
この大臣は相変わらず嫌味な言い方をする。
勝手に期待して、勝手に失望したのはお前らだろうが。
「……ということだ。行ってくれるな?」
王は、いかにも申し訳なさそうな表情で言う。
「……ご命令とあれば、従わない理由はありません」
「そうか。すまない」
「これは旅の餞別です。お受け取り下さい」
大臣は淡々と事務的に、金貨が入っているであろう巾着袋を手渡してきた。
「では、健闘を祈る。行け! 勇者・マルク!」
王にとっても、これ以上落ちぶれた俺を見るのは心苦しいのだろう。
用件を伝え終えるやいなや、半ば追い出すように俺を送り出した。
「クソ! クソッッ!! クソッッッ!!! どいつもこいつも馬鹿にしやがって!」
城門を出るなり人目も憚らず、地団駄を踏む。
近くにいる門番の視線を気にする余裕など、今の俺にはなかった。
どうして俺があの模造品どもの尻拭いをしなければならないんだ?
ガキの使いもいいところだ。
しかし、理屈では分かっている。
尻拭いをしているのは、アイツらの方だ。
俺が失態を犯さなければ、こうしてアイツらが駆り出されることもなかった。
「あの……、マルク様、ですか?」
嫌な場面で声を掛けてくる。
誰だ?
聞き慣れぬ声がする方向に恐る恐る首を向ける。
振り向くと、俺と同年代くらいの少女がキラキラとした瞳でこちらを興味深そうに見ていた。
薄緑色のローブという服装から察するに魔導士の見習いか何かだろう。
「そうだが……、アンタは?」
「私、あなたの大ファンなんです! えっと……、とりあえず握手してもらえますか!?」
出たよ……、こういうの。
とりあえずって何だ、とりあえずって。
ちょっと前だったら、新しい街へ立ち寄るたびにこういった輩には死ぬほど絡まれたものだったが、近頃とんとご無沙汰だった。
だから、まぁ、つまり……、ぶっちゃけチョット嬉しいと思ってしまった。
さて、こういう類の奴らを無下にすることは非常に危険な行為だ。
具体的には、『何かあの勇者お高く止まってるわりに、今じゃ落ちぶれてコボルト(小柄で犬の頭部と人間の体を持った低級モンスター)とトントンらしいわよ。はず―』といった具合にやや脚色された事実が広まってしまう恐れがある。
これはパーティーの士気に関わる由々しき事態だ。
だから、俺は彼女の要求に応じることにする。
決して、久々にチヤホヤされて、浮ついた気分になっているわけではない。
「まぁ、握手くらいなら……」
「ホントですかっ!? やった! この手は来世まで洗いません!」
彼女がお決まりの文句を言うと、俺は差し出された左手を軽く握った。
この感覚、久しぶりだ……。
そして柔らかい! まぁそれはどうでもいい。
「私、この城下町で魔導士をやってるフィリっていいます! ちなみに年齢は17歳!」
握手を終えると、彼女は自己紹介へ移る。
俺やクルーグ、ルイスの一つ下か。
「あまり見ない顔だな。最近、越してきたのか?」
「はい! 元々エンゲルの街で宿屋を営んでいたんですけど、マルク様が帰還されたという噂を聞いたので、居ても立っても居られず……」
と、彼女は何故か顔を赤らめながら話す。
そりゃ大層ストイックなミーハーだ。
今の俺にそこまでの価値があるのかは大いに疑問だが……。
「熱烈なアピールは結構だが、生憎俺はアンタの特大な期待に応えられるほどのファンサービスは出来そうにない」
「いえっ! そんなファンサービスなんて! ただ、折り入ってマルク様にはお願いがあるんです!」
やはりか。
何が目的だ、この女。
しかし言わずもがな、ここで彼女の要求を頭ごなしに否定するのも危険だ。
一応話だけは聞いてやるとするか。
「……まぁ、無理がない範囲でなら」
「では……、私をマルク様のパーティーに加えていただけませんか!?」
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